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スイスの高賃金を守る「付随措置」とは?

Bauarbeiter auf einer Baustelle,
© Keystone / Olivier Maire

多くの欧州連合(EU)労働者がスイスに派遣されるが、彼らにもスイスの賃金水準や労働条件が適用される。それを支えるのはスイスに特徴的な「付随措置」だ。

賃金保護とは何か。スイスの労働組合は「同一場所の同一労働には同一賃金が支払われる」と定義する。根本的には社会主義的な理念であり、資本主義を基盤とするこの自由市場経済において達成するのは容易ではない。自由市場は常により良い条件を探る競争を必要とするからだ。

資本主義において社会主義的理念を貫こうとすれば、絶え間ない綱引きが発生する。それは経営者団体と労働組合が交渉し、最低賃金(訳注:スイスには国レベルでの最低賃金はなく、業界や州ごとに取り決める)やその他の条件を取り決める労働協約という形に結実する。

労使が労働協約を取り決めると、国はその内容が全般的な拘束力を持つと宣言できる。労使の協力関係の上に成り立つ制度と言える。

とはいえ強制力も必要だ。道路交通法のように、規則を設けてとそれを監視し、違反には制裁を与えなければならない。

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スイスでは労働時間の上限は週45時間で、全ての労働者に年4週間の有給休暇を取得する権利がある。労働条件がもっと良い雇用契約も多い。

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スイスの派遣法

欧州周辺国からスイスへの労働者を巡る規則はスイスの派遣法、正式名称「付随措置に関する連邦法」が定めている。ここでいう「派遣」とは、国境を越えて行われる仕事を指す。周辺国に住みながらスイスの企業で働く「越境労働者」とも別物だ。越境労働者の雇用主はスイス企業だが、派遣労働者の雇用主はEU企業だ。

スイスは派遣労働者が欧州でルクセンブルクの次に多い。その理由は高収入・好条件だけでなく、スイスが多言語国家という点にもある。2億2千万人のEU市民がスイスでも母国語で働くことができる。ただ実際には、スイス経済における派遣労働者の割合は0.2%とわずかだ。

付随措置とは

イタリアの左官企業は、従業員をいつでもスイスに派遣できるが、実働で年間90日までという上限がある。またスイスでの労働を8日前までにスイス当局に申請しなければならない。当局が賃金などスイスと同じ労働条件が守られているかどうか確認するためだ。企業はスイス基準の最低賃金を支払い、宿泊施設などスイスで適用される大枠の条件に従う義務がある。

随時抜き打ち検査が行われ、検査官はすべての書類、建設現場、活動の閲覧という広範な権限を持つ。検査官の給料は連邦政府と労働組合が折半する。

これらすべてを合わせて、スイス経済の欧州への開放に伴う「付随措置」とも呼ばれる。

労使による監視

欧州の他の国々も賃金保護制度を持つ。ドイツやオーストリアといったスイスの隣国も、ハンガリーやチェコ共和国、ポーランドなどとの間に「賃金の崖」を抱えるからだ。ただ、スイスの賃金保護制度は特に監視や制裁の実務において周辺国とは異なる。

スイスでは、雇用主、労働組合、当局から成る「三者委員会」が、規則が守られているかどうかを監視する。三者委員会は労働協約に一般的な拘束力があると宣言し、その有効性を保証できる。

アイルランド国立大学ダブリン校のローランド・エルン教授(欧州労使関係)は「この仕組みは効果的なだけでなく、制度を安定させる」と指摘する。欧州の通説では、国家権力に関わる任務を遂行できるのは公務員に限られ、労使ではないとされる。だがスイスでは、国家は交渉作業を労使の両サイドが対等な立場で代表する専門家に委任している。労使代表は合意を生み出すためだけに第三者として参加する。

違反には「違約金」

違反への制裁もスイス独特で、罰金として「契約上の違約金」が科される。しかも国家権力による介入、つまり裁判所の判決を必要としない。これにより匿名性を保つことができる。

スイスでは付随措置における保証金制度も活躍する。EU企業がスイスに労働者を派遣する時には一定の保証金をスイス当局に納める。違反の抑止を狙ったものだが、罰金を確実に徴収するためでもある。罰金は重く、組織的な違反を犯した企業は最高100万フラン(約1億6500万円)が科される。

EUには賃貸契約などには保証金制度があるが、労働法には存在しない。

独語からの翻訳:ムートゥ朋子

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