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いまだロシアから撤退しない欧米企業 その理由は

マクドナルド
マクドナルドは、ロシアから撤退した120社のうちの1社だ Keystone / Roman Pilipey

世論や政治的な圧力にもかかわらず、西側企業のロシアからの大規模な撤退は実現していないことが調査で明かになった。公言に反しロシアとの関係を断ち切れない企業が多いのは何故なのか?

重電大手ABBは昨年3月、スイスの大手多国籍企業として初めてロシアとの取引停止を発表した。ロシアによるウクライナ侵攻からわずか1週間後の出来事だった。その数カ月後には同国からの完全撤退を発表している。

だが戦争が勃発してから1年近く経った今も、「適用されるすべての法律と制裁措置を順守し、できるだけ早く撤退を完了させるよう取り組んでいる」(ABB広報)状態にとどまる。侵攻開始当時、同社はロシアに2つの生産拠点と約750人の従業員を抱えていた。

ABBだけではない。ザンクト・ガレン大学とIMDビジネススクールが先月13日に発表した調査外部リンクでは、マクドナルド、ルノー、シーメンスといった大企業がロシアから撤退する一方で、欧州連合(EU)と主要7カ国(G7)で事業を行う企業の圧倒的多数は、ビジネスを続行、あるいは撤退の計画を完了していないことが明らかになった。

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世界最大級のグローバル企業情報データベース「Orbis」によると、ロシアがウクライナに侵攻した2022年2月24日の時点で、EU・G7企業1404社が所有する合計2405支社がロシアで活動していた。昨年11月下旬にサイモン・イヴェネット氏とニコロ・ピサーニ氏がまとめた報告書では、ロシアを拠点とする支社を少なくとも1社売却した企業は8.5%と、1割にも満たなかった。

イヴェネット氏はフランス語圏の日刊紙ル・タンに対し、「これは驚くべき結果だ。戦争の勃発以来、ロシアからの撤退を求めてきた政府やメディア、NGOからの圧力を、企業は巧みにかわしてきたことを示している」と述べた。同時に、地政学的な緊張が高まるなか、主要市場から撤退することが、いかに企業にとって難しいかという現実も浮き彫りになったという。

戦争が長引いて世論の圧力が弱まるにつれ、企業がロシアから集団撤退する兆しはほとんどなくなった。ウクライナに対するロシアの執拗な攻撃をよそに、調査では2022年10~12月期の撤退率にほぼ変化がなかった。

言うは易し、行うは難し

では、なぜ撤退した企業もあれば、残った企業もあるのか。調査からは、ロシア支社が生む利益との関係性が見えてくる。

昨年11月までにロシア支社を売却した企業(計120社)が出す利益は、ロシアで活動する全企業の税引前利益合計の6.5%に過ぎない(Orbisデータベースより)。また、農業や資源採掘など、収益性の高い分野からの撤退も少なかった。

これは「平均して、撤退した欧米企業は収益的に劣る」傾向を示している。つまり財務的に見れば、提携を解消しても大した痛手ではなかったというわけだ。

また、本社の所在国もある程度関係している。米国企業の約18%がロシアから撤退した一方で、日本企業は約15%、EU企業に至っては8.3%しか撤退していない。イタリア企業は、撤退した企業よりも残留した企業の方が多い。だが、必ずしも米国、英国、フランスの企業が単に自国政府の圧力に弱かったわけではないようだ。

ロシアに残った9割の企業が撤退しない理由はさまざまだ。調査は、多くの企業が制裁の対象外であることや、ロシアの顧客や従業員を見放せないという側面を示唆している。例えば医薬品は、人道的な理由から制裁の対象外だ。そのためロシュやノバルティスといった製薬会社はロシアから撤退する予定はない。

また、公言に反し居残った企業は、不誠実だったり、意図的に時間を稼いだりしているわけではないという。イヴェネット氏は「事業の買い手探しが予想以上に難航したり、計画していた事業売却がロシア当局によって阻止されたりした」ケースもあると述べた。

今回の調査結果は、イェール大学のジェフリー・ソネンフェルド教授が作成した企業リスト外部リンクを補完するものだ。同リストでは、制裁で法的に要求される水準を自主的に超えてロシア事業を縮小すると公言した企業は少なくとも1千社にのぼるという。リストはロシアにおけるすべての事業活動を対象としているが、前出のIMDとザンクト・ガレン大学の調査は、子会社という形での株式投資のみが対象。後者は、放棄すればより高いコストがかかることが多い。

スイス企業は?

今回の調査にスイス企業は含まれていないが、次回はスイス企業も調査対象にする予定だという。独語圏のスイス公共放送(SRF)が1月に入手したデータ外部リンクによると、ABB、セメント大手ホルシム、リンツ&シュプルングリなどが撤退に向けて動いている。

SRFが回答を得た9社のうち、時計製造のスウォッチと、サニタリー全般を扱うゲベリットの2社はロシア撤退の予定はないとした。スウォッチの広報担当者はSRFに対し「この悲惨な戦争が終わることを今も望んでいる。(スウォッチが100%所有する)支店は引き続き営業し、従業員も残留している」だと述べた。

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イェール大学のリストには44社のスイス企業が含まれ、そのうち4社はロシアで「従来通り」操業し、軌道修正の予定はないと表明した。食品大手のネスレとノバルティス、ロシュは「時間稼ぎ」する8社に含まれる。つまり、状況を見極めるか、投資をある程度延期するが、完全撤退はしない。その他8社はロシアからの完全撤退を表明しているが、実際にどの程度撤退したかは不明だ。

英語からの翻訳:シュミット一恵

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