外国送金 高い手数料がいまだ問題
母国に暮らす家族への外国送金が近年、世界中で増加している。しかし、送金にかかる手数料は依然高いままだ。外国送金をする移民が多いスイスでは、ある若い企業家がその点に注目。各社の手数料が比較できるサイトを立ち上げた。
外国に暮らす移民が途上国に送金した額は、2013年に世界中で合計4100億ドル(約42兆円)。世界銀行と国際通貨基金(IMF)によれば、これは10年前に比べると4倍の額になる。
スイスからの外国送金は年間およそ200億ドル。世界的にみると、1位の米国(483億ドル)、2位のサウジアラビア(260億ドル)に次ぎ3位。この3カ国の共通点は、住民の2割以上が外国人ということだ。
スイスに暮らす外国人が母国に送金する額は、人口比では1人当たり年間1万1千ドルで世界1位。一方サウジアラビアでは、平均額はその3分の1。米国においてはスイス平均のたった10分の1でしかない。
こうした違いは外国人の出身国によるものだと、国際移住機関(IOM)のクリス・ロム広報担当は説明する。「スイスに居住する外国人の数は、2011年の公式統計では170万人。そのうち150万人が欧州出身だ。その多くが高度な資格を持ち、給料のより高い仕事に就きやすい」
同様の意見なのが、この分野で多くの著書を執筆してきた、ヌーシャテル大学のシャニン・ダーヒンデン教授(国際社会学)。「スイスは世界的な経済危機の影響をさほど受けておらず、スイスに住む外国人の多くは経済危機による深刻な問題がなかった分野に従事している」
世界銀行グループとスイスの連邦外務省開発協力局は、国際研究プログラム「移民と開発に関するグローバル・ナレッジ・パートナーシップ(KNOMAD)」に積極的に関わっている。KNOMADの目標は、移民と送金の流れに関する情報を集約することだ。
最大の出資国であるスイスは、2013年から2017年の期間に500万フラン(約5億8千万円)を提供する予定。
KNOMADには国連、経済協力開発機構(OECD)、国際移住機関(IOM)なども参加している。
出典:世界銀行、連邦統計局
コソボ出身の移民
「送金額でみれば、ドイツ、フランス、スペインはスイスからの送金で最も重要な送金先だ」と、インターネットサイト「TawiPay(タウィペイ)」の創設者、フランソワ・ブロワ氏は語る。スイスの若い会社であるタウィペイは、送金にかかる手数料の透明化を目指している。
スイスでも外国送金が増加傾向にあるが、公式な統計はまだない。
連邦経済省経済管轄局の担当者はこう言う。「当局はこうした外国送金に関するデータを取っておらず、世界銀行が発表する数字は推計に過ぎない。一般的に、世界銀行の統計は途上国および欧州諸国への送金すべてを網羅している。おそらく、スイスからの送金先の多くがヨーロッパの隣国だろう」
「外国送金と移住」に関しては、連邦外務省開発協力局とヌーシャテル大学が共同で調査。この珍しい研究から、スイスからの送金の特徴が明らかになった。それによると、送金を受けたコソボ人家庭の3分の1が、そのお金を消費財や高級品に使ったり、会社を起こす資金にしたりしていた。
こうしたお金の使い方は他の地域とは大分違う。世界銀行によれば、世界の7億人は外国に住む家族からの仕送りのおかげで何とか生活が送れている。また、アフリカやアジアを中心とした国の多くでは、こうしたお金が経済発展の重要な一因にもなっている。例えば中央アジアのタジキスタンでは、国外在住のタジキスタン人からの送金額が国内総生産(GDP)の48%を占めている。
競争原理に反する業務
世界中の移民の誰もが直面する問題がある。それは、どうやって母国の家族に送金するかということだ。ヌーシャテル大学のダーヒンデン教授は「外国送金の一部は今でも手渡しだ。公式ルートと非公式ルートは常に並行してある」と指摘する。そのため、たとえ公式な統計があるとしても、そこに表示された数字をうのみにしない方がよいという。
現金を手渡しはしないという人は、ウエスタンユニオン社やマネーグラム社などの外国送金を専門とする企業か、または地元の銀行に頼ることになる。しかし、そうした企業を利用した際にかかる手数料は高く、送金額の最高10%になることもある。
世界銀行の広報担当によれば「送金手数料の世界平均は、2013年の第1四半期では送金総額の約8.85%だった」という。
高い手数料の最大の理由は「この分野の企業が、競争原理に反した業務を営んでいることにある」と、ダーヒンデン教授は指摘する。「こうした企業は送金の受け取り機関と長期契約を結び、除外条項や不透明な費用(為替と手数料)を受け取り側に押し付ける。また、外国送金する人を守る権利が定められた法律もない」
狙いは移民グループ
こうした憤りから、フランソワ・ブロワさんとパスカル・ブロワさん兄弟は他の若いスイスの企業6社と協力し、前述のタウィペイを設立。各社の手数料を比較できるようにした。
タウィペイの利用は無料。金融機関2200社をカバーしており、世界の外国送金総額の6割を占めるという。
「(このサイトは)まだベータ版なので、宣伝はしていない。それにもかかわらず、すでに1万5千人がアクセスしている」と、フランソワさんは言う。
「移民グループの間で、我々のサービスが急速に知れ渡るようになるだろう。また、カバーする金融機関や言語を増やせば、サービスがさらに拡大するはずだ」
目標は先延ばし
「開発における送金の意義を考えれば、我々は送金の透明化を促さなければならない。また、こうした市場における各国機関および国際機関との協力関係を改善する必要がある」。主要20カ国・地域(G20)の政府は2009年、ローマで行われた国際会議で、この文言が記された「外国送金に関するロードマップ」に署名した。G20は同年、「5X5イニシアチブ」と呼ばれる目標を打ち出した。これは、外国送金のコストを、送金総額の10%から5%に下げるというもので、目標達成には5年の期限が設けられていた。
あと1年で期限終了となる。しかし、各国政府が意思表示をしたにもかかわらず、目標達成にはいまだ遠い。
「なぜ『5X5イニシアチブ』が成功しなかったのかを説明するのは難しい」と、フランソワさん。「必要なのは、さらなる透明化、情報アクセスの改善、移民との積極的なコミュニケーションだ。欧米諸国だけでなく南半球の国の政府も自分の責任を自覚し、(外国送金に)どのような方法があるのかを国民に知らせ、送金サービス業者間の競争を促さなければならない」
外国送金が2011年に最も多かったのは、米国で480億ドル(約5兆円)。次いでサウジアラビア(260億ドル)、スイス(196億ドル)、ロシア(186億ドル)、ドイツ(159億ドル)。
最も多い送金先の国は以下のとおり。インド(638億ドル)、中国(408億ドル)、メキシコ(236億ドル)、フィリピン(230億ドル)、ナイジェリア(206億ドル)。
スイスは送金元の国としては3位だが、受け取り国としては最下位(年間330万ドル)。
(独語からの翻訳 鹿島田芙美)
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