コロナ禍に苦しむメディア 新たな活路を模索せよ
スイスのメディアには、新型コロナウイルスの世界的流行の影響で、広告収入の95%も失った報道機関がある。スイスだけではなく、多くの富裕国の地元メディアが似たような憂き目にあっている。しかし、質の高い報道機関がかつてないほど重要になっている今、メディアは新たな活路を見いださなければならない。
他のほとんどの国の編集者とは違って、スイスの編集者には公共サービスのDNAがある。新型コロナウイルスの世界的流行(パンデミック)を受けて、スイスが3月16日に部分的ロックダウン(都市封鎖)してからの数週間、連邦政府の対応を批判する報道機関はほとんど無かった。半年余りが経過した今でもまれだ。その一方で、米国、フランス、イタリア、英国、スペインなど多くの国のメディアは、自国の指導者を酷評し、今も辛らつな批判を続けている。あらゆるプラットフォームで報道への読者・視聴者の関心が著しく高まっているのは、この攻撃的な姿勢に因るところもある。ところが、世界中のメディアで広告収入は減少の一途をたどっている。
紙メディアやオンラインメディアの主な広告主である、海外旅行、レジャー、エンターテインメント、外食、加工食品、ファッション、小売などの業界全体が極小のウイルスによって不安定になるさまを、新型コロナは容赦なく見せつけてきた。
購読料収入も落ちている。英メディア調査会社エンダース・アナリシスは、解約された購読の約半数は戻ってこないだろうと予測する。パンデミックの影響でニュースへの関心は著しく高まった。しかし、ほとんどの地元メディアにとって収益の増加にはつながっていない。
スイスでは、メディア大手も大きな打撃を受けている。パンデミックによって、スイスの全メディアで読者・視聴者が劇的に増加したと欧州ジャーナリズムセンター外部リンクは指摘する。テレビの報道番組はコロナ危機の最中に市場シェアの80%を獲得し、フランス語圏の日刊紙ル・タンのウェブサイトへのアクセス数は3倍に増えた。しかし、収益は伸び悩んでいる。ドイツ語圏の日刊紙NZZやターゲス・アンツァイガーのような大手でさえ、広告収入の減少により、新型コロナ関連のオンライン記事を無料で閲覧できるようにはしていない。
国際都市ジュネーブの報道も減少
パンデミックによって、ジュネーブの国連欧州本部(UNOG)に関する報道も減少した。UNOGは、一般の人々の生活に影響を与える国連主催の主要な会合の大半が開催される世界的中心地であるだけに残念だ。これらの会合は、開発、労働、軍縮、貿易、経済、健康、食糧、気象、社会的・人道的問題、人権などの重要なテーマを扱う。
新型コロナの発生以来、ジュネーブの国連システムの建物で予定されていたほとんどすべての国際会議が中止されたり、大幅に縮小されたりした。また、メディア向けイベントの大半がオンラインで行われている。その結果、世界中の主要な報道機関の編集者は、世界保健機関(WHO)からの新型コロナ関連情報を除いて、ジュネーブ関連の記事をどんどん格下げしている。世界最大手の通信社が、UNOG駐在の特派員を減らしたり、事務所を閉鎖したりしている。近年、存在感を増しているのは中国メディアだけだ。
米メディアへの打撃
財政危機に瀕しているスイスメディアはまだ良い方だ。例えば、米市場調査会社イーマーケターは、グーグルとフェイスブックが米国の地元メディアからデジタル広告収入の約80%を奪っていると推測する。
米ノースカロライナ大学チャペルヒル校ハスマン・スクール・オブ・ジャーナリズム・アンド・メディアのニュース砂漠プロジェクトによると、米国では2004年以来、地元メディアの4分の1近くが失われたという。過去10年間では千社以上にのぼる。同プロジェクトは、日刊紙のない地域社会を「ニュース砂漠」と定義する。今では米国人の3人に1人はニュース砂漠にいる。
同プロジェクトは、米国の地元紙の多くが今では「亡霊」と化していることを明らかにした。強引な経費削減を行うヘッジファンドや(未公開株に投資する)プライベート・エクイティ・ファンドがこれらの新聞社を所有・経営するケースが増え、報道の質を低下させている。
フランスには、広告収入に依存する米メディアとは異なるモデルがある。仏メディアは欧州のどの国よりも多くの補助金を受け取り続けている。英ロンドンのメディア戦略研究所によると、フランスの紙やオンラインのニュースメディアに交付された昨年の直接補助金は約1億1400万ユーロ(約138億7950万円)に、郵送費補助や優遇税制による間接補助金は1億300万ユーロにのぼる。
しかし、補助金は、ジャーナリズムの現在直面するより困難な試練を乗り切るために必要なスキルをメディアの経営者が身につけようとするのを阻害する可能性がある。現在の危機は、ニッチなオンラインメディアにお金を払えるほど裕福な人々と、ウェブサイトへのアクセスを収益化するためには公平性にあまり配慮しないサイトで身動きが取れない人々との間の不平等を増大させる可能性があると英オックスフォード大学のロイタージャーナリズム研究所は示唆する。
激変
広告収入の減少は、スイスなど富裕国のメディアを数十年にわたって苦しめてきた。だが、悪影響が広範に及ぶコロナ禍は新型の脅威だ。
非常に多くの激変に直面し、メディアやジャーナリズムの数十年来の慣行は、パンデミックに端を発する経済的・社会的打撃と共存する術を学ばなくてはならない新時代に通用するのかが問われている。メディアに最も必要なことは、パンデミックに何度も揺さぶられる世界経済の中で、ソーシャルメディア、フェイクニュース、偽情報、広告収入の減少などの攻撃に抵抗できるだけの信頼を財政や専門性において強化することだ。
半世紀にわたって雇用を生み出し、生活水準を向上させてきた国内外の経済、社会、ビジネスの基盤をむしばみ、実業界を混乱させるウィズコロナの環境で、成長の機会を見いだすことがすべてのメディアに課された試練だ。
パンデミックや気候変動の否定的な流れにのみ込まれる市民生活で信頼される役割を勝ち取らなければ、メディアは成長することができないだろう。読者・視聴者と信頼関係を築くには、時間、労力、持続的な投資が必要だ。
データ駆動型の人工知能(AI)が普及し、過去最大の移民が流入し、米国、欧州、ロシア、中国の間で地政学的駆け引きが行われる時代において、メディアの役割はかつてないほど重要になっている。資金調達を含め、メディアに実行可能な解決策がなければ、ソーシャルメディア上の誤情報やフェイクニュースの氾濫に私達は圧倒されてしまうかもしれない。
歪みは、有権者間の対立を助長し、不正投票や外部からの干渉を選挙と結びつけて民主主義を崩壊させるだろう。このことは、来月3日に予定されている米大統領選挙にすでに見られる。同選挙では、ロシア、中国、イランによる郵便詐欺やソーシャルメディアを通じた干渉の可能性が疑われている。
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