なぜスイス中銀は18兆円の赤字を出したのか?
スイス国立銀行(中央銀行、SNB)は昨年、1320億フラン(約18兆8千億円)の赤字を計上し、連邦政府と州政府への配当金を停止した。これは何を意味するのか?
昨年、SNBは過去最高の赤字を出した。SNBだけではない。世界中の中央銀行が多額の損失を出し、多くの国で中央銀行から政府に流れる資金がストップした。
他国の中央銀行も配当金を停止?
スイスのほか、ドイツとオランダの中央銀行、そして米連邦準備制度理事会(FRB、米国の中央銀行)の地方支部の大半は、今年の政府に対する配当金(日本では国庫納付金)を見送る予定だ。英国では、今後10年間で2300億ポンド(約36兆4千億円)が、財務省からイングランド銀行(英中央銀行)へ逆流するとの予想さえある。スウェーデン政府と中央銀行の間で結ばれた最新の協定では、中銀リクスバンクの自己資本が200億クローナ(約2480億円)を下回った場合、同様の措置を取ると定められている。
SNBの赤字は歴史的な比較でどれほど悪いのか?
長い間、スイスの中央銀行の損益は数十億フランだった。例えば2007年は80億フランの黒字を計上し、翌年には47億フランの赤字を出した。だが最近では、こういった数値の変動幅が拡大している。2017年の黒字は過去最高の540億フラン、一転して昨年の赤字はNSB過去最悪の1320億フランと非常に極端だ。2005年以降のSNBの年間平均決算は黒字35億フランとなっている。
変動幅の変化、その背景には何が?
その背景には、2007年に1300億フランだったバランスシートが、現在では1兆フラン超に膨れ上がったことがある。1%の損益変動が、以前よりはるかに大きな数字で表れるようになった。
なぜ、これほどバランスシートが膨れ上がったのか?
2005~2021年に、行き過ぎたフラン高に対処するため、SNBが外貨を大量に購入したことが原因だ。
なぜ昨年は巨額の赤字を出したのか?
第一の理由は、2022年に企業の株式や国債の価格が暴落したことだ。第二に、SNBの膨大な外貨準備が対フランで値下がりし、価値を失った。
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配当金に関するSNBのルールは?
SNBは、純利益からいわゆる配当準備金を積み立てる。この準備金にどれだけ資金をつぎ込むかは自由に決定できる。連邦政府と州への配当金はここから支払われる。
だが配当準備金には損失も計上され、マイナスに転じることもある。その場合、配当金は支払わないと法律で定められている。
言い換えれば、「貸借対照表での損失」だ。昨年は、これが390億フランのマイナスになった。このような状況では、連邦政府と州政府への支払いは行われない。
2010年のSNBの利益配当は違法?
だが2010年、貸借対照表で損失を計上したにもかかわらず、SNBは連邦政府と州政府に25億フランを支払った。これは、貸借対照表が黒字の場合にのみ利益を配当するという規則に反する。この支払いは違法だったのだろうか?
翌2011年、利益配当の取り決めが改正された。SNBは配当方法について法的な見直しを行い、ルールの解釈に明らかな変更が施された。
現SNBトーマス・ジョルダン総裁は2010年に副総裁を務めており、配当の責任者だった。
利益配当の取り決めとは?
財務省とSNBは、SNBが毎年支払う金額について定期的に交渉している。
現在の協定では、分配準備金が400億フランに達した場合、SNBは最大60億フランを配当金とし、3分の2を26州の政府に、3分の1を連邦政府に収める。
準備金がマイナスになれば配当はない。それ以外は、0~60億フランの間で段階的に配当額を決める。
2005年以降の配当金、総額は?
2005年以来、SNBは累積で630億フランの黒字を計上し、延べ約420億フランの配当金が支払われた。
SNBの残りの利益はどこへ?
SNBの利益の大半は、海外投資に対する引当金に充てられ、現在1050億フランに達している。
SNBはこの引当金を自己資本の積み増しに充てており、そのため損失はこの勘定に反映されない。この引当金の規模や機能については、国会や一部のエコノミストから批判を浴びている。
今後の配当の見通しは?
今後の支払いは、配当準備金が20億フランを超えた時点で再開する。そのためには、SNBは今年、520億フランの利益を上げる必要がある。
SNBは、利益の110億フランは優先して海外投資の引当金に充てるよう定めている。配当準備金への支払いはその次だ。
自己資本とは?
自己資本とは、中央銀行の純資産で、すべての投資額から負債を差し引いた額に相当する。SNBの自己資本は現在660億フランだ。これは、株式資本(2500万フラン)、海外投資に対する引当金(1050億フラン)、そして配当準備金(マイナス390億フラン)で構成される。
SNBの自己資本比率は?
自己資本比率は、全資産のうち自己資本が何%を占めるかを示す数値。SNBの自己資本比率は現在約7%。
仮にSNBが投資でさらに7%の損失を出せば、自己資本はマイナスになる。つまり、SNBの負債が資産を上回ることになる。
世界的に比較すると?
スウェーデンの中央銀行が最近、各国の自己資本率の世界比較を発表した。
それによると、オーストラリア(マイナス2%)、ニュージーランド(3%)、米国(1%)の中央銀行の自己資本比率は、スイスより低い。スウェーデン(10%)とオランダ(8%)が、SNBの自己資本比率をわずかに上回っていた。
英語からの翻訳:シュミット一恵
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