食糧安全保障は複雑な問題
連邦外務省開発協力局のヴァルター・フスト局長は4月17日、スイスの過去15年間の開発協力と今後の方針を明らかにし、特に食糧安全保障問題について多く言及した。
フスト局長は4月末で退任し、アナン前国連事務総長が会長を務める「グローバル人道フォーラム ( Global Humanitarian Forum ) 」で事務局長を務める予定である。
国連の「ミレニアム開発目標」の第1目標、「貧困と飢餓の撲滅」に沿って、連邦外務省開発協力局 ( DEZA/DDC ) は貧困を削減することと、持続的な開発を今後とも目標にし、健康、教育、水、環境、移民、地域とグローバル経済の融合など10項目をテーマに掲げている ( 関連のインタビュー記事を合わせてお読みください )。
開発協力対象国を限定
開発協力対象国に関しては、1994年は24カ国だったが、15年後の2008年には14カ国に、さらに2015年には12カ国に限定される。予算は数年前から毎年5%増えているが、国の数を限定することで、開発協力の質を向上させたいという。
予算の内訳は、66%をこれら14カ国にあて、20%をキューバ、ルワンダなど紛争後の国の安定に、15%をさまざまな国の開発協力、援助にあてる。
また、開発協力の方法に関しても、「ミレニアム開発目標」の第8目標「開発のためのグローバル・パートナーシップの推進」に沿って、スイスと同規模の国が数カ国一緒になり、1つの国の開発に協力していくようにするという。
食糧安全保障
食糧安全保障問題に関しては、開発協力対象国の農業事情を分析する必要があるという。問題が、構造上の問題か、一時的な気候や災害の問題か、政治的問題かを分析し、その国にあった協力を行う必要がある。
実は、途上国の多くが、悪品種を使っていたり、自給用だけを生産しマーケットへの参加を理解していなかったり、採算性の合わない産物を生産し続けていたりといった構造的問題を抱えているという。
「つい最近、ラオスの代表が表敬訪問した際、スイスが18年かけてラオスの米の品種改良に協力し、40%の生産率を110%に伸ばし、輸出できるまでにしたことを感謝してくれました。米を生産しないスイスが協力できたのです」
とフスト局長は誇らしげに語った。
一方、先進国が途上国に輸出補助金を使って農産物を低価格で輸出し、その国の農産物生産を破壊する事実を挙げ、この農産物の輸出補助金をストップすることが大切だと語った。
「ペルーでは、自国産のジャガイモより、イタリアからくるパスタのほうが安く、人々はパスタのほうを買い、自国のジャガイモ生産を抑圧するのです」
さらに、穀物の値段を吊り上げるため、ストックしたりする途上国の行為は人道的に許されないとも語り、経済問題とも関わる食糧安全保障問題での開発協力の複雑さを提示した。
swissinfo、里信邦子 ( さとのぶ くにこ )
連邦外務省開発協力局は連邦外務省に属する。
開発協力相手国での、貧困を削減することと、持続的な開発を目標にし、以下のような10のテーマに沿って、活動を行っている。健康、教育、水、農業と地域の持続的開発、経済と雇用、環境、人権と民主主義、紛争の予防と改善、移民、地域とグローバル経済の融合。
主な開発協力対象国を以下の14カ国に絞っている。ベナン、ブルキナファソ、マリ、ナイジェリア、チャド、モザンビーク、タンザニア、ボリビア、ペルー、ニカラグア、バングラデシュ、ネパール、パキスタン、ベトナム。
スイスと国外を合わせ620人が働いている。開発協力相手国には、約1000人の協力者を抱える。2007年度の年間予算は13億フラン ( 約1300億円) 。
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