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ウクライナ侵攻で中立国スイスはどう変わる?

Markus Häfliger, Redaktion Tamedia Deutschschweiz

中立国スイスはロシアに前例のない制裁を科し、自国の立場を鮮明にした。これを機に、スイスの対中政策、対欧州政策は大きく変化することが予想される。スイス外交の今と今後を考察する。

Keystone / Manuel Lopez

この記事は、2022年3月2日付のドイツ語圏日刊紙ターゲス・アンツァイガー外部リンクで初めて配信されたものを、同紙の承諾を得て転載したものです。

ロシアのウクライナ侵攻のさなか、米大統領がスイスについて言及するというのは、異例のことが起きたからだと推測できる。ジョー・バイデン大統領は米議会で「スイスでさえロシアにダメージを与え、ウクライナの人々を支援している」と述べた。

米紙ニューヨーク・タイムズは、スイスの連邦内閣が対ロシア制裁に加わる決定をしたことを「速報」扱いにしたほどだった。同紙は「これにより、スイスは長い伝統である中立性を捨て去ろうとしている」と報じた。モスクワにあるロシア国営メディア「RT(ロシア・トゥデイ)」も中立性が「深刻に侵害」されたと指摘。スイス国内では国民党が同様の主張をしている。

スイスは実際に外交政策の転換期を迎えているが、今後はどの方向へ歩んでいくのだろうか。それは中立国スイスの終わりを意味するのだろうか。これらの問いを7つのポイントから検証してみたい。

1 スイスは軍事的に中立を保っている。ニューヨーク・タイムズ、RT、国民党の論評は誤解を招く。連邦政府の決定後もスイスは軍事的に中立のままだ。中立国が負う国際法上の義務はわずかしかない。その義務とは、兵士の派遣や武器の供給を通して当事国を支援してはならないこと。いかなる紛争当事国に対しても自国の領土を利用させてはならないこと。そして、いかなる軍事同盟にも参加してはならないことだ。これらは今後もスイスに適用される。

スイスの立場はこれらの点において、同じく(これまで)中立のスウェーデンの立場と大きく異なる。スウェーデンは現在、ウクライナに武器さえ供給しており、北大西洋条約機構(NATO)加盟を望んでいる。スイスとしては、そのどちらも今のところ選択肢になっていない。

2 連邦内閣は、従来の政策を急進的な方向に転換している。連邦内閣の決定は中立法には違反しないが、中立性に広い意味で影響を与えている。そこには「紛争時に中立を保ちたい国は一般的に、有事の際にも他国から中立だと信頼されるよう振る舞う」という基本的な考えがある。スイスはさらに、紛争時に仲介役が務められるよう政治的対応を取っていく考えだ。

しかし、中立政策として実行して良いことと、そうでないことがスイスの国是としてあるわけではない。スイスの中立政策は常に国際情勢と具体的な個々のケースに左右される。中立国だからといって、スイスが世界で自国の価値観を強く代表してはいけないわけではない。経済制裁への参加も禁止されていない。

中立政策の解釈はこの200年間、絶えず変化してきた。スイスは1990年まで国連の制裁にすら従わなかった。今回のロシアの件で従来の政策は途切れたわけではないが、過去に例がないほど急進的になったと言える。

3 中立性は国家原則ではない。連邦憲法では中立性は政治手段として言及されるだけで、国家目標にも外交目標設定にも登場しない。それよりも重視されているのが、人権の尊重、民主主義の推進、民族の平和的共存といった目標設定だ。中立性がこうした価値観と衝突する場合、スイスはこれらを天秤にかけなければならない。

4 制裁を科さなければ中立性が傷つく。多くの戦争では、誰が加害者で誰が被害者かは明確ではない。しかし、ウクライナ侵攻では、ロシアが侵略者、ウクライナが被害者であることは国際法上明らかだ。ロシアのウラジーミル・プーチン大統領は国連憲章のいくつもの条項に違反している。ウクライナは自衛権を行使しているだけだ。このような場合に自国の立場を表明しない国は、加害国の共犯と見なされるだろう。

このことが他のどの国よりも当てはまるのがスイスだ。ロシアの原料取引の8割はスイスを経由し、ロシアの個人・企業の在外資産の3割はスイスの銀行に預けられている。もし制裁を取りやめれば、スイスは戦争で儲ける国になってしまう。つまり、ロシアに制裁を科すことではなく、科さないことが中立性を傷つけることになる。

5 連邦内閣には他の選択肢がなかった。国際的な圧力は強まっていた。もし制裁に関して譲歩していなければ、スイス自らが米国と欧州連合(EU)から制裁を受けていた可能性がある。ただ、今回の決定により、スイスがウクライナで仲介役を務めることは不可能になったかもしれない。そのような「付帯的損害」は極めて遺憾と言える。

6 今回の件は今後の先例になる。連邦内閣にはこう判断するほかなかったかもしれないが、その判断はこの国の将来を決定づけることになるだろう。スイスがEUやNATO加盟国を中心とした西側連合に参加するという結果を生んだからだ。今回の件は、将来的に世界を脅かす同様の惨事が起きた場合の先例になる。中国がいつか台湾の併合に乗り出すことが危惧されている。もしそれが現実となった場合、ウクライナ侵攻での論理に従えば、スイスは中国にも制裁を加えなければならなくなるだろう。

7 EUとの合意が今後、さらに急務となる。スイスが懸念するのは、ウクライナ侵攻をきっかけに、世界が政治的、経済的に敵対するブロックにさらに分断されることだ。もしそうなれば、スイス経済にとって欧州の重要性が増す。そのため、連邦内閣と連邦議会が今すぐEUとの関係を速やかに安定させることが大切だ。プーチン氏のウクライナ侵攻により、スイスがEUと制度的な問題に関して合意することが今まで以上に喫緊の課題となっている。

(独語からの翻訳・鹿島田芙美)

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