スイスの視点を10言語で

スイス最高裁、仏当局へのUBS顧客データの移転を承認

展示場のUBSブース
今回の判決を受けて、スイス銀行に対する刑事訴追が増える可能性があるとの指摘が出ている © Keystone/Salvatore Di Nolfi

スイス連邦裁判所は、スイスの銀行UBSの約4万人の顧客に関するデータをフランスの税務当局に引き渡すべきであるとの判決を下した。この決定は、顧客の情報を口外しない秘密主義を守ってきたスイスの銀行業界にとって大きな意味を持つ。

最高裁判所にあたる連邦裁の26日の発表外部リンクによると、裁判官は賛成3人、反対2人で引き渡しを承認した。裁判所は、仏当局の協力要請は「許容できない証拠漁り」ではないと述べた。情報を他の目的のために使用されてはならないという特定性の原則は、仏当局が原則を守ると保証している限り、要請を拒む正当な理由にならないと付言した。

UBSは判決を受けて「今日の判決は、スイス税務当局の訴えを退けたスイス連邦行政裁判所の2018年の判決を覆すもので、注視している」とコメントした。

UBSはメールでの声明で「書面の判決文を慎重に精査したい。判決とは別に、フランスで係争中の刑事訴訟では、いかなる情報もUBSの不利になるように使われないようスイス税務当局が保証することは重要だ。本日の裁判でもそうした要請が明らかにされた」と述べた。

経緯

2016年5月、仏税務当局はスイス連邦納税事務局(ESTV/AFC)に行政執行共助を要請。スイス在住または住んだことのあるフランス人がUBSに持つ口座に関する詳細な履歴の提供を求めた。

納税事務局は18年2月、共助に応じることを決定。だがUBSは口座所有者と連名で、連邦行政裁判所に異議を申し立てた。行政裁がUBS側の訴えを認めたのを受けて、納税事務局が行政執行共助をめぐる詳しい判断を求めて連邦裁判所に上訴した。

今回の連邦裁の判決は、納税事務局が仏当局に口座データを引き渡すことを認めた。スイスに隠し財産を持っていると疑われる数千人のフランス人の口座所有者の氏名や住所などを含む詳細な情報だ。

ただし判決は、仏検察官は係争中の刑事訴訟でUBSに不利になる情報として当該データを使うことはできない、とくぎを刺した。

フランスでの裁判

UBSは今年2月、顧客の脱税をほう助したとして、仏裁判所に37億ユーロ(約4千億円)の罰金支払いを命じられた

同訴訟では、UBSとフランスにある同行支店が04~12年に行われた脱税資金の洗浄を助けたとして訴えられた。UBSは起訴内容を否認した。

UBSのセルジオ・エルモッティ最高経営責任者(CEO)は26日の判決に先立って、今週は「スイスの金融センター全体にとって重要」な週になると述べた。この言葉は26日のUBSの声明に引用された。

米国とは和解

スイスを代表する銀行のUBSは、かつて米国に対するデータの提供を巡っても議論の渦中にあった。

UBSは09年、米国人顧客の脱税ほう助疑惑をめぐり、7億8千万ドル(約850億円)を支払うことで米当局と和解した。それを受けてスイス連邦司法省はUBSの顧客5万人超(後に4450人に削減)の口座名義を提出するよう求めた。

スイス裁判所は当初情報の引き渡しを認めなかったが、連邦議会が2010年、正式に米国への引き渡し協定を承認した。

15年には欧州人権裁判所がUBSの米国人顧客の訴えに対し、スイスの経済的利益は個人のプライバシーに優先するとして、プライバシーの保護要請を退けた。

スイスの反応

スイス連邦財務省は26日の声明外部リンクで、連邦裁の判決を注視するとし、「書面の判決文が公開された後に詳細を精査したい」とコメントした。ウエリ・マウラー財務相は「今日の判決は、何年も前にさかのぼる特定事案に対する行政執行共助のあり方に関連する」と述べた。「今後いかなる共助要請についても、情報引き渡しの条件を完全に満たしているか、詳細な検証が必要になる」

スイス銀行協会(SBA)は外部リンク、判決に対し「極めて懐疑的」だとしたうえで、最終的な評価の前に書面の判決文を精査したいとコメントした。「純粋な証拠収集活動へのードルが下がったことで、証拠漁りのリスクは増大した」と強調。「税務以外の目的で情報を使うことも容認され、特定性の原則を致命的に弱める恐れがある。この原則の順守は極めて重要であり、国際的に認められた規準だ」

人気の記事

世界の読者と意見交換

ニュース

巨大な豆腐を切る人

おすすめの記事

スイスでベジタリアン・ビーガン増加 若者・高学歴に多く

このコンテンツが公開されたのは、 スイスで肉食をやめる人が増えている。植物性食品を推進するスイスベジ協会(Swissveg)は30日、スイスのベジタリアンやビーガンの数は過去5年間で約40%増加したと発表した。

もっと読む スイスでベジタリアン・ビーガン増加 若者・高学歴に多く
草原のツルの群れ

おすすめの記事

スイスを横断するツルが過去最多

このコンテンツが公開されたのは、 スイス鳥類研究所によると、スイスでは今季、はやくも過去最多のツルが観察されている。なかには約800羽の大規模な群れもみられた。

もっと読む スイスを横断するツルが過去最多
手

おすすめの記事

「金銭目的」で自殺ほう助 スイスの裁判所が元看護師に有罪判決

このコンテンツが公開されたのは、 スイス南部ティチーノ州ルガーノの州刑事裁判所は23日、利己的な動機で他人の自殺を手助けしたとして、自殺教唆・ほう助の罪に問われた同州の元看護師の女(67)に条件付き罰金刑を言い渡した。

もっと読む 「金銭目的」で自殺ほう助 スイスの裁判所が元看護師に有罪判決
眼の診察

おすすめの記事

スイス、外来診療の新料金体系で合意 定額制を一部導入

このコンテンツが公開されたのは、 スイスの医療機関団体は22日、外来患者向けの新料金体系を承認したと発表した。エリザベット・ボーム・シュナイダー内務相は積年の議論に決着がついたことを歓迎した。

もっと読む スイス、外来診療の新料金体系で合意 定額制を一部導入
戦車

おすすめの記事

スイス製武器の再輸出解禁案まとまる 主要政党の賛否まとまらず

このコンテンツが公開されたのは、 スイス国民議会(下院)安全保障委員会は、スイス製武器の再輸出の解禁案をまとめた。武器の輸出から5年経過を条件に、ウクライナなど紛争中の第三国への再輸出を認める内容だ。ただ主要政党の間では賛否が割れている。

もっと読む スイス製武器の再輸出解禁案まとまる 主要政党の賛否まとまらず
新聞を読む男性

おすすめの記事

スイスで「ニュース離れ」さらに深刻に メディア品質年鑑

このコンテンツが公開されたのは、 チューリヒ大学公共・社会研究センターが毎年まとめる「スイスメディア品質年鑑」2024年度版で、スイスでニュースを平均以下の量しか消費しない人の割合は46%と、過去最高を更新したことがわかった。スイスメディア全体の質は引き続き「良好」と評価された。

もっと読む スイスで「ニュース離れ」さらに深刻に メディア品質年鑑
スイスのアイスホッケー代表

おすすめの記事

アイスホッケーのスイス代表、国旗の白十字使用認められず

このコンテンツが公開されたのは、 アイスホッケーのスイス代表チームは、ユニフォームにスイスの国旗である白十字の紋章を付けることができなくなった。スイスアイスホッケー連盟(SIHF)が連邦行政裁判所に提出した申請が遅すぎたのが原因だ。

もっと読む アイスホッケーのスイス代表、国旗の白十字使用認められず
机に座るスーツ姿の男性

おすすめの記事

スイス、ロシアに追加制裁 輸出規制を強化

このコンテンツが公開されたのは、 スイス連邦政府は16日、ウクライナに侵攻するロシアへの追加制裁を発表した。ロシアの産業・軍事・技術に必要な製品の輸出規制が強化されるほか、政党、NGO団体、報道機関がロシア政府からの寄付を受け取ることが禁止される。

もっと読む スイス、ロシアに追加制裁 輸出規制を強化
パン屋の陳列棚

おすすめの記事

チューリヒの一等地にパン屋開業 高級街に転機か

このコンテンツが公開されたのは、 高級ブランドが立ち並ぶチューリヒのバーンホフ通りにパン屋が開業し、大きな話題を呼んでいる。通りを象徴する百貨店の撤退や再開と合わせ、街の大きな転機になるとの指摘もある。

もっと読む チューリヒの一等地にパン屋開業 高級街に転機か

swissinfo.chの記者との意見交換は、こちらからアクセスしてください。

他のトピックを議論したい、あるいは記事の誤記に関しては、japanese@swissinfo.ch までご連絡ください。

SWI swissinfo.ch スイス公共放送協会の国際部

SWI swissinfo.ch スイス公共放送協会の国際部