スイスの視点を10言語で

スイス政府、銀行規制の改革案を発表 UBSの資本要件強化へ

UBSの看板
スイス政府は、「大きすぎて潰せない」銀行(TBTF)の統制方法に関する209ページにわたる報告書を発表した KEYSTONE/© KEYSTONE / MICHAEL BUHOLZER

スイス政府は10日、「大きすぎて潰せない(TBTF)」銀行に関する規制改革案を発表した。UBSと他の「システム上重要な銀行」3行は、破綻時のスイス経済への影響を抑えるためにより厳しい資本要件を課される必要があると述べた。

スイス連邦内閣(政府)は209ページに上る報告書を発表外部リンクし、22項目の措置を勧告した。自己資本要件をどこまで厳格化するかは触れなかった。

※SWI swissinfo.chでは配信した記事を定期的にメールでお届けするニュースレターを発行しています。政治・経済・文化などの分野別や、「今週のトップ記事」のまとめなど、ご関心に応じてご購読いただけます。登録(無料)はこちらから。 

スイスのTBTF規制改革は国内外で注視されている。UBSが破綻しても、吸収する力のある銀行はスイス国内にはもう存在しないからだ。資本注入や国有化も、国家財政に大きなダメージを与える可能性が高い。

政府は報告書の冒頭で「システム上重要な銀行に対する量的・質的自己資本要件は、的を絞った形で厳格化し、将来を見据えて補完するべきだ」と強調した。

UBSについては「現在の規模・構造が維持・拡大される場合には、(要件は)相当拡充される」と別添文書で述べた。10日のスイス株式市場でUBS株は一時取引停止になった後、午後2時半(スイス時間)に1.9%急落した。UBSは報告書に対するコメントを拒否した。

スイスは報告書の勧告措置の速やかな施行を目指す。2025年上半期までに実施に向けた2つの政策パッケージをまとめる方針だ。1つは閣議決定で済む政令レベルの改正で、もう1つは議会の審議が必要な法改正だ。

UBSの資産規模は現在約1兆7000億ドルと、スイスの年間国内総生産(GDP)の2倍と主要経済国としては異例の比重を占めている。連邦政府は、危機に陥った銀行の一時的な国有化という選択肢は却下したと説明した。

報告書は▽スイスの金融当局である連邦金融市場監督機構(FINMA)の権限追加▽自己資本比率の上乗せ(資本サーチャージ)▽子会社の財務基盤の強化―などを盛り込んだ。自己資本比率の「全面的強化」は除外した。

「自己資本比率の増加による正確な影響について、最終判断を得にくい」と述べ、スイスの銀行を取り巻く競争圧力を踏まえると「比例性」を考慮する必要があると指摘した。

「(システム上重要な銀行の)自己資本要件を強化して透明性を高めることを目的とし、たとえ複雑な構造の銀行でも危機時に透明性と機動の余地を提供する措置を優先すべきだ」

スイスが銀行規制を強化するのは、スイスの銀行文化に対する国内外の監視が強まっているためだ。スイス下院は先月、公的資金で救済された銀行は、経営陣の給与を返納させる動議を可決した。

政府の報告書は、経営陣のボーナスを当局が没収し課徴金に充てる「クローバック」も選択肢だと述べた。

英語からの翻訳:ムートゥ朋子

おすすめの記事

10言語で意見交換
担当: Matthew Allen

巨大銀行UBSはリスク・リターンが大きすぎる?

スイス唯一の大手グローバル銀行となったUBSは、ウェルスマネジメント業務を強化し、世界中で市場シェアを広げようとしています。これはスイスに繁栄をもたらすのか、リスクの大きすぎる賭けなのでしょうか?

2 件のいいね!
20 件のコメント
議論を表示する

人気の記事

世界の読者と意見交換

ニュース

笑顔で握手を交わす閣僚

おすすめの記事

2025年のスイス連邦大統領はカリン・ケラー・ズッター氏

このコンテンツが公開されたのは、 スイス連邦議会は11日、カリン・ケラー・ズッター副大統領兼財務相(急進民主党、60歳)を新大統領に選出した。新副大統領にはギー・パルムラン経済・教育・研究相(国民党、65歳)が選ばれた。

もっと読む 2025年のスイス連邦大統領はカリン・ケラー・ズッター氏
健康保険カード

おすすめの記事

医療費の高騰、依然としてスイス国民の最大の関心事 調査

このコンテンツが公開されたのは、 大手金融機関UBSが12日発表した調査「心配事バロメーター」によると、依然として医療費と健康保険料の高騰が最大の懸念事項だったことが分かった。環境と年金も懸念事項にあがっている。

もっと読む 医療費の高騰、依然としてスイス国民の最大の関心事 調査
連邦工科大学の校舎

おすすめの記事

スイス連邦工科大、留学生の授業料3倍引き上げ決定 25年秋学期から

このコンテンツが公開されたのは、 スイス連邦工科大学チューリヒ校(ETHZ)と同ローザンヌ校(EPFL)が、留学生の授業料をスイス人学生の3倍に引き上げ、2025年秋学期から1学期当たり2190フランにすることを決めた。

もっと読む スイス連邦工科大、留学生の授業料3倍引き上げ決定 25年秋学期から
ベツナウ原発

おすすめの記事

世界最古の原子力発電所、2033年に稼働終了

このコンテンツが公開されたのは、 スイスの電力会社アクスポは5日、世界で最も古いベツナウ原子力発電所の稼働を2033年に終了すると発表した。33年までの運転継続にかかる追加事業費は3億5000万フラン(約600億円)を予定している。

もっと読む 世界最古の原子力発電所、2033年に稼働終了
アルコール検査

おすすめの記事

スイスのドライバー、2割が飲酒運転

このコンテンツが公開されたのは、 欧州など39カ国のドライバーを対象にした調査で、スイスでは2割超が飲酒運転をしたことがあると回答した。

もっと読む スイスのドライバー、2割が飲酒運転
銃口

おすすめの記事

狩猟中の事故で男性死亡 スイス西部

このコンテンツが公開されたのは、 先月29日午後、スイス西部ヴォー州で64歳の男性が狩猟中に死亡した。イノシシを撃とうとした 猟友会のメンバーに射たれた。

もっと読む 狩猟中の事故で男性死亡 スイス西部
サルコ

おすすめの記事

自殺カプセル「サルコ」運営団体代表が釈放 70日拘束

このコンテンツが公開されたのは、 今年9月にスイスで初めて使われた自殺カプセル「サルコ」について、連邦内閣は、当分の間、立法措置は必要ないとの見解を示した。サルコ運営団体は2日、身柄を拘束されていたフロリアン・ヴィレ代表が釈放されたと発表した。

もっと読む 自殺カプセル「サルコ」運営団体代表が釈放 70日拘束
金塊

おすすめの記事

スイス在住長者番付2024 トップはシャネルのオーナー

このコンテンツが公開されたのは、 スイスの金融誌ビランツがまとめた長者番付2024年版によると、スイス在住の富豪トップに輝いたのは、仏高級ブランド・シャネルのオーナー家族の1人、ジェラール・ヴェルテメール氏だった。上位の顔ぶれはほぼ前年と同じだが、香料メーカーのフィルメニッヒ(Firmenich)創業家が初のトップ10入りを果たした。

もっと読む スイス在住長者番付2024 トップはシャネルのオーナー
ポイ捨てされた空き缶と小鳥

おすすめの記事

スイス、ポイ捨て「少ない」8割 アンケート調査

このコンテンツが公開されたのは、 スイス・ポイ捨て防止コンピテンスセンター(IGSU)の年次アンケート調査によると、「スイスでは多くのゴミが適切に処理されていない」と考える人は16%にとどまった。

もっと読む スイス、ポイ捨て「少ない」8割 アンケート調査

swissinfo.chの記者との意見交換は、こちらからアクセスしてください。

他のトピックを議論したい、あるいは記事の誤記に関しては、japanese@swissinfo.ch までご連絡ください。

SWI swissinfo.ch スイス公共放送協会の国際部

SWI swissinfo.ch スイス公共放送協会の国際部