眠りを誘う魔法のミルク
ミルクの新製品、ナイトミルクが街の小売店で見かけられるようになった。牛小屋で朝早く、太陽の光が入らないようにして、乳を搾る。こうすると、眠りを誘うメラトニンがミルクに多く含まれることが発見され、スイスでも生産されるようになった。
メラトニンは夜の間に脳内で分泌され、睡眠を助けるホルモン。日本でも軽い睡眠不全の人に向けて、メラトニンの錠剤が売られている。一方、ナイトミルクに含まれるメラトニンの量は微々たるものであるとチューリヒ州の食品衛生化学分析局は、ナイトミルクが眠りを誘うという効用については、疑問だという。
ベティナ・シュプリンガーさんがチューリヒ郊外にあるベットリホーフ農場を引き継いだのは2年前のこと。広さは12ヘクタールで16頭の牛がいる。家畜は放牧され、牧草には農薬を一切使わない、いわゆる有機酪農で農場を運営する。彼女は、英国やフィンランドで既に生産されているナイトミルクの存在を知り、自分の農場でも真似することにした。毎日の生産量は100リットルまで上がり、ビジネスは軌道に乗った。今では、街の健康食品を専門に扱う店でよく見かける。
「光だけがポイントなのです」とその秘密を明かすシュプリンガーさん。真っ暗なところで絞られたミルクなら、メラトニンが通常の5倍は含まれているという。
真っ暗闇で搾る
ベットリホーフ農場の牛たちは、日中は牛小屋から外に出て草を食み、一日2回、乳を搾られる。牛の生活リズムは特別ではないが、普通の乳牛より長い夜を過ごしている。朝5時の乳搾りは、真っ暗な中行われる。乳搾りの作業ができるように、小さな青い電球が4個弱い光を放つのみである。真っ暗なことが重要で、月光に当たるだけでもメラトニンの含有量が減ってしまうことさえあるのだという。
効果については疑問の声も
英国やフィンランドでの成功例を知っているシュプリンガーさんは、ナイトミルクで一旗挙げようと思っている。生産量を上げるため、他の農場との連携も考えている。
一方、チューリヒ州の食品衛生化学分析局は、眠りを誘うという効果には疑問があるという。5月25日付の日刊紙ノイエ・チュルヒャー・ツァイトゥングで同局は「メラトニンの含有量が余りにも少なすぎる。2.5dlのビンで売られているが、1ビンに含まれる量は、薬局で売られているメラトニンの錠剤1個の100万分の1だ」と指摘した。食品に治療効果をうたって販売することは食品法で禁止されており、治療薬としての手続きが踏まれない限り、ナイトミルクも眠りを誘うといううたい文句は使うことができない。
ナイトミルクを扱っているチューリヒ市内の健康食品店パラディースリの店員は、「不眠に悩んでいないので、自分自身は試したことがないが、信じれば効くのでしょう」と眠れるからと言う客で、売れ行きはまずまずと語った。
値段は2.5dlで2.40フラン(約200円)と通常のミルクの5倍以上。小規模農家が大半のスイス。人件費などコストが高く、補助金なしでは経営難になる酪農家が多い中、たった16頭の牛でも採算が合う所に目をつけた、シュプリンガーさんのビジネスセンスは評価されよう。
スイス国際放送 佐藤夕美 (さとうゆうみ)
ベットリホーフ農場のナイトミルクの1日の生産量は100リットル。
真っ暗な小屋で早朝5時にミルクを搾る。
普通のミルクよりメラトニンの含有量が5倍。
眠りを誘うという効力をうたうことは禁じられている。
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