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南海地震、長崎、ナガスクジラ…スイスのメディアが報じた日本のニュース

長崎平和式典
2024年の長崎原爆犠牲者慰霊平和祈念式典にイスラエルが招待されなかったことを受け、米英などG7が大使の出席を見送った。スイス大使も大統領訪日への同行を理由に欠席し、代理が出席した EPA/JIJI PRESS JAPAN

スイスの主要報道機関が先週(8月5日〜11日)伝えた日本関連のニュースから、①南海トラフ地震に警戒②G7・スイス大使、長崎平和式典を欠席③ナガスクジラ捕獲、の3件を要約して紹介します。

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南海トラフ地震に警戒

8日午後に日向灘を震源とするマグニチュード7.1の地震が発生し、気象庁は「南海トラフ地震臨時情報(巨大地震注意)」を発表しました。スイスでは各言語圏で、大手紙から大衆紙まで大きな注目を集めています。

ドイツ語圏のスイス公共放送(SRF)は東京在住のフリージャーナリスト、マルティン・フリッツ氏に話を聞きました。日本人が大地震にどう備えているか、という質問に、フリッツ氏は「戯曲『ゴドーを待ちながら』のようなもので、決して起こらないかもしれないし、予測よりはるかに弱いものになるかもしれない」と心境を語りました。自宅には備蓄を用意し、沿岸部では定期的に津波からの避難訓練も行われていますが、毎年何らかの形で報じられる「南海地震」には「鈍化効果もある」と伝えました。

SRFは「福島原発事故と同じようなことが起こる可能性はあるのか?」とも質問。フリッツ氏は南海海溝沿いには原発2カ所、原子炉6基が存在し、福島後に特別に高い壁で保護されているものの、「南海海溝で激震が起きたとしたら、再び核災害が起こる可能性を私は排除しない」と回答しました。

ドイツ語圏の日刊紙ターゲス・アンツァイガーは、南海地震が発生した場合に予想される被害などを詳報しながら、巨大地震注意が発表された後も「国民の間にパニックは起こらなかった」と伝えました。「西洋では日本人は落ち着いていると誤解されがちだが、実際には8日に起きたような自然の力に立ち向かう覚悟と忍耐力があるからこそだ」。その2つが地震という大爆弾を抱えた日本での生活に折り合いをつける唯一の方法であり、「島民に危機への並外れた粘り強さを与えた」と結びました。

フランス語圏では政府が過剰な買いだめに走らないよう呼びかけていることも報じられました。日刊紙ル・タンは飲料水の購入制限を始めた都内のスーパーの様子や、ネット通販サイトの楽天でポータブルトイレや缶詰などが最も検索されていることを報じました。

またX(旧ツイッター)で「食料品」がトレンドワードに上がっており、「住民は強迫的な買い物行動の可能性について懸念を共有し、ユーザーに理性的な行動を促している」と伝えました。(出典:SRF外部リンクターゲス・アンツァイガー外部リンク/ドイツ語、ル・タン外部リンク/フランス語)

G7・スイス大使、長崎平和式典を欠席

9日の長崎原爆犠牲者慰霊平和祈念式典に、日本以外の先進7カ国(G7)の駐日大使らが欠席しました。米英は長崎市が式典にイスラエルを招待しなかったことを欠席理由に挙げており、波紋を呼んでいます。スイスのアンドレアス・バオム大使も、8月5~8日のヴィオラ・アムヘルト大統領の訪日への同行を理由に欠席しましたが、スイス主要メディアでこれを報じたのはフランス語圏のル・タンだけでした。

ル・タンの記事は、アムヘルト氏のモンゴル・日本歴訪にはスイスメディア記者が1人しか同行せずかなりひっそりとした外遊になったことを伝えるなかで、同氏の滞在中に日本のメディアの注目がG7大使の長崎式典への欠席に集まっていたと指摘。バオム氏も「例年と異なり」出席しなかったことに「スイス政府は欧州・米国の決定に同調したのか?」と疑問を投げかけました。

スイス連邦外務省は同紙に「それは関係ない」と言い切り、これはアムヘルト氏訪日のため数週間前から決まっていたことだとしました。またバウム氏も退任が迫っており、後任には連邦外務省国際法局副局長のロジャー・デュバッハ氏が任命されると報じています。

スイスからは、6日の広島平和記念式典にはエイドリアン・シーバー在日スイス大使館総務・領事部長が、9日の長崎式典にはグレゴー・ムイシュネーク同経済・金融部長が出席しました。

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スイス大使の欠席について報じた主要メディアはル・タンだけでしたが、長崎式典をめぐる論争についてはフランス語圏のwatson.chやドイツ語圏のnau.chでも報じられました。watson.chは長崎市長の鈴木史朗氏が8日に米英の欠席について「遺憾だ」とコメントしたことを取り上げました。

一方でイスラエル不招待が欠席の理由だと公式に明言したのは米英だけですが、各国報道によるとイタリアも同じ理由だといいます。また記事は、鈴木氏の決定は「残念で疑問だ」というフランス大使館のコメントや、「イスラエルをロシアやベラルーシと同レベルに位置付ける」とするドイツ使節団の批判も紹介しました。

nau.chは、鈴木氏が9日の式典で核兵器廃絶を訴えたことを強調したうえで、広島にはイスラエルが招待されたことも伝えました。代わりにパレスチナ代表が広島に招待されず、長崎への出席は許可された点も報じています。(出典:ル・タン外部リンクwatson.ch外部リンク/フランス語、nau.ch外部リンク/ドイツ語)

ナガスクジラを捕獲

7月31日に捕鯨対象に追加されたばかりのナガスクジラが翌日、岩手県沖で早速1頭捕獲されました。スイスではドイツ語圏の無料ニュースサイトを中心に、批判的なトーンで報じられています。

nau.chとbluewin.chドイツ語版は「国際的な動物愛護・環境活動家は、日本の捕鯨を強く非難している」として、ナガスクジラがレッドリストで「絶滅危惧種」に分類されていることを指摘。ドイツの動物保護団体の「商業捕鯨は残酷で不必要で、完全に時代遅れだ」との言葉を引用しました。

日本は科学的結果に基づいて行動しているという水産庁の説明や、捕鯨を領海・経済水域に限定し「商業狩猟が海洋哺乳類の個体群を危険にさらすことはないとしている」という日本政府の姿勢も紹介する一方、戦後は重要なたんぱく源だった鯨肉を好んで食べる人は「この裕福な島国で数えるほどしかいない」と結び、暗に商業捕鯨の意義の薄さを批判しています。

watson.chが引用したのは国際動物福祉基金(IFAW)の声明です。「ナガスクジラは地球で2番目に大きい生き物。2024年の今、それを捕獲することは、日本にとっても鯨にとって、国際社会にとっても大きな誤りだ」。体の大きな鯨を殺すためには時間をかけて苦痛を与えなければならず、「海上で鯨を殺す人道的な方法はない」点を非難しました。

ナガスクジラ捕獲のニュースではフランス語圏大手メディアは扱いませんでしたが、捕鯨への関心が薄いわけではありません。6日にはジュネーブで、デンマーク領グリーンランドで逮捕された反捕鯨団体の創設者ポール・ワトソン氏の釈放を求める抗議運動が発生。フランス語圏の大衆紙ル・マタンがこれを報じています。

記事によると、デモに参加したのは約100人。フランス語圏の動物保護団体3グループが呼びかけました。3団体はデンマーク政府にも書簡を送り、「日本は特に厳しい拘禁条件で知られ、クジラを保護したワトソン氏に対する日本政府の憤りを考えると、同氏が非人道的または品位を傷つける扱いを受けるのではないかという懸念を抱いている」と伝えたといいます。(出典:nau.ch外部リンクwatson.ch外部リンク/ドイツ語、ル・マタン外部リンク/フランス語)

【スイスで報道されたその他のトピック】

話題になったスイスのニュース

先週、最も注目されたスイスのニュースは「スイスで小児科医が不足」(記事/日本語)でした。他に「UNRWA、『イスラエル襲撃に関与した可能性』の9人を解雇」(記事/日本語)、「チューリヒのストリート・パレードに92万人参加」(記事/英語)も良く読まれました。

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次回の「スイスで報じられた日本のニュース」は8月19日(月)に掲載予定です。

校閲:大野瑠衣子

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