ウクライナの地雷除去 市民の安全守るスイスの取り組み
ロシア侵攻から約1年、今やウクライナ領土の3割が爆発物で汚染され、市民の生活を脅かしている。本日「国際地雷デー」に寄せ、地雷処理を巡るスイスの支援活動を紹介する。
問題の規模は?
ウクライナ領土の3割は兵器で汚染された危険地域だという。対人地雷・対車両地雷やクラスター弾、他にも不発弾や遺棄された爆弾が都市や農地、海路に散乱する。
国連人権高等弁務官事務所(OHCHR)の記録外部リンクでは、昨年2月24日~今年2月5日までの期間にウクライナの民間人1万8817人が犠牲になった。うち7155人は死亡、負傷者は1万1662人。この数字には、地雷や不発弾による犠牲者のほかにも、砲撃や空爆による犠牲者が含まれる。英国の非営利団体「アクション・オン・アームド・バイオレンス(AOAV)」は昨年の報告書外部リンクで、地雷や爆発物の影響を最も受けている国にウクライナを挙げた。ミャンマーとシリアがそれに続く。
対人地雷は、人間を負傷させるために作られた兵器だ。地中の地雷を踏んだり、地雷が振動に反応したりすると無差別に爆発する。ウクライナは、対人地雷禁止条約(オタワ条約外部リンク)に加盟している。
ロシア軍外部リンクがウクライナ東部の都市イジュームを占領した際にウクライナ軍が対人地雷を使用したという疑惑を巡り、人権NGOヒューマン・ライツ・ウォッチはウクライナ政府に調査を求めた。ロシアは1997年の同条約に加盟しておらず、こうした爆発物を広く使用していることが明らかになっている。
対人地雷の爆発で生き残った被害者は、ほとんどの場合手足の切断を強いられ、複数の手術や長期にわたる身体機能のリハビリテーションが必要になる。
一方、対車両地雷は両国とも使用する。対人地雷禁止条約は、この種の地雷を禁止していない。こうした地雷の影響でウクライナの農業生産が停滞しているという。田畑や農道・道路で農耕機を使用するにはリスクが高すぎるためだ。同条約は2025年までに地雷のない世界を目指すが、目標達成への道のりは遥かに遠い。
地雷除去に向けたスイスの援助活動
ウクライナ復興に向け、国際社会は強力な支援を約束しているが、地雷まみれでは欧州の近代国家の一員にはなれない。
スイスは国際的な対人地雷除去活動の人道支援に、年間約1600万~1800万フラン(約23億~26億円)を拠出している。スイス連邦政府の公式サイト外部リンクによると、スイスは地雷除去活動における世界15大ドナー国の1つだ。
この資金の約半分はジュネーブ人道的地雷除去国際センター(GICHD外部リンク、1998年スイス設立)に充てられる。地雷対策に関する専門スタッフと知識を有する主要機関として、世界的にも認められている。北大西洋条約機構(NATO)の平和のためのパートナーシップ(PfP)の枠組みで、スイス軍もGICHDと協力しウクライナの地雷処理専門家の育成を支援している。
GICHDのディレクターを務めるステファノ・トスカーノ大使は、対人地雷禁止条約の加盟国は概ねその内容を遵守しているが、危険性を減らすためには今以上の取り組みが必要だと言う。そして「国際社会は、対人地雷禁止条約の普遍化を目指すとともに、対人地雷の使用を糾弾し続けなければならない。条約にはまだ164カ国しか加盟しておらず、普遍的とは呼べない」と語る。次の映像で、地雷がいかにウクライナ社会を麻痺させているかを同氏が説明する。
スイスには、スイス地雷除去財団(FSD外部リンク、本部・ジュネーブ)という地雷対策に特化したNGOがある。米国務省、スイス外務省、並びに複数の民間財団の支援を受け、ウクライナでのプロジェクトは2015年から実施している。同財団は戦場における地雷処理を行う特殊班8チーム、機械的な地雷処理を行うチーム、技術以外の調査を行う3チーム、リスク教育を担当する4チームで構成される。地雷や不発弾と安全に「共存」する方法を住民に伝えるため、コミュニティでのオンラインレッスンや、フェイスブックやロシア発の大規模SNS「フコンタクテ(VK)」を利用した予防キャンペーンを行っている。
赤十字国際委員会(ICRC外部リンク、本部・スイス)最大の武器汚染専門チームもウクライナで活躍する。武器汚染の専門家18人が、不発弾のある地域のマーキングと除去作業を支援し、地域社会や自治体職員に地雷の安全管理に関する情報を伝えている。
ICRCはまた、被災した家屋や水道・電気などのライフラインの修復に加え、暖房が使えるよう100万人以上の人々を支援する。
英語からの翻訳:シュミット一恵
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