2020年のスイスアルプス、最高気温更新
昨年、スイスアルプスでは史上最高気温を記録し、スイス全体では史上2番目に気温が高かった。これは紛れもなく世界的な気候変動の影響だ。このままでは寒冷地帯に生息する動植物の一部が消滅する恐れがある。
既に1年前からこの傾向は見られた。2019年の冬は(気象学上2019年12月~2020年2月)スイス観測史上、最も温暖な冬だった。スイス気象台(メテオ・スイス)によると、2020年は総じて非常に温暖で晴天の多い年だった。
スイス気象台外部リンクは昨年末、「スイス大半の地域で、2020年の年間気温は1981~2010年の基準値を1.4~1.6度上回った」と発表。2020年は2018年に次ぎスイスで2番目に気温が高かった。
もちろん、これはスイスに限ったことではない。データを集計中の世界気象機関(WMO)によると、2020年は世界的にも観測史上最も温暖な年の上位3位に入る。
WMOのペッテリ・ターラス事務局長は昨年の12月初旬外部リンク、「2020年の世界平均気温は産業革命前(1850~1900年)の水準を約1.2度上回る見込みだ。気温の上昇が2024年までに一時的に1.5度を超える可能性は少なくとも2割ある」と述べた。
WMOの統計によると、2015年以降の5年間は、毎年最も温暖な年の上位に入っている。2020年12月、気候変動に関するパリ協定採択から5年が過ぎた。当時各国は世界の平均気温上昇を産業革命前と比較して「2度より充分低く」抑えることに合意した。
ターラス事務局長は「温室効果ガスの排出量削減に向けた各国政府の最近のコミットメントをすべて歓迎する。我々の目標はいまだ軌道に乗っておらず、さらに努力が必要だ」と述べた。
氷河は解け、バッタは生息地を拡大
アルプスの気温上昇に伴い、氷河は後退する。1850年以降、アルプスの氷河は約6割減少し、近年その融解スピードが加速している。連邦工科大学チューリヒ校(ETHZ)と連邦森林降雪国土研究所(WSL)の研究者は2019年の調査外部リンクで、温暖化が早く進むという想定下では「アルプスの氷河は2100年までにほぼ消滅するだろう」と述べている。その結果、突発的な洪水などの自然災害のリスクが高まり、一方では飲料水の備蓄量が減少するという。
高山の温暖化は同時に、生態系のバランスを崩す。これまで標高の高い場所では生きられなかった植物が生息区域を上方に広げ、アルプスの高山植物と場所や養分を奪い合っている。それはまた、高山植物を捕食し棲み処にする種にも影響を与える。
最近の研究では、本来であれば標高が中程度の地域に生息するバッタをWSLの研究者がアルプス山脈で確認している。このバッタの採餌行動を観察した結果、「多くの草食性昆虫を含む移動性動物は、自らは動けない固着性の植物と比べて急速に生息地を高地に拡大できるため、地球温暖化は生態系のバランスを崩す可能性がある」とし、「新たな天敵から身を守る準備が不十分、あるいは全くできていない高山植物が生息する高山地区では、低地から侵略してきた昆虫が急速に繁殖する恐れがある。これは現在の高山植物全体の構成と機能を変えてしまう可能性がある」と指摘した。
地球温暖化のもう1つの影響に、従来よりも早い時期にアルプスの木々に葉が生え始まることが挙げられる。WSLによると、葉や針葉の生育が早すぎると、森林生態系の発達と機能に悪影響が出る。
(英語からの翻訳・シュミット一恵)
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