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ウクライナ、ネスレのロシア事業継続を名指しで非難

Bombed school Kyiv
ウクライナの首都キエフで爆撃された地区の校舎内で破損したカーテンを取り外す男性。2022年3月18日 Copyright 2022 The Associated Press. All Rights Reserved.

スイスの食品大手ネスレ(本社・スイス西部ヴヴェイ)が製品の不買運動に直面する可能性がある。現在もロシアでの事業を続行する同社に対し、ロシアの「戦争犯罪」への加担だとウクライナ政府が非難したためだ。ソーシャルメディア上では、ここ数日でボイコットの呼びかけや同社を非難する投稿が瞬く間に広がった。

ウクライナのウォロディミル・ゼレンスキー大統領は19日、スイスの首都ベルンで開かれた反戦デモ集会に向けてキエフからライブストリーミング演説を行い、ネスレに対する圧力を更に強めた。同集会にはスイスのイグナツィオ・カシス大統領も参加した。

同氏は演説の中で、スイス企業ネスレは「グッドフード、グッドライフ」をスローガンに掲げているにもかかわらず、「ウクライナで子供達が死に、都市が破壊されてもロシアでのビジネスを続行している」と非難した。

ゼレンスキー大統領、スイスにロシア資産の凍結を要請

ウクライナへの侵攻を受け、大手企業の多くはロシアから撤退した。ネスレは今月11日、隣国侵略を巡り各国からの非難が強まるロシアでの業務内容を縮小したと説明外部リンク。だが17日にウクライナのデニス・シュミハリ首相がマーク・シュナイダー最高経営責任者(CEO)と対談し、ネスレがロシア市場に留まる弊害を説いたが「理解を得られなかった」とツイッターに投稿。「テロ国家に税金を払うことは、無防備な母子を殺すのと同じことだ。ネスレが一刻も早く考えを改めることを望む」と結んだこのコメントに対し、24時間で6万件以上の「いいね!」がついた。

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ネスレはこのやり取りに関する詳細を公表していない。同社広報はスイスの通信社Keystone-SDAに対し、「政府当局との対談内容は非公開」だと語った。また「ロシアで働く7千人以上の従業員に対し、雇用主としての責任がある」と述べた。

一方、ツイッター上ではハッシュタグ「#boycottnestle」が拡散している。ネスレを標的にした画像の中には、鳥の巣をモチーフにした同社のロゴに、「Z」を鉤(かぎ)十字にあつらえたナチス腕章を付けた鳥が留まっているものもある。「Z」は、ウクライナに侵攻したロシアの戦車や軍用車両に描かれていた文字だ。

爆撃された病院を背景に、ネスレはロシアの侵略の「公式スポンサー」と示す改ざん画像もあった。

ウクライナのドミトロ・クレバ外務相もこの問題に言及し、ツイッターで「ロシアでのビジネス撤退を拒否することで、ネスレは欧州におけるロシアの侵略戦争の継続を許している」とし、「これが同社の評判に与える長期的なダメージは、ウクライナに対するロシアの戦争犯罪の規模に相当する(大打撃)」と書き込んだ。

同投稿には、健康的な食事を前にした幸せそうな子供と、瓦礫に埋もれているように見える血まみれの子供の死体の画像が添えられた。そして画像には「ネスレのスローガン:グッドフード、グッドライフ」に対し「ネスレのスローガン:プーチンの戦争のスポンサー」と記されていた。

ロシア軍に包囲されたウクライナの都市マリウポリで、民間人が避難していた劇場が爆撃されたことを受け、ジョー・バイデン米大統領は16日、ウラジーミル・プーチン大統領を「戦争犯罪者」と呼んだ。同日、スイス連邦政府はウクライナ侵攻を続けるロシアの個人や企業・団体に対する制裁対象を拡大した。

destroyed Mariupol Drama theater
マクサー・テクノロジーズ(Maxar Technologies)が提供した2022年3月19日の衛星画像は、ウクライナのマリウポリでロシア軍に空爆された劇場とその周辺の様子を示している Satellite Image ©2022 Maxar Technologies.

難局に直面するネスレ

ネスレは、ネスプレッソを含む一部食品のロシア出荷を停止したが、ベビーフードやシリアルなど、基本的な生活必需品は供給を続けている。ブルームバーグによると、ネスレのロシアにおける2021年の収益は17億フラン(約2175億円)で、全体の約2%に当たる。だが株式市場の投資家は、こうした論争に比較的無関心なようだ。ゼレンスキー氏の演説後の21日、同社株価は前週末比0.5%下落にとどまった。

ネスレの広報担当者は19日、swissinfo.chに対し「ロシアに留まる商業的な理由は全くない。あくまでも必要不可欠な食品の供給と、地元の人々の基本的なニーズを満たすためだ」と述べた。

また、ウクライナの人々を支援する取り組みも強調し、「隣国に脱出した人々を含め、私たちはウクライナを支援するために最大限の努力を続ける。ウクライナのハルキフなどでは、できるだけ毎日物資を提供するよう努めている」とした。

An interior view of the museum The Nest during a media visit on Tuesday, May 31, 2016, in Vevey, Switzerland
ネスレ・ミュージアム「ネスト」。博物館オープンに際し、スイス・ヴヴェイで行われたメディア公開時に撮影。2016年5月31日 Keystone / Cyril Zingaro

ゼレンスキー大統領がネスレを名指しで非難したことに対し、同社はフォローアップ声明を発表。制裁を遵守していることを強調し、ロシアで今も「通常営業」しているという批判に反論した。また、必要不可欠な食料品を除く全製品の輸出入を停止するなど、「前例のない措置」でロシアでの事業を縮小したと述べた。

ネスレの広報担当者はまた、「米国、欧州、そしてスイスのあらゆる制裁措置に、これまで通り完全に従っている」とした。

米シンクタンクの外交問題評議会外部リンク(本拠・ニューヨーク)によると、ロシアが隣国への全面攻撃を開始した2月24日以降、ウクライナでは2200人以上の民間人が死亡した。国連難民高等弁務官によるとウクライナ難民は20日までに1千万人を超えた。スイスでは既に4千人近くのウクライナ人難民が登録されており、高い需要に対応すべく、新たにオンライン申請手続きが開設された。

(英語からの翻訳・シュミット一恵)

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