スイスでスタートアップ企業への投資額が初めて10億フラン(約1080億円)の節目を超えた。世界で活躍する新興企業を表彰するスイス・スタートアップ・トップ100アワード外部リンクでは、今年もおなじみの顔ぶれがスイスの息の長い革新力を見せつけた。
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スイスは長年、世界で最もイノベーションに力を入れている国の1つだ。これまで研究開発の資源は、ネスレやノバルティス、ロシュ、ABB、ジボダンといった巨大多国籍企業や、成功した中企業がほぼ独占してきた。
スタートアップ企業でもイノベーションが盛んになってきたのは数年前からだ。研究結果やアイデアを商業ベースに発展させるために、スタートアップを目指す若者が増えている。
現在、年間300社のスタートアップ企業が誕生する。強いイノベーション志向を持ち大きな成長の可能性を秘める企業だ。2000~10年の間には数十社しかなかった。
若い才能を経営に就かせたり投資を呼び込んだりするための官民の支援事業も、こうした傾向を加速させる。スタートアップ企業への投資はこの数年で3倍になり、2018年は初めて10億フラン(約1080億円)の大台を超えた。
スタートアップ企業の半数以上はチューリヒかレマン湖畔地域に集中する。それぞれ連邦工科大学チューリヒ校(ETHZ)外部リンクと同ローザンヌ校(EPFL)外部リンクが科学的な研究開発の実用化に重要な役割を果たしている。
製薬やマイクロ技術、金融など、スイスがリードする業界で先進的なイノベーションの恩恵を受けるスタートアップもある。スタートアップが新しい市場を切り開くことが、古い大企業に刺激を与えることもある。バイオテクノロジーや医療技術、フィンテックの分野だ。
ベンチャー支援プログラム「ベンチャーラボ」は4日、チューリヒで2019年のスタートアップ・トップ100アワードを発表。スイス経済に活力を与える若手起業家たちの功績を称えた。同アワードは2011年から毎年表彰されている。
受賞者のイノベーション精神は国外でも活躍している。今年の上位5社はこんな顔ぶれだ。
1.フライアビリティ(Flyability)外部リンク
独自開発の保護ケージを機体の周りに張り巡らせたドローンを生産。人間が入れないような危険な場所でも機体を傷つけることなく入ることができるため、人の負傷リスクとコストを削減するのに役立つ。世界の原子炉など数百の施設で活躍中だ。昨年の4位からランクアップして初の首位に。本社はローザンヌ。
2.Lunaphore外部リンク
今年は人体組織を自動診断する装置を発売し、国際的に関心を集めた。装置は革新的な技術を使い、腫瘍の分析など診断の速度と精度を向上した。昨年は3位。本社はローザンヌ。
3.Ava外部リンク
女性の排卵日を正確に予測するアームバンドを生産する。体温や脈拍、呼吸、睡眠時間など9種の生体データから排卵日を割り出す。世界各国で人気が高いが、3年連続の首位は逃した。本社はチューリヒ。
4.Wingtra外部リンク
最先端のカメラを使い高解像度の写真を撮影できるドローンを開発。世界中で広大なインフラ施設や露天掘り、建設・掘削作業を上空から監視するのに活用されている。昨年の7位外部リンクからランクを上げて初のトップ5入り。本社はチューリヒ。
5.Bestmile外部リンク
有人・無人の自動車の運転を、飛行機の管制室のように最適化するプログラムを提供。個々の自動車の動きをリアルタイムで把握し、待ち時間やルートを最適化したり故障を検出したりする。既に複数の都市でシャトルサービスに使われている。昨年は2位だった。本社はローザンヌ。
(独語からの翻訳・ムートゥ朋子)
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