「2011年農業政策」 政府案の発表
スイス政府は新しい農業政策として、農産物に対する補助金は段階的に廃止し、農家への直接援助にシフトする方針だ。
このほど発表になった「農業政策2011年」では、08年から11年までの農業の補助金を135億フラン(約1兆1,730億円)とする。04年から07年までの金額より6億3,400万フラン(約550億円)減額されることになる。
スイスの農家にはこれまで、国の援助を受けるのがあたりまえという「伝統」があったが、こうした意識は変えていかなければならなくなる。今後は、国際市場の競争の場に立たされながら、戦うすべを模索するようになる。ヨゼフ・ダイス(Josef Deiss)経済相は「改革に対応するのは困難が伴うが、農業が将来もスイスで存続するためには改革は必要だ」と訴え、政府案は「経済面でも環境保護の観点からも、社会的影響という視点からも責任が持てる政策だ」という。
政府案の内容
農業の構造改革を進めるため政府はまず、コストが他国より大幅にかかるスイス産の農産物の価格を低く抑えるためなど、農産物に対する補助金を大幅に削減する。また、飼料の輸入関税の撤廃、菜種油の加工税の撤廃、チョコレート以外の輸出補助金の全面撤廃を提案。一方、農家の投資への援助の条件の緩和を進める。さらに、飼料などの輸入代理店を通さない並行輸入を認め、農家のコストを全体で1億5,000万フランから2億フラン(約130億円から173億円)まで下げる。
WTOに従うと1週間で40軒が廃業
農業改革により小規模と大規模の農家は厳しい条件に立たされることになる。農家が副業がしやすいような政策を進める一方で、趣味で農業をしているような人には補助金が払われないようにする。廃業する農家についてはそれぞれ援助の手を差し伸べることも考慮される。
政府案が発効すると、農家戸数は年2,000件、すなわち2.5%から3%減少し続けるであろうと見られる。
将来、世界貿易機関(WTO)のドーハラウンドが合意に至ることを見込みスイス政府は、2段階で農業改革を行い、社会的影響をなるべく少なくする方針だ。WTOの合意による影響が出始めるのは2011年ころになると見られる。またスイス-EUの二国間条約でも農作物の自由化が徐々に進められていく方向にある。よって、その変化に対応できるよう、準備は早急にしていかなければならない。特にチーズは重要だとダイス経済相は指摘した。
農協は反対 小規模農家は条件付で賛成
スイスの農業協会(SBV)は、政府から提示された「2011年農業政策」の中で提案されている農家への補助金のカットに反対を表明した。さらに、改革のスピードについても、早すぎると反対である。
小規模農家は、たとえば補助金額135億フランについては評価する一方、「政府案は保身的だ」と批判している。小規模農家の代表者であるヘルベルト・カルフ氏によると、「もっと積極的に、たとえば、質の向上を推し進める政策などで農業を促進することも一つの方法ではないか」と訴える。廃業した農家を他の農家が買い取る場合、すでにその物件に負債がある場合も多く、投資の対象としては魅力が少ないことも指摘されている。
環境を配慮した農業
現在、農家は、たとえば農作物の品質、環境を配慮した農業、家畜の習性を考慮した畜産、遺伝子組み替えをしない農作物の生産などに力を入れるようになってきた。そのためには、消費者団体、環境保護団体、動物保護団体、有機栽培を行う農家や小規模農家が協力して工夫された経営を促進する必要がある。
社会民主党および緑の党は、「こうした新しい農法に対して政府案が少なくともブレーキをかけない」と評価。農産物の輸出の補助や市場の価格操作につながる補助から直接援助に切り替えることを支持している。
自由民主党、キリスト教民主党は政府案を支持しているが、国民党は農家の競争力を強化するための案としては内容が不十分であると政府案には反対を表明している。
政府案は本年の秋の議会で審議されることになる。
swisinfo 外電 意訳 佐藤夕美 (さとうゆうみ)
「2011年農業政策」
08年から11年までの補助額を135億フランとする。
04年から07年までの補助額より6億3,400万フラン減額。
直接援助を強化し、農作物や輸出に対する補助金などは廃止の方向へ
WTOのドーハラウンド
04年8月交渉の枠組みについて合意。
枠組み
関税は、関税が高い品目ほど引き下げ幅を大きくする。
例外扱いとなる農産物の品目数は今後交渉が可能。
関税の上限を定めることについて継続的に協議する。
スイス政府の農業政策
農家の競争力の強化。
農業の構造改革を促進。
スイスの農家
現在65,000軒
今後年間2,000軒が廃業か。
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