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ビットコインに門戸を開くスイス金融業界

ビットコインの写真
ビットコインはスイスの伝統的な金融業界に仲間入りする第1歩を踏み出した Keystone

スイスの主流金融機関がビットコイン投資を取り扱い始めた。ファルコン・プライベート・バンクとオンライン取引銀行のスイスクオートは7月、スイスの規制金融機関として初めて仮想通貨業への進出を発表した。

 チューリッヒに本社を置くファルコン外部リンクは7月13日、スイス当局の承認を得て伝統的なウェルスマネジメント業としてスイスで初めてビットコインの取り扱いを始めると発表外部リンクした。同15日にはスイスクオート外部リンクがルクセンブルクの取引所、ビットスタンプとともにビットコイン投資を提供すると明らかにした。ビットスタンプは欧州連合(EU)で唯一公認の仮想通貨取引所で、30万3千人の顧客を抱える。

 ビットコインの熱狂者は、この動きがスイスの既存金融業の仮想通貨への慎重姿勢を改めるきっかけになると期待する。

 スイスクオートの最高経営責任者(CEO)、マルク・ビュルキ氏は声明外部リンクで「多くの投資家が仮想通貨に関心を持っているものの、取引には不安を感じている。市場参加者についてよく知らないし、資金を外国口座に移すよう求められることもあるためだ」と述べた。「スイスの銀行として、我々は透明性が高く、誰もが海外送金を経ない簡素な手続きで取引できるサービスを提供する」

 スイスクオートの顧客は取引1回あたり5ユーロ(またはドル)から最高10万ユーロ(同)を投資できる。ただし全額自己資金で、レバレッジはかけられない。

 ファルコンにビットコイン投資の取引システムを提供するのは、仮想通貨のブローカー、ビットコイン・スイス社だ。ファルコンは将来、他の仮想通貨にもサービスを広げる可能性があるとしている。

仮想通貨ブーム

 ビットコインや他の仮想通貨の取引価格はこの数カ月で跳ね上がっている。ファルコンは、価格上昇は顧客の需要の高まりを反映していると説明する。チューリッヒの本社にはビットコインのATMを設置した。

 ビットコインは1年前、1単位につき650ドル(当時レートで約6万6300円)だったが、足元では2400ドル(現在レートで約26万8500円)近くに達している。投機家が多くの仮想通貨で儲けているというニュースは、様々な理由で塩漬けになっている金融資産への関心を広げた。

The front window of Falcon bank advertising Easy Bitcoin Access ATM
ファルコン・プライベート・バンクはチューリッヒ本社にビットコインのATMを設置 Falcon Private Bank

 スイスビットコイン協会のルーカス・ベッチャート会長は、ビットコイン価格は時に極度に変動が大きくなるものの、長期的にみて上昇を続けると確信する。世界全体でのビットコイン総額は400億ドルに膨らんでいる。

 ベッチャート氏はスイスインフォの取材に対し、「ビットコインを保有できる銀行は他に聞いたことがない」と述べた。「(ファルコンの参入で)人々は技術的なノウハウなしで安全にビットコインを保有できるようになる。他のスイスの銀行に対する呼び水になると期待される」

怯える銀行

 金融業界の主流派は仮想通貨を手放しで歓迎しているわけではない。管理中枢を持たないブロックチェーン技術を、金融システムの強敵と捉えているためだ。

 ブロックチェーン上の仮想通貨の流れを捉えるのは比較的易しいが、個々のトレーダーを識別するのは簡単ではない。このことは、電子通貨が資金洗浄(マネーロンダリング)や脱税に用いられるとの懸念に繋がっている。多くのスイス銀行は近年、脱税をめぐって厳しい取り締まりを受けており、こうした犯罪への恐怖心を募らせている。ベッチャート氏によると、複数のスイスの銀行は仮想通貨のトレーダーを顧客として受け入れなかったとの報告があるという。

 それだけに、ファルコンがビットコインを伝統的な銀行業界に迎え入れたことの特異性が際立つ。ファルコンはトラブル防止のため、ビットコインの利用者に対し「厳格な本人確認」規則を適用する予定だ。

 ビットコイン・スイスのCEO、ニコラス・ニゴライスン氏は声明で、スイスの銀行がビットコインの取り扱いを始めるのは「歴史に残る出来事だ」と述べた。

 ニゴライスン氏は「私の知る限り、ファルコン・プライベート・バンクは仮想通貨の資産を顧客に直接提供する世界初のプライベートバンクだ」と話す。「仮想資産を提供する銀行は『ゲームチェンジャー』と言える。仮想資産を運用したい機関投資家や富裕層に、規制下にあるスイスの銀行という信頼できるパートナーを与えるためだ」

クリプトバレー

 ファルコンはデジタル通貨の資産運用サービスを提供することで、スイスの新興企業の取り込みにしのぎを削る。ビットコイン・スイスや資産管理向けのブロックチェーン技術を提供するメロンポートなど、その多くは「クリプトバレー(暗号の谷)」として急成長するツークに拠点を置く。

 スイス金融市場監査局(FINMA)は近年、ITを活用した金融サービス「フィンテック」関連の新興企業に対し、参入障壁を減らし始めている。2016年には金融機関が煩雑な書類手続きを経ることなく新規顧客を受け入れられるように規則を改めたり、営業許可の対象に預金総額5千万フラン(約57億円)未満という新分類を加えたりした。

 FINMAは特定のケースへの言及は避けたが、16年は仮想通貨の分野で複数の機関から連絡があったと明かした。16年末時点で、ファルコンは146億フランの顧客資産を管理しているという。

ビットコイン取引の仕組み

(英語からの翻訳・ムートゥ朋子)

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