クレディ・スイス買収「政府の確信犯的な仕業以外の何者でもない」
スイス最大の金融機関UBSによる同業のクレディ・スイス(CS)買収。スイスの法学者は、株主総会を経ずに強行した今回の買収プロセスを問題視する。
UBSによるCS買収は先週末、協議の一報が流れてからわずか一両日中に発表された。ベルン大学法学部のペーター・V・クンツ教授外部リンク(経済法)は独語圏のスイス公共放送(SRF)のインタビューで、今回の買収プロセスは訴訟のリスクが高いと語る。
スイス公共放送(SRF)ニュース:この買収を法的にどう評価するか。
ペーター・V・クンツ: 私としては多くの疑問符が付く。この性急な行動によって、国は株式法だけでなく金融市場法、カルテル法を無効化した。法的に問題のある手段で、CSは事実上、UBSに贈与されたのだ。
この行為は、大きな国際的圧力の下で行われたとしか思えない。一連の出来事はパニック行為以外の何物でもなく、法の支配の観点からも問題がある。この無秩序な行動がもたらす影響は―法的なものに限らず―推し量ることはできない。
SRFニュース:それはなぜか。
クンツ:この買収において、UBS以外敗者しかいないからだ。特に2大銀行の従業員にとっては最悪だ。彼らは何週間もの間、不安な日々を過ごすことになる。今回の一件は強制買収であり、所有者は(憲法の)緊急事態条項によって発言権を奪われた。
法的には、買収の場合、全ての株主にその提案を示し、株主がそれを受け入れるかどうかを決める。今回はそれがなかった。CSの価格は市場ではなく政府が決めた。それによって株主が損害を被った。国家賠償請求訴訟の前提条件を満たしていることは間違いないだろう。
SRFニュース:法的な観点から、何が最も問題なのか。
クンツ:株式法において最大の難点があると思っている。株主は(買収が決まった)19日に、財産を事実上没収された。国は16日の時点ではまだ、銀行の流動性は確保されていると言っていたのだ。それによって株主は、銀行が安定していると信じ込まされた。その間、何日間も密室で救済計画が練られた。
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クレディ・スイス買収交渉の舞台裏
(買収が決まったのは)週末だったため、株式取引は不可能だった。株主は締め出された。この(買収の)緊急決議は非常に危うい。これは私たちの連邦政府による離れ業以外の何物でもない。
SRFニュース:訴訟はあり得るか。
クンツ:理論的には、いかなる株主も訴訟を起こせる。だがスイスの小口株主が訴訟を起こす可能性はほぼゼロだ。米国とは違い、スイスには集団訴訟というシステムがない。つまり株主はたった一人で連邦政府を相手に闘わなければならない。それは非現実的だ。
だが、こうした訴訟は国外から出てくるだろう。もしサウジアラビアが訴えなかったら、私は驚くと思う。(筆頭株主の)サウジ・ナショナル・バンクは当時1株4フランでCSの9.9%の株式を購入した。現在その価値は76セントしかない。それを甘受することはまずないと私は見る。
SRFニュース:取締役会の責任を問う訴訟もあり得るか。
クンツ:CSは強制買収であろうと株主総会を開かなければならない。株主は昨年のときと同じように、総会で取締役の解任を拒否できる。つまり、取締役会の免責を認めないということだ。そうなれば、責任追及の道が開ける。
CSの取締役会は、取締役の免責を議題にする必要はない。実際議題にしないと私は思う。でなければ、取締役会の責任を問う訴訟は間違いなく起こる。
独語からの翻訳・宇田薫
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