米ミネソタ州でジョージ・フロイドさんが白人警官の暴行により死亡した事件が起こってからというもの、あらゆる人が人種差別について議論している。差別を受けている人にとって、この状況は複雑だ。確かにスイスでもようやく議論できるようになったことは喜ばしい。だがこんな身近なテーマなのに、人が死ぬ瞬間が撮影・拡散されなければ表に出てこないものなのか。
このコンテンツが公開されたのは、
2020/06/12 10:30
アンヤ・グローバー
自らアフリカ系ヨーロッパ人を名乗る。チューリヒ生まれ、ローザンヌ在住。ルツェルンとパリで社会学と文化学を学んだ。ジャーナリストとして活動する傍ら、広報代理店Nunyola外部リンク の最高経営責任者(CEO)を務める。
この数日、スイスでもこのテーマが注目を集めている。だがそこで一番よく目にする疑問ですら、問題の本質からずれてしまっている。スイスにも人種差別はあるのか?同じ疑問は男女差別の存在についても問われることが多い。それに答えが出ることはない。
人種差別があることが分かったとしても、この国では別種の人種差別問題だとみなされる。米国で起きていることと比べるべくもない、比較的穏やかなもの、と思われている。
だが人種差別は火が付いたときだけ問題になるわけではない。極端なケースが起きるのは、社会に構造的に埋め込まれた不平等の結果でしかない。あまり注意が向けられず、そのため撲滅しようとする動きが出なかっただけだ。人種差別は深刻化したわけではない。単に今回「撮影された」だけだ。
米国とさほど大きな違いはない。構造的な人種差別はスイスにも存在する。一人ひとりの個性や人格によってではなく、社会相互的な組織のなかで培われた類いの人種差別だ。米国ではシステム全体が、黒人が白人よりも不利になるように構築されている。
スイスでは警察の聴取や移民局の審査で構造的な人種差別が起きることがある。「人種プロファイリング」と呼ばれるものだ。人々は類型化され、そのグループ全体に疑いの目が向けられる。黒人は白人よりも頻繁に聴取を受ける。
スイスの植民地主義?
それでも米国ほど深刻ではない?スイスは異なる歴史を持つ。スイスが植民地を持たなかったからといって、植民地主義に加担しなかったことにはならない。スイスの言語には、人種政策が幅を利かせた時代の名残が無数に刻まれている。家屋やレストランにも、植民地時代に由来する名前が残っている。
学校で植民地主義におけるスイスの役割についてどれだけ教わったか?
スイスのチョコレート生産の裏で起きている奴隷貿易をどれだけ意識しているか?
そしてそれらに対してどう対処してきたか?
スイスは米国文化から多くの産物を取り込んできた。米国は人種差別的なものを作り続け、私たちはそれをほぼ無批判のまま吸収している。
日々、身をもって経験する
人種差別は至る所にある。私のように、白くない肌の人間は日々経験している。それに関する議論はできるだけ避けて通るか、極端な事例として片づけられる。
人種差別は、可視化される機会がない限り、存在し続ける。人種差別の存在を否定し、言い訳している間は決してなくならない。
つまり、人種差別をなくすための第一歩は、その存在を認めることだ。スイスでも同じことが言える。
(独語からの翻訳・ムートゥ朋子)
続きを読む
次
前
オピニオン
おすすめの記事
スイスで受けたアジア人差別
このコンテンツが公開されたのは、
2020/03/17
スイス・ルツェルン大学に留学中の台湾人女性は、新型コロナウイルスの感染が広がる欧州で、アジア人であることでさまざまな差別的言動を受けた。
もっと読む スイスで受けたアジア人差別
おすすめの記事
FBの中傷的内容に「いいね!」 スイスで有罪判決
このコンテンツが公開されたのは、
2017/07/07
チューリヒの裁判所で5月29日、フェイスブック上の中傷的な投稿に「いいね!」ボタンを押し、他のユーザーに情報を拡散したことで名誉毀損罪に問われていた男性に有罪判決が言い渡された。この有罪判決をめぐりスイスでは議論を呼んでいる。インターネットの法律専門家マティス・ケルン氏は、ネット上の問題に関する前例が少なく、複雑で判断が難しいと話す。
チューリヒの裁判所から有罪判決を言い渡されたのは45歳のスイス人男性で、フェイスブック上に投稿されていた、動物愛護団体のエルヴィン・ケスラー会長を人種差別主義的かつ反ユダヤ主義的だと批判する内容に「いいね!」ボタンを押したことが、名誉毀損罪にあたるとされた。男性には4000フラン(約47万円)の罰金を科す判決が下され、同被告以外にも、投稿にコメントを残したり、シェアをして不特定多数に情報を広めた他の被告も有罪とされた。
もっと読む FBの中傷的内容に「いいね!」 スイスで有罪判決
おすすめの記事
なぜ高い「女性価格」 スイスのピンクタックス
このコンテンツが公開されたのは、
2019/11/06
スイスに輸入された外国製の婦人服は、同じ輸入品の紳士服より高い関税がかかっている。生理用品は勃起不全の治療薬よりも高い付加価値税(VAT)がかかっている。これらのいわゆる「ピンクタックス(ピンクの税)」は、税制における性差別ではないのか?
もっと読む なぜ高い「女性価格」 スイスのピンクタックス
おすすめの記事
「スイス人はみな外国人ですよね?」
このコンテンツが公開されたのは、
2020/01/22
最新の優れたスイス映画が集結する第55回ソロトゥルン映画祭が今日開幕し、新ディレクターのアニータ・ウギさんがひのき舞台を踏む。ウギさんはswissinfo.chとのインタビューで、スイス映画やスイス人のアイデンティティーにあるお決まりのイメージを一蹴した。
もっと読む 「スイス人はみな外国人ですよね?」
おすすめの記事
「平等の学校」で学ぶこと ジェンダー平等を目指して
このコンテンツが公開されたのは、
2019/10/11
スイスでは、進路や職業の選択において女子と男子の間に大きな違いがある。スイス・フランス語圏のプロジェクト「平等の学校(L’école de l’égalité)」は、生徒たちがジェンダーに基づく性差別やステレオタイプを認識し、それを排除できるようにするための手助けをしようとしている。国際ガールズデーを機に、このプロジェクトでどのような取り組みが行われているのかを紹介する。
もっと読む 「平等の学校」で学ぶこと ジェンダー平等を目指して
おすすめの記事
12月10日の世界人権デー 「人権は毎日の生活の中に」
このコンテンツが公開されたのは、
2008/12/09
クラパム氏は、今年の国際人権宣言60周年記念にスイス政府が提案した「人権アジェンダ」構想を支援してきた。12月10日の「世界人権デー」にクラパム氏に会い、過去60年間の人権の歩みについて聞き、また、スイス政府の新提案を探…
もっと読む 12月10日の世界人権デー 「人権は毎日の生活の中に」
swissinfo.chの記者との意見交換は、こちらからアクセスしてください。
他のトピックを議論したい、あるいは記事の誤記に関しては、japanese@swissinfo.ch までご連絡ください。