「スイスがロシア資産隠しを手助け」 専門家証言
スイスの汚職問題の専門家、マルク・ピート氏が米政府委員会で、スイスはロシア資産を秘匿していると証言した。主にスイスの弁護士がスイスの銀行秘密や法の抜け穴を利用し、オリガルヒ(新興財閥)の資産隠しを手助けしているという。
米連邦議会の欧州安全保障協力委員会(通称「米国ヘルシンキ委員会」)外部リンクは、ロシアの資産隠しでスイスが果たしている役割について厳しく批判した。
「スイスはかねて戦争犯罪者や略奪者による資産の隠し場所として知られ、ロシアの独裁者ウラジーミル・プーチンやその取り巻きのイネーブラー(後援者)だ。ロシア国民から資産を強奪したプーチンやオリガルヒは、スイスの銀行秘密を利用して犯罪から得た収益を秘匿・保護している」
同委員会が5日に開いた公聴会で、ピート氏のほか犯罪・汚職通報プロジェクトのミランダ・パトルシッチ副編集長、投資家のビル・ブラウダー氏が証言に立った。ブラウダー氏は、スイス検察が顧問弁護士のセルゲイ・マグニツキー氏の死亡に絡んだロシアのマネーロンダリング(資金洗浄)の捜査に失敗したと非難している。
ピート氏は委員会で、スイスの弁護士はロシアの隠し資産の追跡を免れるため、スイスの法の抜け穴を利用していると語った。
「資産隠しを手助け」
ピート氏の証言全文は次の通り。
「知ってのとおり、スイスは小さな国だ。同時に、かなり大きな金融上の逃避先であり、おそらく世界最大の商品取引ハブだ。
一方、長い秘密主義の伝統がある。要するに、世界最大のオフショア(国外)資産の避難先の1つだ。
私が特に関心を抱いているのは紹介者とイネーブラーの役割だ。イネーブラーは多くの場合、弁護士と依頼者間の秘匿特権を盾にしている弁護士だ。彼らが顧客の利益を守る伝統的な弁護士として行動するならば、何も問題はない。だが弁護士がクライアントのためにお金を投資するのは、弁護士としての行動ではないことは明らかだ。彼らはもはや金融業者だ。
パナマ文書やパンドラ文書をはじめとするリークは、さらにその中間で立ち回る人物がいることを示した。お金に触れることなく、(シェル企業やオフショア口座など)資金洗浄に利用する仕組みを作ることで関与している。それは反資金洗浄法の取り締まり対象ではない。それでも例えばロシアのオリガルヒの資産隠しを手伝ってきたことが、リークによって明らかになっている。
例を挙げると、プーチンの学生時代の友人であるチェロ奏者(セルゲイ・)ロルドゥーギンは、突如としてロシア銀行の4分の1とあるロシアの戦車メーカーの4分の1を手に入れた。それを可能にし資産隠しを手伝ったのは、チューリヒにある法律事務所で、名前を挙げることもできる。
こうした仕組みは、銀行や当局が資産の「真の受益者」を突き止めるのを阻害する。それこそ、対ロシア制裁の成功にとっての真の危険だ。
では、我々はどうするべきなのか?
スイスでは2021年3月、連邦議会がイネーブラーを反資金洗浄法の取り締まり対象に加える案を否決した。業界ロビイストの圧力を受けたのだ。もちろん制裁違反や資金洗浄の明らかな証拠があればスイス当局は介入できる。だがビル・ブラウダー氏の例が示したように、法執行機関は無能で時には党派的になる可能性がある。
スイスがイネーブラー規制を進める前に、米国には果たすべき役割がある。イネーブラーが米国による制裁に違反した場合、米司法省が介入する可能性がある。名前がわかっているイネーブラーを制裁リストに載せたり、ビザ発給を禁止したりできる。
総括として、新司法長官がマグニツキー事件に込められたメッセージを理解しない場合、ビルが提案した米・スイス間の法執行関係の見直しにはメリットがあると考える」
政府は反論
ロシアのウクライナ侵攻が始まった当初、スイスは中立政策に違反する可能性があるとして制裁の発動に消極的だった。だが国内外からの圧力を受けて方針転換し、現在はロシアの個人や団体に対する欧州連合(EU)の制裁に同調している。
スイス当局がこれまでに凍結した資産は75億フラン(約9900億円)に上るが、米国ヘルシンキ委員会は満足していない。同委員会は米国政府の出資を受けているが独立した機関で、18人の米国議会議員と米国国防総省の代表者で構成される。国際政治上の正式な意思決定権限はないが米外交政策に一定の影響を及ぼす。
スイスのメディアは、同委員会が公然と非難したことでスイス政府は公の非難がスイス政府を揺さぶっていると報じた。地方紙ルツェルン新聞外部リンクは、イグナツィオ・カシス外相は証言内容を否定したと報じた。米アントニー・ブリンケン外相に電話をかけたが、無為に終わったという。
(英語からの翻訳・ムートゥ朋子)
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