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「ようやく生活に潤いが戻った」オペアを選んだ2児の母

子供に本を読んであげる石塚シュタイナー佳代さん
自宅リビングで次女杏樹ちゃん(左から2人目)に本を読んであげる石塚シュタイナー佳代さん(左端)。オペアのステフィさん(左から3人目)と長女の麗奈ちゃんも楽しそうだ swissinfo.ch / Kaoru Uda

欧米諸国ではオペア(Au-pair)という制度が広く浸透している。日本では聞きなれない言葉だが、ホストファミリーの家に住み、現地の語学を学びながら子供の世話をする若者のことだ。首都ベルンに住むピアニストの石塚シュタイナー佳代さん(40)宅では、タイ人のオペア、ステフィさん(22)が長女麗奈ちゃん(7)、次女杏樹ちゃん(4)の面倒を見ている。佳代さんは保育園やベビーシッターなど色々な保育サービスを利用したが「オペアのおかげでようやく生活に潤いが戻った」と話す。

 佳代さんは月、水曜日の週2回、スイス北部バーゼルにある音楽学校でピアノを教え、金曜日の午後は自宅で個人向けの教室を開いている。バーゼルに行く日は昼から夜までレッスンで埋まり、片道1時間超の電車通勤を含めると帰宅が午後10時を回ることもある。

 ステフィさんは、ドイツ語を学ぶためにオペアの仕事を選んだ。週2回、子供が小学校や幼稚園に行っている午前中は語学学校に行き、佳代さんが仕事でいない間、家事や子供の世話をする。働く時間は週30時間までと決まっていて、その間は洗濯や炊事、掃除をし、子供の遊び相手にもなる。

オペアはもともと若者の文化交流、留学支援が目的で発展した制度で、ホームステイ先の家庭の一員として暮らし、子供の世話や家事を手伝いながら母国語ではない現地の言語を学ぶ。オペアは仲介業者から紹介してもらうことがほとんど。スイス国内最大の仲介業者PRO FILIAによると、公用語が複数あるスイスではフランス語圏、ドイツ語圏、イタリア語圏の国内交流が多い(2015年は385人)。オペアの条件は滞在先や年齢によって異なるが、スイス人を雇う場合は一般的に▽年齢が15歳以上▽受け入れ先の土地または家族と母国語が異なる▽労働時間は週30時間まで▽契約は原則6カ月から12カ月▽月490~750フランの「お小遣い」を支給▽食費、家賃、語学学校の費用はホストファミリーが負担―などだ。PRO FILIAによると、国外から来るオペアの出身国は米国やカナダ、東欧、ドイツが多く、スイスからは英国、フランスに行くケースが目立つ。また、業者を通さず個人で契約を結ぶオペアもいる。

収入を上回る保育代

 子供が1人のときは保育園に入れていたが、杏樹ちゃんが生まれて状況が一変。杏樹ちゃんの通う保育園は夕方6時過ぎに閉まるため、お迎えから佳代さんが帰宅するまでの間、ベビーシッターを雇った。小学校に通う麗奈ちゃんは、昼食と放課後の預かりサービスを合わせた「ターゲスシューレ」と呼ばれる学童保育に通わせ、金曜日は自分の自宅で子供を預かる保育ママを利用。もちろんどれも有料だ。杏樹ちゃんが生まれてからの3年間は、保育にかかる総額が佳代さんの月収を上回る月もあった。「何のために働いているんだろうと思った」と佳代さんは振り返る。

 ピアニストとしての演奏活動はあきらめざるを得なかった。自宅で練習をしようにも子供がそばにいると集中できない。かといって預ければその分お金がかかるからだ。

ピアノは自分の全て

 主婦に戻る選択肢もあったが、5歳でピアノを始め、桐朋学園大音楽学部、オーストリアのウィーン国立音楽大と名門大学を出てキャリアを積んできた佳代さんにとって、ピアノは自分の全てだった。「ここで辞めてしまったら、何のために生きてきたのか分からなくなる」と、教える仕事だけは続けた。

 だが、当時は「家の中がカオスだった」という。ベビーシッターは子供の世話以外の仕事はしない。佳代さんが夜遅く帰宅すると、台所は汚れたお皿がそのままになっていて、洗濯物は山積み。「家事の量は減らなかった」と佳代さんは話す。子供のご飯は仕事に出かける前に、ゆでるだけのパスタと出来合いのソースを用意するのが精一杯。自分の食事はファーストフードかインスタントラーメンで済ませることがほとんどだった。留学中にウィーンで知り合い結婚した夫のアドリアンさん(42)は、ロビイストとして働いており、平日は朝6時半に家を出て午後9時まで帰らない。アドリアンさんには頼れなかった。

 子供はもちろんかわいい。だが湯水のように出て行くお金と、仕事と家事に追われる日々、さらに思うようにキャリアが築けないストレスで心身ともに疲れきってしまったという。

温かい手料理が待っている

 そこで思いついたのが、知人から聞いたオペアの制度だった。インターネットの仲介サイトに登録し、イタリア人の19歳の女の子が去年8月、1年間の契約で来た。ステフィさんは今年8月に来た二人目のオペアだ。ステフィさんは「ドイツ語をマスターして欧州の航空会社に就職したい」と夢を語る。

 オペアが来て、佳代さんの生活は変わった。仕事から帰宅すると、ステフィさんが作ってくれた温かい手料理が待っている。洗濯物もきれいに洗ってたたんである。それだけのことでも嬉しかった。子供たちも「ステフィ、ステフィ」とお姉さんのように慕う。

 ステフィさんには月に650フラン(約7万4750円)を支払う。家賃や食費、語学学校の費用(月約250フラン)は佳代さん家族が負担する。「お金の問題よりも、時間の融通が利くようになったことが非常に大きい」と佳代さんは話す。いつも誰かが家にいてくれることで、子供が病気になった時なども柔軟に対応できる。演奏活動の練習に時間が取れるようにもなった。佳代さんは「オペアが来てくれて、ようやく生活に潤いが戻った」と話している。

 スイスの多様な保育サービス

スイスでは、保育園に限らずオペア、自宅で子供を預かる保育ママ(ドイツ語ではターゲスムッター)、学童保育(ドイツ語ではターゲスシューレ)、ベビーシッターなど働く親を支える多様な保育サービスがある。連邦統計局の調査(独、仏、伊語)外部リンクでは、保育園は使わずベビーシッターなどを利用する家庭、あるいは保育園と他のサービスを掛け持ちする家庭が目立つ。

調査によると2014年、国内の0~3歳の子供を持つ家庭の7割は何かしらの保育サービスを利用。そのうち保育園や保育ママ(団体に所属している人に限る)を利用しているのは20.7%、保育園は使わずに、個人のベビーシッターやオペアなどを利用しているのは30.9%、両方とも使っているのは20.1%だった。

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