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スイス 独裁者の 隠し資産返還でナンバーワン

ハイチのジャン・クロード・デュヴァリエ元大統領。ベべ・ドク ( BéBé Doc ) の愛称で呼ばれ、19歳で大統領に就任した。彼とその取り巻きは合計1億ドル ( 約9300億円 ) をハイチ国民から奪い着服したといわれ、その一部がスイスに流れ込んだ AFP

マルコス元大統領の隠し資産をフィリピンに返還するなど、スイスが過去15年間で数カ国に返還した資産の総額は17億フラン ( 約1400億円 ) に上る。

「これでスイスに凍結されている資産のおよそ半分が返還された。さらにスイスは、独裁者の隠し資産の法律を改正し、資産返還において世界的なリーダーになろうとしている」と連邦外務省国際法局のヴァレンティン・ツェルヴェガー新局長は話す。

swissinfo.ch : 新しい改正案によって、スイスの銀行口座に凍結されている独裁者の不正資産をその国の正当な権力者に返還することが簡易化されるのでしょうか。

ツェルヴェガー : 改正案の目的は返還のプロセスを簡易にするのではなく、現行の法律を補完するというものです。改正案の根幹は、独裁者の国で隠し資産に対し刑事訴訟に持って行けなくても、スイスがこの資産を押収することができるというものです。

つまり、スイスでは非常に明白な想定によって訴訟を起こし、資産を押収できるのです。政治的に独裁者として知られている人物の口座預金が法外に増加したと証明された場合、またその国が賄賂の横行する国として知られている場合、スイスは口座預金の出所をこの人物に問うことができます。

swissinfo.ch : こうした改正案にたどり着くまで、なぜこれほど時間がかかったのでしょうか。

ツェルヴェガー : 現行の法律は非常に効果があります。現行法がこの隠し資産に対して取る方法は2国間共助で、また今後もこの共助が基本的な方法となって行いきます。しかしこの共助が相手国の政治的混乱や体制の弱体化などで機能しなくなったケースが近年増加してきました。改正案はこうしたケースを扱うものなのです。

こうした改正案を導入するのは世界でスイスが初めてです。ですから決して改正案作成に時間がかかったとは言えないと思います。ほかの国々は、スイスがどう解決していくか見守っています。しかしわたしの知る限り、どこの国も同じ方向に法を改正しようとはしていません。

swissinfo.ch : コンゴ ( 旧ザイール) のモブツ元大統領とハイチのデュヴァリエ元大統領の隠し資産の返還がうまくいかなかったことで、かなりのマイナスイメージをスイスは受けたのではないでしょうか。

ツェルヴェガー  : どれほどのマイナスイメージか分かりませんが、今後二度とこうしたケースがスイスで繰り返されないよう望んでいます。

確かにこの二つの隠し資産を解決することはできませんでした。理由は、共助において相手国が積極的に資産返還に協力しなかったからであり、また協力したくても相手の関係機関が弱体化したためできなかったということです。今回の改正案はこうしたケースにおいても、隠し資産をこれを受け取るのにふさわしい国民に返還することなのです。

swissinfo.ch : この優れた改正案で、今後スイスの銀行は独裁者の「不正財産の天国」ではなくなると確信できるでしょうか。

ツェルヴェガー  : どの国もこうした確信を持つことはできないと思います。スイスは世界の金融界で第7位に位置していますが、こうした資産の返還においてはナンバーワンなのです。返還において世界のリーダーだと言っていいと思います。しかし、隠し財産を国から締め出すことが可能だとは、どの国も言い切れません。だからこそ、今回の改正案が必要になるのです。

数年前、スイスはマネーロンダリング ( 資金洗浄 ) に関する厳しい法律を導入し、そのお陰で今日マネーロンダリングの数は激減しています。仲介の金融機関がお金の出所と背後にいる人物に関する正確な情報を収集する義務があるからです。

銀行口座を開きやすい国を調査した最近の研究によると、スイスは最も口座を開きやすい国の一つではありません。これは、法律の制定を含めたシステムが機能している証拠です。

swissinfo.ch : いくつかのNGOは、この改正案でもまだ十分ではない。また返還後の資産の行方も監視すべきだと要求していますが、あなたの意見はいかがでしょうか。

ツェルヴェガー  : 改正案が不十分だとも、また反対にやり過ぎだとも両方の批判を耳にしています。わたしは、改正案はちょうどよくバランスの取れたものだと思っています。

われわれはまず基本的に共助を相手国に要求することから始めます。もし要求しなければ相手国は、被害者でありながら決してスイスに対して共助要求を行わないからです。そうして何もしないでおいて「スイスがすべてやってくれる」と言うのです。そしてもしわれわれのほうから働きかけなければ、「スイスは何もしなかった」と言うのです。

改正案の要点は、すでに存在し効力を発揮している現行法を基本とし、これを補完する条項を付け加えるのであって、現行法の土台を崩すことではないのです。

また、返還後の監視についてですが、監視が重要だというNGOの考えに賛成しますし、改正案で行えるシステムはうまく機能していくと思います。しかし、この監視のシステムは一辺倒ではありません。その国の状況に応じて、ケースバイケースの柔軟な、状況に合わせた方法を取りたいと思っています。

swissinfo.ch : 改正案はまだ凍結されたままのデュヴァリエ元大統領の隠し資産、570万ドル ( 約5億2600万円 ) への解決の糸口を与えるでしょうか。

ツェルヴェガー  : 改正案はこの夏と秋に連邦議会を通過するので、はっきりとしたことは言えませんが、しかしもし改正案がデュヴァリエ元大統領の隠し資産に適用されうるのであれば、政府は解決を行うと思います。

サイモン・ブラッドレー、swissinfo.ch
( 英語からの翻訳、里信邦子 )

コンゴ ( 旧ザイール ) のモブツ元大統領とハイチのデュヴァリエ元大統領の隠し資産の返還がうまくいかないことから、スイスは改正案の必要に迫れた。

改正案によれば、被害者である相手国内で訴訟に持っていくことに失敗した場合、スイスの行政裁判所が不正な隠し資産を押収できる。押収された資産は被害国の国民が利益を得るようなプログラムに資金として使われる。

改正案の下では、隠し資産が不当に略奪されたと原告側が証明するというより、むしろ資産を預金した者が資産の法的な出所を証明することに重点が置かれている。

改正案は今年の夏・秋の連邦議会を通過し、国民投票で承認された場合、早くて2011年初めに発効となる。

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