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コロナで膨らむ債務、広がる格差

積み上げられたチップ
スイスでは富裕層に有利な条件が揃いすぎているのだろうか? © Keystone / Gaetan Bally

新型コロナウイルスのパンデミック(世界的大流行)による税収が減少し、貧富の差が広がるにつれ、関連する債務が膨らんでいる。スイスが社会的結束を保ちながら債務を返済していくにはどうすれば良いのだろうか?

涙の出るような数字外部リンクだ。国は2020年に新型コロナウイルスを押さえ込むために170億フラン(約1兆9900億円)を支出した。今年はさらに230億フランの歳出が見込まれている。また、国は企業に対する数十億円規模の緊急融資制度も設えた。

ザンクト・ガレン大学のクリスチャン・キューシュニグ経済学教授は、この債務を返済するには10年か、おそらくそれ以上かかるだろうと予測する。「数年で返済しようとすれば、社会に大きな混乱をもたらす」とswissinfo.chに語った。

問題は、債務返済にあたってどのように公平性を保つかだ。この問題には、世界の大半の国が直面している。例えば英国は今後数年の税収を増やす手段として、2021/22年度の予算案で個人所得税の課税限度額を凍結すると発表した。

今回の危機の特徴の1つは、低所得者層が不釣り合いに大きな打撃を受けたことだ。連邦工科大学チューリヒ校景気調査機関(KOF)の調査によると、月収が4千フラン未満の世帯はパンデミック中に収入が20%減ったのに対し、月収1万6千フランを超える世帯では8%減にとどまった。また貯蓄や雇用の確保への負担も、低所得者層でより顕著だ。

同時に、高所得者層はより裕福になっている。2004年から2017年までの期間に、1千万フラン以上の資産を持つ富裕層(全納税者の約0.3%)が所有する富がスイスの富全体に占める割合は、19.5%から32%に上昇した。税務当局と経済誌「ビランツ(Bilanz)」のデータを用いて、スイス公共放送(SRF)が算出した。

これにより、富とパンデミック関連債務の返済を再分配するための税制改革を求める声が上がった。KOFのヤン・エグバート・シュトゥルム所長は、危機の間に収益を伸ばしたオンラインショップや製薬会社などの企業に対するコロナウイルス連帯税を提案。「危機で利益を上げた者への利益税を増税し、そのお金を損をした者への支援に使うことが考えられる」と、独語大衆紙ブリックに語った。景気刺激策が求められる中、税収を増やす方が、国家支出を削減するより望ましいとも述べた。

その他に議論されている選択肢としては、富裕税の引き上げや、スイスの連邦相続税導入がある。「スイスの富裕税は富の大きな再分配にはつながっていない」と、チューリヒ大学のフロリアン・ショイアー経済学教授はSRFに語った。「スイスでは最高税率が1%と比較的低く、対象となる所得の最低額が低い。すなわち、ミリオネアやビリオネアだけをターゲットにしていないということだ」

「相続税は、長期的に富の不均衡を減らす明らかな手段だ」

しかしそのような変化は反対にあうかもしれない。それも、単にシュトゥルム教授の提案する連帯企業税に反対する企業ロビー団体からの反対だけではない。スイスの有権者はこれまで常にそのような政策に反対票を投じてきた。連邦相続税の導入を求めたイニシアチブは2015年に否決された。前年には、最低賃金案も却下された。そして、裕福な外国人向けの特別税制優遇措置はチューリヒをはじめとする一部の州で廃止されたにもかかわらず、全国的な廃止を求めた2014年の投票ではやはり否決に終わった。

前出のキューシュニグ教授はスイスの税制を抜本から揺さぶるような改革には懐疑的だ。その代わりに、社会福祉、複雑すぎる税制、軋む年金制度の全体的な見直しを主張する。同教授は定年の引き上げは今や避けられないと言い、政府は女性の定年を1年引き上げ、男性と同じ65歳にすることを提案している。

スイスが大半の国より良い状況にあるのは、2003年に導入された「債務ブレーキ」制度のおかげでもある。この制度では、好況時に国債を償還することにより、長期的に債務レベルを対処可能な状態に維持するというものだ。「ほとんどの国では、成長の失速につながる大幅増税の危険がある。スイスの状況は比較的良く、歳出増加の抑制と穏やかな増税によって、よりバランスのとれた方法で債務を返済できる」(キューシュニグ教授)

キューシュニグ教授によると、経済と社会の安定を維持する鍵となるのは、できるだけ多くの雇用を守り、失業率を低く抑え続けることだ。

スイスの貧富の差

バーゼル経済研究所(BAK)とクレール銀行の調査外部リンクによると、スイスにおける貧富の差は金融危機のあった2007年から2017年の期間にほとんど変わらなかった。

研究者たちは納税記録を広範囲に調べ、スイスのジニ係数を計算した。これは所得分配の均等度合を0(完全な平等)から1(完全な不平等)までの値で表す統計手法だ。スイスの値は2007年が0.47、10年後は0.48だった。

しかし、この調査を行った研究者たちは、新型コロナウイルス感染症のパンデミックは2007〜2008年の金融危機よりもはるかに大きな格差をもたらすだろうと警告している。

(英語からの翻訳・西田英恵)

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