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通貨危機、1970年代から学ぶこと

1929年の「ブラック・チューズデー」。ニューヨーク、ウォール街の証券取引所前で呆然として立つ人々。1週間で全財産を失った人が続出した Keystone

1978年、ユーロ導入前のドイツの通貨、マルクに対しスイスフランが記録的に高騰した。スイスは当時、為替相場の目標水準を導入してこの危機を切り抜けた。

このときスイス国立銀行(SNB/スイス中銀)でチーフエコノミストを務めていたクルト・シルトクネヒト氏が当時を回想し、現在と比較する。

スイスインフォ : 今、世界中の証券取引所が混乱しており、市場や政府機関への不安が増大しています。デジャヴ(既視感)を感じているのではありませんか。

シルトクネヒト : 私は証券取引ですでに同じような状況を経験したし、為替相場でもそういう経験があった。だが、この両方が同時に現れるというのは新しい展開ではないだろうか。

スイスインフォ : 現在、市場では何が起こっているのですか。

シルトクネヒト : 経済や経済政策がどの方向に発展するのかについて、政府機関がもはや説明できない状況にある。そのため、人々の不安が極めて大きくなっている。

スイスインフォ : ユーロ危機とアメリカの国債格下げの間に関連はありますか。

シルトクネヒト : 関連は何もない。ユーロ圏の危機は第一に、極度に大きい負債を負い支払能力が無くなってしまった国がいくつかあることと関連している。ほかの国がそれらの国を支援し、それによる損害が生じている。これはヨーロッパ特有の問題だ。

一方、アメリカでは過去数年間にわたって、政府が負債をどんどん増やしてきた。この負債問題の規模が今、深刻になり始めた。

スイスインフォ : つまり、国家の負債が共通点ということですね。

シルトクネヒト : その通り。これはもちろん新しい問題ではない。このような負債問題は1970年代や1980年代にもあった。だが、今の問題はもっと深刻だ。それに、市場はこれらの国債をすべて返済できるという確信を持てなくなっている。

スイスインフォ : スイス政府は、今は貨幣市場政策の枠内で積極的な介入が必要だという見解を発表しましたが、決定はまだ何も下していません。これをどう思いますか。また、スイス政府がすべきことは何でしょうか。

シルトクネヒト : 為替相場問題に対し、スイス政府が短期的にできることはあまりない。一番良いのは、経済と市民のために税率引き下げの方向に持っていくことだ。

あるいは、連邦税の一部を返却するなどしてもよいだろう。そうすれば、消費者はもっと買い物をし、企業にも投資資金が回ってくるだろう。

スイスインフォ : 今回の通貨危機で、前世紀の危機と似ているところはありますか。

シルトクネヒト : 1978年の状況と比較的似ている。当時、スイスフランが9カ月の間に実質3割上昇した。これは今の危機とだいたい同じ規模だ。

スイスインフォ : 1978年当時、あなたはスイス中銀のチーフエコノミストとして通貨危機の際、安定化に向けて大きく働きかけましたが、どういった措置を取ったのですか

シルトクネヒト : 為替相場を安定させるために、かなり多くの対策を試した。スイス中銀は当時、外国為替市場で外国通貨を買い、拡張的な金融政策を取った。

また逆金利、投資の禁止など、資本の回転に影響を与える対策も試みたが、これらはまったく効果がなかった。

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スイスインフォ : 最終的にはどんな対策が効果的でしたか。

シルトクネヒト : 為替がどの方向に動くのかということについて、外国為替市場が自ら明白な予想を立てられないことが分かり、スイス中銀は為替相場の水準目標を発表することにした。

そして、相場が80ドイツマルクを明らかに上回るまでドルを買い続けることにした。この対策が発表されたとき、相場は76ドイツマルクだった。つまり、目標をその時の相場の1割高にも満たない程度に設定したのだ。

これがかなりうまく効き、市場は躊躇(ちゅうちょ)しながらも最終的に状況が改善されることを確信した。そして、資本がまた回り出した。

スイスインフォ : 当時は安定した国の通貨であるドイツマルクが問題でしたが、今の問題は主にユーロです。ユーロ圏はドイツよりずいぶん不安定ですが、当時との違いは?

シルトクネヒト : 今は、ユーロやドルがどんな方向に発展するのか、もっと予測しにくくなっている。両通貨圏とも非常に大きな問題を抱えているからだ。

だが、確信が持てない中で決定を下し、さまざまなリスクを比較検討しなければならないのはいつの場合も同じだ。

スイス中銀は先週シグナルを送り始めたが、この措置が正しいことは間違いない。スイスフランは、これ以上高騰してはならない一線に達したという中銀の考えが明らかになったからだ。

スイスインフォ : それよりさらに前、1929年の株価大暴落などの危機の後はどのような対策を取ったのですか。

シルトクネヒト : 当時の反応の仕方はあまり良くなかった。アメリカでは金融政策を拡張せずに緊縮した。当然ながら、これは危機をさらに悪化させた。

スイスでは逆だった。当時、スイスは非常に多くの資本流入があり、拡張政策を取っていたのだ。そのためスイスは当初、世界的な経済危機の影響をあまり受けなかった。だが、しばらくするとその影響が国内でも顕著になってきた。

スイスインフォ : 現在の経済学において、頼れそうなモデルなど、これまでの通貨危機から学んだことはありますか。それとも危機は一つひとつ異なるものですか。

シルトクネヒト : 過去からは常に何かしら学ぼうとするものだ。だが、どの危機もそれぞれの特徴がある。小さな危機の一つひとつに大仰な対策を立てないよう、比較的慎重にならなければならない。

現在必要なことは、政治家、つまり各国政府や議会が何とかして問題解決に向けた決定を下すことだろう。しかし、現状はこれらの問題に取り組む代わりに、いつまでも話し合ったり電話したりしているばかりだ。これでは市場は安定しない。

スイスインフォ : 今の通貨危機を終わらせるにはどうすればよいのでしょう。

シルトクネヒト : 今できることは、為替相場の水準目標を立てる以外にはあまりない。これが最後の手段だろう。

スイスインフォ : 世界、あるいは少なくともアメリカは不景気に陥るのでしょうか。

シルトクネヒト : 西側工業国が不景気に陥ることは考えられる。だが、それは危機ではなく、成長の減衰だろう。

スイス国立銀行(SNB/スイス中銀)は8月10日、スイスフラン高に対する追加対策を取った。

目的は、スイスフラン関係の金融市場の流動性をさらに「顕著に」させること。これにより、スイス中銀にある各金融機関の当座預金高は800億フラン(約7兆6600億円)から1200億フラン(約11兆4900億円)に増加した。

スイス中銀は追加対策の理由を「国際金融市場におけるリスク回避の傾向が大幅に上昇し、これがここ数日間、スイスフランの過大評価にさらに拍車をかけた」と発表。必要があれば、さらなる対策を取る意向だ。

スイス中銀はこれ以前にすでに公定歩合を引き下げ、流通している貨幣量を増やしている。

金融機関に対する要求支払預金額も300億フラン(約2兆8800億円)から800億フラン(約7兆6700億円)に増額された。

1941年生まれ。チューリヒ大学で国民経済を学ぶ。

その後、チューリヒ、パリ、アメリカの研究機関で働く。

1974年から1996年までスイス中銀のチーフエコノミストや取締役などを務める。

1984年、バーゼル大学で員外教授として経済理論を教える。

現在はBZ銀行グループの顧問。

(独語からの翻訳、小山千早)

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