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ノバルティス 世界で2000人カット

バーゼルに本拠地を置く製薬大手ノバルティスは、好調な業績を残しながら将来を見据えて人員削減を続行する Reuters

何兆円もの収益を上げたにもかかわらず、製薬大手ノバルティス(Novartis)は世界中の全社員12万1000人のうち2000人の削減に踏み切る。

削減の理由として挙げられたのは、医薬品などに対する価格圧力。労働組合や従業員組合はこの対策に怒りをあらわにし、解雇を回避するよう求めている。

 10月25日の発表によると、削減は今後3年から5年の間にスイスで集中的に行われ、全社員1万2500人のうち1100人が対象となる。最も多いのはバーゼルで、自社オフィス街「ノバルティス・キャンパス」の中の化学工場1棟が閉鎖されるほか、特定の研究事業が移出される予定。全日勤務換算で760人が削減される。

 一方、ヴォー州ニヨン(Nyon)にある非処方せん医薬品の製造工場は完全に閉鎖される。この工場には320人が勤務している。最高経営責任者(CEO)のジョゼフ・ヒメネス氏によると、ここで行われている製造業務は今後、ノバルティスのほかの工場か別の会社の工場に移される。

理由は価格圧力

 人員カットの最大の理由は、医薬品に対し、膨大な債務を抱えた赤字国家から価格圧力がかかっていることだ。今年はヨーロッパの医薬品価格が約5%低下した。スイスだけでも過去3年間で1億フラン(約89億円)の影響が出ている。

 それに加え、後発医薬品(ジェネリック医薬品)の存在も売り上げを抑えている。だが、スイスフラン高はほぼ無関係だとヒメネス氏は言う。

 ノバルティスの人員削減は今に始まったことではない。約1年前にもアメリカの外勤社員1400人の削減が公表された。春にはイギリスで500人をカット。同じくバーゼルに本拠地を置く製薬会社のロシュ(Roche)も、1年前に世界中で4800人の人員を削減すると発表した。

 ドイツの製薬大手バイエル(Bayer)も4500人の人員カットを計画中だ。さらに世界最大の製薬会社ファイザー(Pfizer)も、研究開発費を抑えてコストを約3分の1削減する意向だ。

低賃金の国へ

 今回の人員削減でノバルティスは年間約2億ドル(約152億円)を節減する見込み。しかし、その効果が現れるまでには3年から5年かかるとヒメネス氏はみている。「製造業務の移出後、それが再びスムーズに機能するまでに時間がかかる」からだ。移転先は中国、インドなどの低賃金国で、700人の新規雇用が予定されている。

 「価格圧力はこれからも続くだろう。この先の2、3年で状況が大幅に改善されるとは思えない」とヒメネス氏は先を読む。

 しかし、競合他社と比べるとノバルティスの立場はそれほど悪くはない。何らかの形で患者に一部払い戻しをする医薬品の収益は、売り上げ全体の55%を占めるに過ぎないからだ。他社の中にはこれが9割を占める企業もある。

大きく成長

 今年9月までのノバルティスの売り上げおよび利益は大幅に上昇し、ドル安の中、売り上げは昨年比2割増しの437億8500万ドル(約3兆3255億円)に上った。しかし、為替相場が安定していれば、売り上げの伸びは15%程度にとどまっていたはずだ。

 営業収益は7%増の96億8100万ドル(約7351億円)。純利益は80億3500万ドル(約6101億円)で昨年比4%の増加だ。これはアナリストの予想を下回る結果で、スイスの株式市場ではノバルティスの株は25日午後4時前までに3.2%下がり、50.15フラン(約4338.26円)の値をつけた。

 このような好成績の元で公表された人員削減策に対し、労働組合や従業員の代表は立腹を隠せない様子だ。スイス被雇用者連盟(Angestellte Schweiz/ Employés Suisse)やノバルティス被雇用者連盟(NAV)は共同で声明を発表し、「衝撃を受け、非常に驚いている」とコメントした。

 さらに「市場の圧力が増大していることから、何らかの対策が取られることは予想していたが、スイスの被雇用者の9%を削減するのは過剰反応だ」と批判する。

 労働組合のウニア(Unia)とシナ(Syna)も「従業員と国家に負担を強いて最大限の利益を得ようとするのは受け入れがたい」と批判し、削減および解雇を回避するよう要求している。シナは政界に対しても、化学・製薬業界の拠点維持に向けて尽力するよう求めている。

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