UBSの牙を抜かずに飼いならすには?
スイス連邦政府は、UBSが世界金融業界で競争力を保ちつつ、経営難に陥った場合にスイス経済にもたらすリスクを軽減するという難題の解決に着手した。
UBSは昨年経営危機に陥ったライバル行クレディ・スイス(CS)を買収して以来、スイスに唯一生き残るグローバル銀行となった。万が一にも破綻すれば、スイス経済を破滅に導く可能性がある。UBSは世界中で数千人を雇用し、膨大な住宅ローンを発行し、多数のスイス企業と取引がある。
スイス連邦内閣(政府)は今月10日、UBSの破綻リスクを軽減するための銀行規制改革案を盛り込んだ報告書を発表した。UBSのリスク軽減や金融当局の権限強化など、22項目の勧告を並べた。
政治家やメディア、経済学者の反応は芳しくなかった。340ページに及ぶ分厚い報告書は明確さを欠くと批判された。
UBSの元チーフエコノミスト、クラウス・ヴェラースホーフ氏はswissinfo.chに対し、「この問題への関心を失わせるために、わざと情報過多にする戦略のもとに書かれたようだ」と語った。
ドイツ語圏のスイス公共放送(SRF)経済部のヤン・バウマン記者は、政府が詳しい具体的行動を盛り込んだ力強い報告書を作成できなかったのには理由があるのかもしれないとみる。
「行間からは、規制を強化しすぎて旗艦行UBSをスイス金融業界から締め出すようなことはしたくない、というメッセージが読み取れる」
競争本能
UBSはスイスから出ていく素振りを見せたことはないが、経営陣は規制が過剰に強化される可能性に備え、強固な防御策を講じている。
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UBSは米国を中心にウェルスマネジメント(資産管理)事業を拡大するという強気な野望を抱く。コルム・ケレハー会長は、スイスが過剰規制に走れば競合銀行を有利にし、この目標を潰しかねないと警告している。
とりわけUBSが反対するのは、将来の損失発生に備えて確保しなければならない資本額を増やす案だ。
ケレハー氏はドイツ語圏の日刊紙NZZ日曜版で「自己資本が多すぎると、株主だけでなく顧客にも不利益をもたらすことになる。銀行の手数料の値上げにつながるからだ」と強調した。
ヴェラースホーフ氏もこの見解にある程度賛成するものの、それでも連邦議会は自己資本の積み増しに固執するとみる。昨年CSの惨劇を目の当たりにしたスイス国民の心の傷はまだ生々しく残っているからだ。
「政治的にこの問題は避けて通れない。実際には経済的根拠がないとしても、議会は何らかの形で資本要件の強化を打ち出す必要があるだろう」
報酬返納を義務付け
政府報告書は「『システム上重要な銀行』に対する自己資本要件は量的・質的に厳格化されるべきだ」と明記したが、UBSにどれだけの引当金積み増しを課すべきか、具体案は示さなかった。
UBSは今月、昨年4月に最高経営責任者(CEO)に返り咲いたセルジオ・エルモッティ氏に就任後9カ月間の報酬として1440万フラン(約24億円)を支給すると決め、政界の反発を呼んだ。
自由緑の党(GPL/PVL)のティアナ・モーザー議員は「経営ミスに対して個人的な責任を負わないのに数百万フランの給与を得るのは不適切だ」と述べた。
連邦政府は、銀行を経営難に陥らせた役員にボーナスの返還を義務付ける案など、給与制限の法制化を提案した。金融当局に経営陣の責任を追及し、罰金を科す権限を与える案も提起した。
規制の波
スイス政府はUBSから翼を奪うよう求める政党と、それに対する金融業界の反対との間で板挟みになっている。さらに、報告書の定義の欠如は双方の怒りを買った。
スイス銀行協会(SBA)のローマン・スチューダーCEOは「報告書は焦点を欠き、規制の波が銀行と経済全体に多大な負担を強いる恐れがある」と苦言を呈した。
政府がまとめた改革案が本格的に議会で審議されるのは、年内に議会調査委員会(PUK/CEP)がCS危機に関する報告書を発表した後になる。
このため、連邦議会が最終的な解決案を決定するのは早くても2025年になると報じられている。
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編集:Virginie Mangin/sb、英語からの翻訳:ムートゥ朋子、校正:大野瑠衣子
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