クレディ・スイスの再建、再び中東マネー頼み
スイス第2の銀行クレディ・スイス(CS)は、巨額損失を生みバランスシートが悪化するなか、財務強化をかけて再び中東マネーに取り入ろうとしている。
2008年の金融危機後、カタールの政府系ファンドであるカタール投資庁はCSの株式の5%を取得した。
そして今、サウジアラビア最大の銀行であるサウジ・ナショナル・バンクはCS株の9.9%を15億フラン(約2222億円)で取得し、大株主の一角にのし上がろうとしている。
現在の筆頭株主は、CS株の10%強を占める米投資会社ハリス・アソシエイツだ。カタール投資庁や、サウジ系投資会社オラヤングループもそれぞれ3%超を保有し大株主に数えられる。
CSは総額40億フランの増資を計画し、既存株主にも新規発行株を取得する機会を提供する。経営再建計画を発表した27日の記者会見では、今後の株式保有比率の詳細の公表を拒んだ。
アクセル・レーマン会長はドイツ語圏のスイス公共放送(SRF)で、サウジ・ナショナル・バンクによる投資について「この変革の実行に必要な財務力を強化するうえで非常に重要であり、今の困難な状況で大きな変動が発生した時に十分な余力を生む」と語った。
巨額損失
CSは4四半期連続で赤字に陥り、直近3カ月でリストラ関連の支出により40億フランの損失を出した。今後数年間で9千人の雇用を削減し、リストラ費用は29億フランに上ると見込まれる。
不採算の投資銀行業務の大部分を売却し、リスク資産をバランスシートから切り離す。増資によりCSはひとまず経営危機を免れそうだ。
スイスのエトス財団はこれまで、より持続的な経営戦略を立てるようCSに働きかけてきた。増資が一部の新参投資家に振り向けられる点に失望感を隠さない。
ヴィンセント・カウフマン最高経営責任者(CEO)はswissinfo.chに「CSの現在のバリュエーション(投資尺度)を踏まえると、新しい戦略的株主の資本参加を批判的に見ている。新株主はたった15億フランで資本の10%近くを手にする。この計画により、既存株主は非常に深刻な希薄化効果に苦しむだろう」と述べた。
エトス財団は、来月の臨時株主総会でこの増資に賛成するかどうか、選択肢を吟味する。一方、CSがウェルスマネジメント事業に集中するためにリスクの高い投資銀行部門を大幅に縮小することは評価している。
スイスのルーツ
CSが最近抱えてきた問題の多くは、破綻したグリーンシルやアルケゴスなどの高リスク取引が失敗したことに端を発する。
リスク管理コンサルOrbit36(本社・チューリヒ)のマネージング・パートナー、アンドレアス・イタ氏は、CSの経営再建計画は適切な判断だったとみている。
イタ氏は「投資銀行部門の縮小は理にかなっている。我々の見解では、他に利用できそうな現実的な選択肢はそれほど多くなかった」とswissinfo.chに語った。「リストラ費用として40億フランを調達することも理にかなっている。この追加資本なしで戦略的変革を始めるのはリスキーだっただろう」
CSのリーマン会長は27日の会見で、同行を創業したスイス人、アルフレッド・エッシャーに触れた。自身の責務は「CSを強力・効率的で、スイスの山々のように強固な地盤を持つ銀行に再建することだ。スイスのルーツとグローバルなリーチを誇る銀行にする」と意気込んだ。
この目的を達成するために、CSはエネルギッシュな米ウォール街のトレーダーから距離を置き、オイルマネーで守られる中東の安全地帯に重点を移そうとしている。
英語からの翻訳:ムートゥ朋子
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