スイスの観光名所ツェルマットとイタリアを結ぶ新たなロープウェイが完成した。主なターゲットはアジア人観光客だ。強気な価格設定ながら、パンデミックからの回復を加速させる起爆剤として関係者は大きな期待を寄せる。
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クライン・マッターホルン(標高3883メートル)と、スイス・イタリアの国境にある展望台テスタ・グリジア(Testa Grigia)を結ぶロープウェイ「マッターホルン・グレッシャーライドⅡ外部リンク」が1日、運行を開始した。これにより、ツェルマットからイタリア側の麓町チェルビニア(Cervinia)を7区間で結ぶルート「マッターホルン・アルペン・クロッシング外部リンク」が完成した。
「これはスイス観光への新たな玄関口だ」。ツェルマット山岳鉄道のマルクス・ハスラー社長はこう喜びを語る。狙いを定めるのはアジアからの観光客だ。スイスの北にあるドイツから南下する旅行者や、ローマやフィレンツェ、ヴェネツィアといった(隣国の)イタリアを周遊してからフランスに向かう2週間の欧州ツアーに、ツェルマットを組み込みやすくなる。
マッターホルン・グレッシャーライドⅡのキャビンは、テオデゥール氷河の上空を通る。長さ1.6 キロメートル、標高差は363メートルあるが、途中に鉄塔はない。
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世界有数の観光地マッターホルンを抱えるツェルマット観光局は、喜びに満ちている。ダニエル・ルッゲン観光局長は「アジアからの観光客は今年、順調に回復している。日本人や中国人など一部はもう少し時間がかかりそうだが、韓国や、インドネシア、台湾、シンガポール、タイなど東南アジアからの観光客が多くツェルマットを訪れている」と話す。
パンデミック前の2019年、スイスへの観光客の14.6%をアジア人が占めていた。2021年には0.8%と過去最低水準に落ち込み、22年には5.3%にやや回復した。
実際、この数年はツェルマットからアジア系団体客の姿が消えていた。2023年はアジア人観光客の急回復が見込まれるが、ツェルマットのような高級リゾート地は今も団体客を歓迎するのだろうか?ハスラー氏は「私たちは大規模な大きな団体客ではなく、家族連れや小グループを望んでいる。価格設定がモノを言う」と話す。
往復240フラン
ツェルマット~チェルビニア間の往復料金は240フラン(約3万8500円)と高額で、決して団体客に照準を定めた価格ではない。ただ片道156フランで1時間半の移動だと思えば決して高すぎる旅ではない。「シミュレーションしたところ、1日の利用客100~150人が望ましい。ツェルマットのスキーリフトは、ピーク時には1日8000~9000人が利用する。さらに100人増えたところで状況が大きく変わることはない」(ハスラー氏)
マッターホルン頂上の駅で、スイス側とイタリア側の2つの自律設備と鉄道システムが接続される。
谷側のテスタ・グリジア駅(標高3458メートル)は完全にスイス領内にあるが、イタリア国境をほんの数メートルで超えることができる。
2024年以降は現在建設中の新しいキャビンも導入される。各方面1日2便の手荷物輸送サービスも始まり、旅行者は身軽に移動できるようになる。
イタリアはスイスを真似したい
イタリア側で運行中の旧式キャビンはかなり時代遅れになっている。イタリアのヴァッレ・ダオスタ自治州は、チェルビニア~テスタ・グリジア間のロープウェイを改修する計画だ。
これを見越して、スイスはテスタ・グリジア駅を拡張できるようにイタリア・スイスの国境にある土地を割譲する予定だ。今夏には税関業務も始めるため、スイス政府の許可が下りるのを待っている。
いずれもスイスの観光業にとってもうまみがある。マッターホルン・グレッシャーライドⅡの建設費用もスイスが全6000万フランを負担した。ハスラー氏は「未来への投資」として、パンデミックを乗り越えて黒字に転じることを期待する。イタリアは外出禁止期間中、スキーゲレンデを閉鎖しなければならなかった。
ハスラー氏は、スイス人や観光客がマッターホルン・アルペン・クロッシングを利用して、イタリア側でショッピングを楽しんだりイタリア料理を味わったり、チェルビニアでゴルフをしたりする可能性があるとみる。
マッターホルン・アルペン・クロッシングは全体で540キロと世界で2番目に長い山道を擁する。雪が十分に積もれば、11月にはスイスとイタリアの国境を越えるダウンヒルレースが開催される。クライン・マッターホルンからチーメ・ビアンケ(Cime Bianchi)まで全長5キロ、高低差1000メートルと、世界最大のレースになる。
編集:Virginie Mangin、仏語からの翻訳:ムートゥ朋子
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