オリガルヒ資産、スイスの制裁決定前から凍結か
スイスがウクライナを侵攻したロシアへの金融制裁を下したことで、スイスの銀行は対応に追われている。制裁対象となったオリガルヒ(新興財閥)と多くの取引があるスイス銀行は、制裁の決定前からリスク軽減に動いていたとも報じられている。
スイス国立銀行(中央銀行)によると、スイスにあるロシア資産は約100億フラン(約1兆2500億円)。だがドイツ語圏の日刊紙NZZは、制裁対象となった5人(氏名は非公表)のオリガルヒの資産を含めると1500億フランに上ると報じた。
スイス連邦政府は先月28日、国内外の圧力を受け、欧州連合(EU)の制裁対象となったロシア個人・企業の資産凍結を決めた。ロシアは資本規制を発動し、マネーの国外流出を抑え込んでいる。
一部メディアは、制裁を受けてロシアの富豪が資金の引き出しや名義の書き換えに動いたと報じた。銀行側は、顧客の守秘義務を理由にコメントを拒否している。
超大富豪であるオリガルヒは極めて有能なファイナンシャルアドバイザーを顧問につけることができる。だが制裁から必ずしも免れることができるわけではない。
ロシアの実業家ヴィクトル・ヴェクセルベルク氏は2018年、米国の制裁対象に指定された。同氏はロシア政府への影響力を否認しているが、スイス企業への出資減額か撤退を余儀なくされた。
米国の制裁を受け、スイス郵便傘下の金融機関ポストファイナンスはヴェクセルベルク氏の個人口座を閉鎖した。同氏はポストファイナンスが全スイス住民に基本的なサービスを提供することが義務付けられていると抗議して提訴。スイス連邦最高裁判所は先月、訴えを認めてポストファイナンスに口座の維持と賠償金の支払いを命じた。
レピュテーションリスク
これまで各国の銀行はさまざまな国際的な制裁に対応してきたが、対処を誤り処罰されたケースもある。仏BNPパリバはスーダンやイランへの制裁に違反したとして米国から89億ドル外部リンク(約9千億円)、英スタンダード・チャータード銀行は対イラン制裁違反で米英から11億ドル外部リンクの罰金支払いを命じられた。クレディ・スイスも09年、イランやスーダンなどの取引で米国から5億3600万ドルの罰金外部リンクを科されている。
現在、どの銀行もロシアのウクライナ侵攻を間接的に支援したとみなされるレピュテーションリスク(評判を落とす恐れ)を避けようと必死だ。スイスの銀行は米・EUの制裁に従い、連邦政府の決断に先駆けて資産凍結に踏み切っていたようだ。
ベルン大学ビジネス法研究所のペーター・V・クンツ所長はドイツ語圏のスイス公共放送(SRF)で外部リンク「米国が制裁を決めた時から、問題になりそうな銀行では門が閉ざされている」と話し、スイス政府の決断前に資金が引き出された可能性を否定する。「米当局から集中砲火を浴びたいスイスの銀行はない」
制裁措置への対応として、銀行が対象となる顧客の代理として手配した取引や融資を清算した可能性がある。英フィナンシャル・タイムズは2月上旬、クレディ・スイスが昨年末にオリガルヒのヨットやジェット機、不動産購入ローンを売却・証券化したと報じた。同紙が入手した内部資料によると、「米国のオリガルヒに対する制裁」により17~18年にかけて12件の複数の債務不履行が発生している。
同紙によると、クレディ・スイスは今月上旬、ヘッジファンドなど投資家に対しオリガルヒのヨット購入ローンに関する文書を破棄するよう求めた。
(英語からの翻訳・ムートゥ朋子)
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