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ゴッタルドについて知っておくべき7つのこと

ゴッタルドは、スイスとヨーロッパの南北を隔てていると同時に、南北を結び付けてもいる Keystone

スイスのゴッタルド道路トンネルは現在、構造上の欠陥により閉鎖されている。世界最長のゴッタルド鉄道トンネルもまた、通行止めとなっている。再開を待つ間、スイスの歴史を作ったアルプスの山塊の最も重要で不思議な点をいくつか紹介しよう。

※本記事の初版は2016年6月1日に配信されましたが、2023年9月16日に内容を更新しました。

 トレムロ山、ウルサリ山、エルヴェリニュス山、サンクティ・グッタルディ山。今日サン・ゴッタルドと呼ばれる山はかつて、さまざまな名で呼ばれていた。そして、このアルプスの巨大な山塊にまつわる歴史やその重要性と展望もまた数世紀の間にさまざまに変化してきた。ちなみに、厳密に言えば、ゴッタルドは山ではなく山塊だ。「サン・ゴッタルド」という名の山は存在しない。

1.神話としてのゴッタルド

カスパー・ウーリッヒ・フーバーの作品(1860年ごろ)に描かれた、シェレネン渓谷にかかる「魔の橋」 AKG

1291年に原始3州が同盟を宣誓した舞台となり、またハプスブルク家への抵抗の地ともなったゴッタルドは、特別なオーラを放っている。マッターホルンを始めとするいかなる有名なスイスの山々も、ゴッタルドのように象徴的な価値を持つものはない。ゴッタルドはスイス連邦の起源、アルプスの中心、人々の交通の要、ヨーロッパを流れる大河の生まれた場所、南北文化の交差点、そしてスイスという国の独立と統一、アイデンティティーの象徴なのだ。

ヌーシャテル大学で中世史を教えるジャン・ダニエル・モレロ教授はかつてswissinfo.chの記事で、ゴッタルドがこのように多様な重要性を持つことについて「13世紀にゴッタルド峠の商業的な重要性が高まったこと、ハプスブルク家に対する地元の抵抗が同時期に起きたことが理由の一つだ」と解説した。一方、作家のペーター・フォン・マット氏は、ゴッタルドは「スイスの自己賛美」を実現する「スイスのシナイ山(モーゼが神から十戒を授かったとされる山)」のようなものだと描いた。

だが、フォン・マット氏が言うように、ゴッタルドに関して語られてきたことの全てが、事実だったというわけではない。ゴッタルドは長い間、アルプスの最高峰だと信じられていたが、それが打ち破られたのは18世紀に入ってからだったと歴史家のラルフ・アッシュヴァンデンさんは話す。

2.スイスの要塞としてのゴッタルド

第2次世界大戦中の1940年7月。ナチス・ドイツが欧州で侵攻を進める中、中立国スイスはゴッタルドを中心に「貝のように」閉じこもり、身構えた。軍の最高司令官となったギザン将軍は、アルプス地域、特にゴッタルドの要塞を中心とした防衛計画「国家要塞」を採用してスイスを守った。

その国家要塞計画では、ゴッタルドの山塊を掘り、坑道、トンネル、小要塞、そして掩蔽豪(えんぺいごう)が築かれていった。第1次世界大戦中すでに建設が始まっていたゴッタルドの要塞は重要な軍事地点となったが、現在でもそれは変わらない。サッソ・サン・ゴッタルド博物館長のダミアン・ツィングさんが、ほんの数年前まではスイス軍により機密とされていた要塞の中を案内してくれた。

3.世界最長の鉄道トンネル「ゴッタルドベーストンネル」

ゴッタルドのトンネルが記録を達成するのは、実はこれが初めてではない。1882年、初の鉄道トンネルとなる長さ15キロのゴッタルド鉄道トンネルが開通し、1906年にシンプロン・トンネルができるまでは世界最長を誇っていた。また、1980年に開通したゴッタルド道路トンネル(全長16.9キロ)も開通同時は世界最長だった。その後ノルウェーのラルダール・トンネル(24.5キロ)に記録を塗り替えられた。

以下の図は、ゴッタルド基底トンネル開通当時の世界の鉄道トンネルだ。その後、中国の松山湖トンネル(38.8km)、深圳・香港間トンネル(35.7km)が建設された。

swissinfo.ch

2016年6月1日、ゴッタルド基底トンネルの開通により、岩盤に掘られた57.104kmという新記録が打ち立てられた。この記録は現在も破られなていない。

ゴッタルド基底トンネルの凄さはその長さだけにとどまらない。このトンネルとロンドンのウェンブリー・スタジアムやニューヨークのエンパイア・ステート・ビルディングとの関係をこちらの記事で解説している。

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4.安全性を重視したゴッタルドベーストンネル

スイス連邦鉄道(SBB/CFF)は、ゴッタルドベーストンネルが旅客・貨物輸送の両方において、全ての面で安全を保証できると確信している。2本の単線トンネルで構成されているベーストンネル内では衝突事故の危険性は無く、火災発生や有毒ガス、車軸の加熱や積荷のずれなどを素早く感知する検知システムも設置されている。また、不備のある車両はトンネルに進入する前に停止される。

平行に走る2本のトンネルの間には、325メートルごとに横断路が設置されており、緊急の場合乗客はそこを通って安全地帯まで避難することができる。電車が非常用アラームを始動させた際には、車両はセドルンかファイドにある二つの避難地点のいずれかの避難駅まで自動的に送られる。

山の内部を見ると、トンネルや地下通路の複雑なシステムと、安全コンセプトの仕組みがよくわかる。

だがそのために技術的な問題が繰り返し起こり、トンネルの一時閉鎖をもたらした。2023年8月10日には貨物列車が脱線し、1カ月以上一部閉鎖されている。

5.ヨーロッパの南北を近づけるゴッタルドベーストンネル

ミラノがチューリヒの郊外になる?ゴッタルドベーストンネルとスイス南部のチェネリ山を通るチェネリトンネルの完成によって、スイスの経済首都チューリヒと伊ロンバルディア州都のミラノはさらに近くなり、所要時間は従来の4時間から3時間足らずに短縮した。

さらに言えば、ゴッタルドベーストンネルはアルプスを縦断する主要交通路であり、ヨーロッパ鉄道の中でも最も重要な回廊となる。

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6.作業員と技術者たちの功績

今世紀最大の建設現場、鉄道建築家の傑作、スイスがヨーロッパにもたらした宝石。ゴッタルドベーストンネルは、あらゆる最上級のものを結集して作られた。だが、何といっても、大半が外国人労働者だった数百人の掘削作業員や技術者たちが、昼夜を問わず17年もの長い間、気温40度近くにもなる過酷な環境の中で作業を続けてきた努力の結晶だと言わざるを得ないだろう。作業は決して楽なものではなく、9人の死者も出た。swissinfo.chのカメラマン、トーマス・ケルン記者は2009年、地中深くで汗とプレッシャーの中で仕事をする作業員たちを取材した。

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現ゴッタルド鉄道は19世紀末から運行している Keystone
電車「RAe 1050」は1961年に運行を開始した Keystone

7.ゴッタルド峠を徒歩で歩いて再発見

「20分」。ゴッタルドベーストンネルの北の始発駅エルストフェルトから南のボディオ(ティチーノ州)までアルプスを縦断するのにかかる時間だ。言い換えれば、電車で地中を通りながら、ゴッタルド峠にまつわる歴史と神話、伝説に全く気づくことなく通り過ぎてしまう20分でもある。

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では、この山塊とゴッタルド地方全体を(再)発見するのに、徒歩を超える方法があるだろうか?swissinfo.chのジャーナリスト2人が、その体験を特集ルポ外部リンクで詳細に綴った。

(仏語からの翻訳&編集・由比かおり)

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