スイスの視点を10言語で

クレディ・スイスのAT1債権者がスイス政府を提訴

credit suisse logo
© Keystone / Michael Buholzer

スイス連邦財務省は、UBSによるクレディ・スイス(CS)の買収でAT1債が無価値化(全額減損)された問題で、スイス連邦政府に対し既に2件の訴訟が提起されていることを明らかにした。ドイツ語圏の日刊紙ターゲスアンツァイガー日曜版が報じた。 

スイス金融市場監督機構(FINMA)は買収の過程で、約160億フラン相当(約2兆2千億円)のAT1債券(その他Tier1資本)を無価値化すると発表。これに対し債券保有者から不満の声が上がっていた。ターゲスアンツァイガー外部リンクによると、他のAT1債保有者も訴訟を起こす準備をしている。 

クレディ・スイス危機に関する最新記事一覧はこちら 

クイン・エマニュエル外国法事務弁護士事務所のスイス代表を務めるトーマス・ヴェーレン氏は同紙に対し、国家による収用の場合は補償を受けられるという二国間投資協定の条項に基づいて訴えることができると語った。 

スイスは世界100カ国以上の国とこうした保護協定を結んでいる。訴訟はスイス連邦裁判所ではなく、各協定の定める仲裁裁判所で裁かれる。 

FINMAは、今回の措置は契約上の義務を遵守していると主張。CSが発行するAT1債は契約上、CSの存続に関わる「バイアビリティ(生存状態)・イベント」が発生した時には損失吸収のため元本を削減する。政府の特別な支援が認められた場合がその1つで、FINMAによると、UBSによる買収が決まった先月19日の流動性支援がこれに当てはまった。 

同紙は、司法がAT1債の無価値化を不当と判断した場合、スイス政府は80億フラン(3月17日のAT1債の時価)の損害賠償金を支払わなければならない可能性があると伝えている。 

投資家の間では通常、株主よりも債権者が上位に位置付けられる。UBSによるCS買収の場合は、CS株主がUBSに株式を売却することも可能な一方で、AT1債券が無価値化された。英イングランド銀行(中銀)や欧州中央銀行(ECB)からはこの点を疑問視する声が上がっていた。 

日本経済新聞外部リンクによると、CSのAT1債約950億円分が日本の個人投資家などに販売されていた。 

英語からの翻訳:大野瑠衣子


人気の記事

世界の読者と意見交換

ニュース

おすすめの記事

スイス鉄道、国外へ乗り入れせず

このコンテンツが公開されたのは、 スイス連邦鉄道(SBB)取締役会長のモニカ・リバー会長は、自社列車で国外に乗り入れないとする同社の決定を擁護した。

もっと読む スイス鉄道、国外へ乗り入れせず
スイス事故防止協議会(BFU)によると、シートベルトの着用により、過去10年間の国内交通事故で負傷事故5700件、約650件の死亡事故を未然に防いだ

おすすめの記事

命を救う後部座席のシートベルト スイスで義務化30年

このコンテンツが公開されたのは、 スイスでは、30年前から車の後部座席のシートベルト着用が義務付けられている。スイス事故防止協議会(BFU)と連邦統計局の最新データによって、この安全対策の有効性が裏付けられた。

もっと読む 命を救う後部座席のシートベルト スイスで義務化30年
握手を交わすスイスのアムヘルト大統領と岸田首相

おすすめの記事

アムヘルト大統領、岸田首相と会談 FTA改定を改めて要望

このコンテンツが公開されたのは、 訪日中のヴィオラ・アムヘルト大統領兼国防相は7日、官邸で岸田文雄首相と会談し、日本・スイス間の自由貿易協定(FTA)改定というスイスの要望を改めて表明した。

もっと読む アムヘルト大統領、岸田首相と会談 FTA改定を改めて要望
UNRWAの前でたむろす子どもたち

おすすめの記事

UNRWA、「イスラエル襲撃に関与した可能性」の9人を解雇

このコンテンツが公開されたのは、 国連は5日、国連パレスチナ難民救済事業機関(UNRWA)の職員9人が昨年10月7日のイスラム過激派ハマスによるイスラエル襲撃に「関与していた可能性がある」との内部調査を発表した。

もっと読む UNRWA、「イスラエル襲撃に関与した可能性」の9人を解雇
診察を受ける赤ちゃん

おすすめの記事

スイスで小児科医が不足

このコンテンツが公開されたのは、 スイス小児科医協会は医師が足りず、特に地方部で子どもが十分な治療を受けられなくなる可能性があると警告する。背景には柔軟な働き方を求める世代の増加や役所・企業の「官僚主義化」があると批判する。

もっと読む スイスで小児科医が不足
注射を打たれる男性

おすすめの記事

コロナ再流行のスイス、ワクチン不足に

このコンテンツが公開されたのは、 スイスでは現在、新型コロナウイルス感染症が再び流行している。それ自体はさほど深刻ではないものの、ワクチンを受けたくても薬局や診療所に在庫がない事態が発生。背景には7月初めの制度変更がある。

もっと読む コロナ再流行のスイス、ワクチン不足に
座り込む女性の横顔

おすすめの記事

スイスで人身取引被害が増加

このコンテンツが公開されたのは、 「人身取引と闘うプラットフォーム(Plateforme Traite)」は2023年、スイスで197件の人身取引(人身売買)事案を記録した。前年比で11%増加した。

もっと読む スイスで人身取引被害が増加
耳を抑える子どもと打ち上げ花火

おすすめの記事

「建国記念日に花火欠かせない」半数 スイス世論調査

このコンテンツが公開されたのは、 スイス人の半数が、打ち上げ花火は8月1日の建国記念日に欠かせないと考えていることが最新の調査で分かった。しかし、回答者の大多数は個人での花火打ち上げに反対している。

もっと読む 「建国記念日に花火欠かせない」半数 スイス世論調査

swissinfo.chの記者との意見交換は、こちらからアクセスしてください。

他のトピックを議論したい、あるいは記事の誤記に関しては、japanese@swissinfo.ch までご連絡ください。

SWI swissinfo.ch スイス公共放送協会の国際部

SWI swissinfo.ch スイス公共放送協会の国際部