コロナ第5波のスイス、投票でワクチンパスポートの是非を問う
近隣国が新型コロナウイルスの感染予防対策を強化する中、スイスでは明日、ワクチンパスポート「COVID証明書」提示義務付けの法的根拠となっている「COVID-19法の改正」 の是非を問う国民投票を行う。感染が再拡大する現状と世論調査の結果から、可決される見込みだ。
他の欧州諸国と同様に、スイスでも感染者数が再び増加している。オーストリアは全国民にロックダウンを実施した。ドイ ツは新たな規制を検討している。このような状況のもと、スイスでは28日にCOVID証明書を廃止するか維持するか、有権者が判断を下す。
ワクチンパスポートの是非を投票で決めるのは、世界でスイスが初めて。また、スイス国民が同じ法律について半年もたたないうちに2度も投票することは、スイスの半直接民主主義の歴史においても初めてのことだ。6月には、パンデミック対策の法的根拠となるCOVID-19 法原案が60.2%の賛成を得て可決された。
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だがそれから1カ月も経たないうちに、COVID証明書の提示義務付けを追加した同法改正案に対して3つのレファレンダム委員会が発足。計7万4469筆の署名が集まり、法律の是非を国民投票で問うレファレンダムが再び実施されることになった。反対派はCOVID法改正を食い止め、9月13日から導入されたレストラン、フィットネスセンター、映画館、大規模な文化・スポーツイベントへの入場へのCOVID証明書提示義務を廃止に追い込もうとしている。反対派は、この証明書が個人の自由を侵害するものだと考える。
一方、賛成派は、パンデミックとの戦いにCOVID証明書は必要不可欠なツールであると考える。また、COVID-19法が否決された場合、特定の財政支援を延長できないことも指摘する。
不均衡なキャンペーン
COVID-19法に反対する人たちのキャンペーンは、鉄道駅の大規模なポスター、ビラ、街頭でのデモ、ソーシャルネットワークでの強い存在感など、特に公共の場で顕著なものだった。また、反対派は賛成派に比べてはるかに多くの資金を投じた。
その不均衡は、フランス語圏の日刊紙ル・タンが指摘したように、新聞広告に表れた。ベルン大学政治学研究所の政治学者であるマーク・ビュールマンとアンヤ・ハイデルベルガーは、学術研究プロジェクト「スイス政治年」の中で、反対派の広告掲載は209回、賛成派はわずか22回だったとまとめた。
それにもかかわらず、国民投票前に行われた世論調査では、スイス人の大多数が依然として「COVID-19 法の改正」を支持しているという結果が出た。そのため、国民投票では、有権者は政府のパンデミック戦略を支持し可決する公算が大きい。
看護体制の向上に向けて
明日は、看護師不足への対応についても投票で判断する。スイス健康調査機関(Obsan)は、このままでは2030年までにスイスでは6万5千人の看護師が不足すると予測する。
この状況を改善するため、スイス看護師協会は、「強固な看護ケアのために」というイニシアチブを立ち上げた。この案は、連邦政府と州に対して、十分な数の看護師や正看護師を育成し、職業を向上させるよう求めている。そのため、政府が給与水準を定めるなどして、より良い労働条件を保証することを望んでいる。
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しかし、政府と議会は、このイニシアチブは行き過ぎと見なし、間接的対案を提示した。この対案はイニシアチブが否決された場合に発効する。とりわけ、看護師の研修に8年間で約10億フラン(約1248億円)を投資することを規定している。
一般にイニシアチブが通ることは稀だが、最新の世論調査では、スイス人の約67%が賛成していることから、この看護師イニシアチブは可決される可能性が高い。
司法イニシアチブ は失敗か?
同じく明日国民に問われる司法イニシアチブは、葬り去られてしまうようだ。この案は政党からの独立性を保証するため、抽選で連邦裁判所の裁判官を任命することを提案している。
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現在、これらの裁判官は連邦議会で選出されている。連邦判事職は、政党の勢力に応じてポストを配分している。政党に所属しない人が裁判官に選ばれる可能性はない。このようにスイスの司法制度は政治と密接に結びついている。
資産家のアドリアン・ガッサー氏を中心として市民委員会が立ち上げたこの案は、可決される見込みがない。政府も議会もほぼ全会一致でこの案に反対している。反対派は、現行のシステムは機能しており、連邦最高裁の判断は独立していると主張している。
(仏語からの翻訳・上原亜紀子)
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