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多国籍企業 拠点選びにスイス離れの傾向

オランダ
ネットフリックスやユニクロなど超有名企業が白羽の矢を立てるオランダ​​​​​​​ Keystone / Cris Toala Olivares

かつて多国籍企業の拠点として理想的とされたスイス。しかし、今やオランダなど欧州内にある他の「ハブ」にお株を奪われつつある。

多国籍企業に人気の欧州拠点として、スイスが5年前の首位から3位に順位を落としていたことが最新の調査で分かった。スイスはシナリオを練り直す必要があるのだろうか。

コンサルティング会社マッキンゼー・アンド・カンパニーが経済連合エコノミースイス、在スイス多国籍企業連合スイスホールディングスなどと共同で作成し、去る4月に公表した報告書「Switzerland, Wake Up(仮訳:目覚めよ、スイス)外部リンク」は、多国籍企業の拠点受け入れに関し、スイスはアイルランドやルクセンブルク、英国、オランダなどの近隣諸国に遅れを取りつつあると、警鐘を鳴らしている。

同報告書は、欧州連合(EU)との関係や税制改革などスイスが抱える政治的リスクに言及。その上で、より根本的な弱点に「人材不足」を取り上げ、「スイスは世界トップクラスの大学を擁するにも関わらず、資源集約型の多国籍企業を引きつけるに十分な人材を供給できていない」としている。

多国籍企業は、スイスではかねてから経済や社会の重要な構成員と位置付けられてきた。スイス系を含む様々な多国籍企業の割合は、企業数では全国の5%未満だが、雇用創出数では26%を占め、GDP(国内総生産)の3分の1に貢献している。また、連邦法人税納税額の約5割は多国籍企業による。

オランダ効果

この5年間で大躍進した国はオランダだ。多国籍企業が拠点を欧州へ、あるいは欧州内で移動させるケースで、アイルランドとスイスはそれぞれ過去5年間にシェアを3ポイントと8ポイント落とした。一方、オランダは7ポイント拡大した。

この期間、オランダにグローバル本社かリージョナル本社を開設したビッグネーム企業はウーバー、ネットフリックス、ユニクロなどがある。パナソニックを始め、英国のEU離脱(ブレグジット)をにらみ同国への本部移転計画を放棄した企業も、オランダに流れている。

アルプスの景観こそ望めない北の低地国オランダだが、交通の便や高度なインフラ、欧州市場への好アクセスはそれを補って余りある。報告書がまとめた多国籍企業トップらへの聞き取り調査では、スイスを検討の対象外とした理由として、市場開放性の不十分さが挙がっていた。またオランダには、アムステルダムなど都市部でも気軽に自転車通勤できるという魅力もある。

希望の光

スイスがいまだ抜きん出ている領域もある。たとえばR&D(研究開発)やライフサイエンスの分野だ。マッキンゼーの調べによると、多国籍企業が立ち上げたR&D拠点のシェアにスイスが占める割合は26%で、5カ所の立地中2番目。これは喜ばしい結果だ。なぜならば、R&D拠点はその他の事業分野に比べて1人当たりのGDP増加に寄与する度合いが大きいからだ。R&D拠点をスイスに置いた企業には、世界的な美容関連企業のコティ社やテック関連大手のオラクル社などがある。

また、スイスでは特にバーゼルに医薬品やヘルスケア関連の企業が集中しているが、この特色も衰えない魅力の一つだ。地域GDPにおけるR&D関連支出でバーゼル地方は世界一。住民100万人当たりの医薬品特許数でもトップの座を占める。

報告書は、グーグル社を始め数々のケーススタディを紹介している。同社は10年前にチューリヒに拠点を開設。ここを「セカンドホーム」と呼び、約2000人の社員を抱えている。これは同社がシリコンバレー外に置く拠点としては世界で2番目の規模だ。また、ノバルティス社のスピンオフ企業でアイケア製品メーカーのアルコン社はジュネーブに、スポーツ用品メーカーのアディダス社はルツェルンに、それぞれ拠点開設を計画している。

遅すぎる針路変更?

前述の企業トップらへの聞き取り調査で判断する限り、ビジネスのしやすさや生活の質などの面でスイスの評価は依然高い。だが、風光明媚な山岳風景や比較的正確な鉄道ダイヤなどは、もはや切り札とはならない。

報告書は、制度の安定性を始めとしたスイスの魅力が失われつつあるとして、欧州連合(EU)や重要な貿易協定との関係、税制改革に関する国民投票、さらには、スイスに本社を置く企業に対し人権と環境問題で企業責任を問う道を開く「責任ある企業イニシアチブ(国民発議)」成立の可能性など、先行き不透明な案件のいくつかに言及している。

一方、他国に大きく水をあけられているという点に、人材の入手可能性がある。人材不足は特にテクノロジー分野で顕著だ。過去5年にテック企業の18%が英国を、11%がオランダを拠点に選んだのに対し、スイスはわずか3%だった。スイスはアリババなど中国企業をめぐる招致競争でも遅れを取っている。中国企業が選んだ国は英国がトップで24%、対するスイスはわずか5%だった。

スイスは他の欧州諸国に比べ、科学、技術、工学、数学といったSTEM系教育分野の大卒者が少ない。その上、EU域外市民には厳しい移民法が適用されるため、そういった人材の不足を欧州外からの移民で補うことも難しい。企業トップらからは、スイスでは女性が働きにくいとの声があるが、これも人材不足を助長している。

報告書には、スイス国内の移動における壁についての指摘もある。ある企業のトップによると、本部所在地を45分離れた都市に移しただけで従業員の3分の1が辞めていった。

しかし、報告書によれば、政治絡みの案件は度外視するとしても、スイスには今も企業を引きつけるだけの材料が揃っている。ただし、成功のための新しい処方箋は必要だ。

(英語からの翻訳・フュレマン直美)

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