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「この仕事に失敗はつきものだということを学ばなければならなかった」

Peter Zumthor
ピーター・ズントー「建物を最後のねじの一本まで考え出すのが楽しい。小規模な建築に限らず、大きなものでもいい」 Keystone

スイス人建築家ピーター・ズントーがドイツの建築家連盟によって授与される2017年BDA大賞を受賞外部リンク。彼は現在、新ロサンゼルス郡立美術館外部リンク(LACMA)の設計を手掛ける傍ら、初めての高層ビルをベルギーで建てる計画を進めている。世界中で活躍するズントーが、建築への思いを語る。

BDA賞の審査員はズントーについてこう語る。「ズントー作品は建築を人類の『原初の創作物』に立ち戻らせる」。そして、「建築と雨露をしのぐことの元来の意味」を誰よりもよく知っている人は、ズントー以外にはいないと言う。彼ははまた2009年に、建築界で名誉あるプリツカー賞外部リンクも受賞している。ズントーの品質へのこだわりと細部まで行き届いた神経が、「作品に時代を超越した正当性を与える」のだという。

スイスインフォ: 何からインスピレーションを得ますか?

ピーター・ズントー:イメージや雰囲気、場所の感じなどから。その際には、耳を傾け、依頼主が何を望んでいるか、プロジェクトに必要とされるものは何かを理解しなければならない。さらには不協和音を奏でる要素を拾い上げることも必要だ。時には、「本当にそれを望んでいるのですか?」と聞き直さなければならないこともある。また当然ながら、現場に行くのは楽しい。その場所に家を建て、その場所の質を高めたり支えたりして貢献する。これが私の情熱だ。それまで見えなかったものを見えるようにしたりすることもある。例えばその場所の失われた歴史の一部などだ。

スイスインフォ: 橋の建設はどうですか?できると思いますか? 

ズントー: できないが、橋は好きだ。美しいアーチを描く、新しいタミナ橋の写真を最近見た。これと同じような論理を備えた建築を設計したい。設計の論理によって生み出された美しさをもつ建築をだ。ロサンゼルスで現在手がけている建築には巨大な柱があり、大きな橋と似たところがある。だから技術者と緊密に協力しながら進めている。建物の構造と静力学について話し合う、素晴らしい共同作業だ。

スイスインフォ: ズントーさんの建築には、ズントーさんが「静かな空間」と呼ぶ光と影の相互作用があります。それは何ですか?

ズントー: 作者がたえず、自分がいかにすごいかを見せびらかしているように感じられる映画や本が時々ある。それは私のやり方ではない。私は背景に溶け込み、時が経つにつれて愛されるようになる建物を建てたい。

LACMA
ピーター・ズントーが設計を手掛ける新ロサンゼルス郡立美術館(LACMA)の構想 Museum Associates, LACMA

スイスインフォ: プロジェクトの中で最も楽しいのはどの部分ですか?

ズントー: 建設過程は素晴らしい。20人、200人、2000人の人間が何かを作り上げ、その一人一人の能力がすべて動員されているのを見ると誇らしくなる。その喜びは、さまざまな楽器の奏者と共に仕事をする指揮者のようなものだ。プロジェクトの初期も楽しい。最初のアイディアにはいつも興奮するものがある。その興奮が、建築家として長いプロセスの最後までやり遂げる支えになる。途中でどんな困難に直面しようと、やり抜かなければならないのだ。

スイスインフォ: 失敗にはどう対応しますか?

ズントー: この仕事に失敗はつきものだということを学ばねばならなかった。ぞっとする瞬間がある。ベルリンにある「テロ・トポグラフィー(テロの地勢図)」記録センターの最初の足場が取り壊されるのを見た時には、涙が浮かんだ。また、スイスの民主主義がとる一部の手続きには絶望的な気分になることもある。

スイスインフォ: 主要作品の一つであるヴァルスの温泉スパ設備購入しようとされましたが、かないませんでした。市議会が別の人に売却することにしたためです。それについて、今どう思われますか?

ズントー: 今になって思えば、購入できなくてよかったと思う。

スイスインフォ: 現在、ヴァルスで建築家トム・メインによる300メートルのタワーの建設が計画されています。このプロジェクトについてどう思われますか?

ズントー: トム・メインは優れた、興味深い建築家だ。25年前、ロサンゼルスの大学で一緒に教鞭をとったことがある。大きな感銘を受けた。挙がった批判に対して彼はよく、私にはまったく理解できない説明をしていた。そして周囲を見回すと、同僚や学生たちも彼の言いたいことを理解していなかった。ロサンゼルスには彼の素晴らしい建築がいくつかある。しかしこのプロジェクト(ヴァルスのタワー)には、彼にとってまったく馴染みのない環境が関わっている。山村に巨大なタワーを建てるって?私ならノーと言わざるをえない。

スイスインフォ: 先日、ブラウンヴァルト村の「音楽ホテル」プロジェクトが村議会によって却下され、先行きが危ぶまれています。これについてどう思われますか?

ズントー: 忍耐が必要だ。村議会が反対したのはホテル自体ではなく、水の問題についてだ。とはいえ、この二つはつながっている。このプロジェクトには計画を改善し、再び軌道に乗せるチャンスが残っている。私は今も望みを捨てていない。

スイスインフォ: 現在取り組まれているロサンゼルス郡立美術館は6億ドル(約665億円)のプロジェクトで、来年建設が始まることになっています。外国での活動にどのように対処しているのですか?すべて、グラウビュンデン州のハルデンシュタイン村にあるアトリエから行っているのですか?

ズントー: 第一に、私にとって必要なのは、すべての過程において私との協力関係を楽しんでくれる依頼主だ。プロジェクトが終わる時、開始時よりもより知識が深まっているようでなければならない。私は既存のアイディアをそのまま使うということはしない。何かを一緒に作り上げることを楽しむ人々が必要だ。ロサンゼルスでも他の場所でも、私はそういう依頼主に恵まれている。それ以外のやり方はない。

第二に、コミュニケーションが信じられないほど簡単になった。ボタンを押すだけで、ロサンゼルスやニューヨークに大きな設計図を送ることができる。大きなチームを編成するのも素晴らしく簡単だ。どこにいるのかは関係ない。建築家は自分が良い仕事をすることができる場所にいるべきだ。私にとってそれはハルデンシュタインだ。

スイスインフォ: すべてのプロジェクトがズントーさんを通るという点においては、小さな建築設計事務所のようですね。

ズントー: 私が作るのは、建築の原本だ。会社名の下に作品を送り出すことはできない。私は建物を最後のねじの一本まで考え出すのが楽しい。だが小規模な建築に限らず、大きなものでもいい。

スイスインフォ: 手がけた建物との関係は持続しますか?

ズントー: 親子の関係に似ているかもしれない。しかし建物は他人に属する。訪ねたいと思っても、簡単にそうできるわけではない。こっそり行くか、夜に見に行くしかないだろう。しかし、見つかる怖さというのもある。私を見た人々が「見て、ズントーだよ」とヒソヒソ囁くような場所にはいたくない。

スイスインフォ: 2009年に、これまでの仕事が評価され、建築界で最高の栄誉であるプリツカー賞を受賞されました。受賞によって何が変わりましたか?

ズントー: それまでより、さらに落ち着けるようになった。職業人生を通じて、仕事が評価されなかったと不満を言うことはできない。いつも評価はされてきた。私のしていることと、私が大切にしていることを理解してくれる人がいつもいた。一方で、私にレッテルを貼る人も常にいた。「気難し屋で偏屈なズントー」とね。我慢するしかない。

スイスインフォ: この受賞で、今後もレベルを維持していかなければというプレッシャーを感じるようになりましたか?

ズントー: いいや、プリツカー賞は包装にすぎない。中身は何も変わっていない。一つ一つの建物をゼロから作り出し、アイディアを最後まで追求し、建設業界の中で、また政治的、文化的にも実現させる。常にゼロからのスタートで、課題も常に同じだ。そこは変わらない。不確かな状況、どうしていいか途方に暮れる状況に何度も置かれては、「くそっ、何かがおかしいぞ。一体どうしたんだ?」と思う。そしてそれについて仲間と話し合う。

スイスインフォ: この賞を受賞される前から、「スター建築家」と呼ばれていましたね。

ズントー: その呼び方は好きではない。自分がスターだとはちっとも思っていない。スター建築家の存在は建築にとって何の利ももたらさない。スター配管工の方がいい。

スイスインフォ: アートギャラリーや教会、スパ、軍宿舎などを手がけてこられましたが、他に設計してみたい建物はありますか?

ズントー: 現在、アントワープ南部に高層建築を建てられるか調査中だ。すべての高層建築の問題点は、土台部分へのアクセスをどうすればいいかわからない、そこに何を配置すればいいかわからないということだ。町にも公園にもプラスになるような解決策を見つけたい。また、岸辺に広い水平線を見晴らす建築も建てたい。

スイスインフォ: もうこれ以上続けたくないと思った日には、建築事務所ピーター・ズントーも終わるのでしょうか?

ズントー: アルベルト・ジャコメッティと自分を比べるのはおこがましいが、ジャコメッティの死後、もう新しいジャコメッティ作品は世に出なくなったということだ。


(英語からの翻訳 西田英恵)

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