オンライン投票、高評価でも投票率伸びず スイス総選挙2023
22日に実施されたスイス総選挙では、全26州中3つの州の出身の在外有権者はオンラインで投票できた。他の州では郵便投票が依然として不満を引き起こしている。
「私たちはタイのプーケットに住んでいますが、トゥールガウ州のオンライン投票システムがこれほどうまく機能していることに感激しています」。こう書いたのはヘルベルト・ケラーさん。
バーゼル・シュタット準州、ザンクト・ガレン州、トゥールガウ州の有権者名簿に登録されている国外在住のスイス国民は、2023年10月22日の連邦選挙でオンライン投票が可能になった。
3州がオンライン投票を提供するのは今年2回目。年初に連邦内閣事務局がゴーサインを出し、6月の国民投票で試験運用された。オンライン投票は2019年に安全上の理由から停止されていた。
オンライン投票に対する評価
3州に有権者登録している在外スイス人の多くが喜びを語る。ザンクト・ガレン州の名簿に登録しているある男性は、「投票手続きはとても簡単でした。スイス全土に広まってほしい!」と評価した。
ケラーさんも同じ意見だ。「この状況が続き、将来的にはオンラインで国民投票もできるようになって、母国の政治に貢献できるようになってほしい」
2人はともに、オンライン投票により政治参加の機会が与えられることで、スイスとのつながりが保たれると強調した。オンライン投票を提供した3州では、平均して6割の在外有権者がオンラインで投票した。
バーゼル・シュタット準州では、在外有権者1431人がオンラインで投票した。ザンクト・ガレン州は1498人、トゥールガウ州は541人で、合計3470人がオンライン投票を利用した。
在外スイス人の大多数はオンラインシステムに信頼を寄せているが、なお安全性に疑念を持つ人もいる。読者の1人、カティ・リヨン・ヴィリガーさんは、「安全なシステムが導入され、それが信頼でき、認証され、検証可能」でなければオンラインでは投票しないと語った。
投票率の低迷
オンライン投票の存在にもかかわらず、総選挙の投票率はオンライン投票が試験運用された6月18日の国民投票よりも低かった。
ただ有権者名簿の登録者数は、この3州で微増した。バーゼル・シュタット準州で0.13%、ザンクト・ガレン州で0.84%、トゥールガウ州で1.35%それぞれ上昇した。
在外スイス人協会(ASO/OSE)のアリアン・ルスティケリ事務局長は落胆する様子はない。「在外スイス人の総選挙の投票率が国民投票より低いのは、いつものこと」だからだ。
在外居住者は必ずしも候補者の人物像をよく知っているわけではない。さらに「選挙戦の大部分はスイス国内で行われ、在外スイス人には伝わりにくい」面もある。
手遅れの投票書類
スイス国外に住む大半のスイス人にとって、オンライン投票は政治参加に不可欠なツールとして切望の的だ。かといって、オンライン投票があれば100%投票できるわけではない。
これはエリカ&ヴァルター・ブラントさん一家の体験記からよくわかる。一家は南アフリカ在住で、バーゼル・シュタット準州に籍を置く。だが「投票書類が郵送されるのはいつも投票日の後です。過去3年間、私たち家族は選挙や国民投票に参加できたことがありません」
投票そのものはオンラインでできても、利用者登録には紙で郵送される個人コードなどの入力が必要だ。このため郵便に時間がかかる国では投票権を行使することができない。ヴァルターさんは投票書類を「外交郵便かデジタルで送る」ことを提案する。
募るフラストレーション
在外スイス人協会のルスティケリ氏は、「よく知られ分かり切っていた問題」が起きたことを悔しがる。これまでの国民投票と同じように、在外スイス人がスイスの選挙・投票に参加できないとの不満はなお根強い。
パラグアイ在住の男性は、「自分の選挙権をぜひ活用したいと思っています」と記した。「しかし投票書類が届くのは、たいてい投票日から1~2カ月も後のことなのです」。フィリピン・セブ市の在住者も同じ状況だという。
在外スイス人評議会のアレクシア・ベルニ議員は、投票日の22日はアルゼンチンにいた。スイスにいれば投票できたはずだが、地元の投票所が閉まるまで投票用紙を待っていた、と独語圏スイス公共放送(SRF)の生中継で嘆いた。
在外有権者22万1448人からは、投票書類が予定通り届いたとの声も聞こえてくる。だが投票用紙をスイスに返送するには間に合わなかったり、郵便料金が高額すぎたりというケースも多数聞かれた。
ある男性は「タイで選挙の10日前に書類を受け取った」という。すぐに投票用紙に記入して郵送しようとしたが、「『通常の』郵便には少なくとも4週間かかる」と言われ落胆した。25フラン払って優先扱いにすれば10~14日以内に配達されるとはいえ、「確実に期日までにスイスに届くのでなければ、お金は払いたくない」。
受領確認も事後
在外スイス人の中には、自分の投票用紙が届いたら投票当局から受領確認が欲しいと考える人もいる。アールガウ州では要望に応じて在外有権者にこうした確認を送っている。「明示的に要求された場合は、電子メールでも受領確認を送る。だが送るのは選挙・投票日の後になり、メールアドレスが登録されている場合にのみ可能だ。投票用紙の入った封筒は、投票日まで糊付けされたままだからだ」と同州選挙事務局のマリア・ビュールマン氏は説明する。つまり、受領確認は投票後の月曜か火曜にならないと届かないのが現実だ。
アールガウ州に国際郵便で届いた2186票のうち、103票は「通常の」郵便ではなく民間の宅配サービスでスイスに送られた。「しかしこれには代償が伴う」(ビュールマン氏)。在外スイス人からは、民間の郵送料金は非常に高く、払えない・払いたくないという声が寄せられている。
独語からの翻訳:ムートゥ朋子
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