コロナ重症化リスク因子、年齢だけではない 研究で明らかに
新型コロナウイルスに対するリスク因子についての知見が増えてきた。スイスの科学者が関与する2つの研究で、遺伝子と血糖値が感染の経過に重要な役割を持つことがわかった。
新型コロナウイルス感染症(COVID-19)患者の症状の重さは個人差が大きい。それが、研究者や医療関係者たちの頭を悩ませてきた。若く健康でも集中治療室が必要となる人から、高齢でも鼻風邪程度で終わる人、がん患者でも全く症状が出ない人など、症状の程度は様々だ。
パンデミック(世界的大流行)の最初の頃には、65歳以上の高齢者や、がん、糖尿病、心臓や肺などに疾患のある人が新型コロナウイルス感染症で重症化しやすいと思われていた。しかしその後、入院患者の平均年齢は下がってきている。
このような患者の年齢層の変化を説明するための研究が行われている。若年層でのワクチン接種率の低さを原因とする専門家もいれば、デルタ株の感染力の強さのためとする人もいる。しかし、年齢や持病の有無だけが症状に影響するわけではない。スイスの医師や科学者が関与する新たな研究によって、新たに2つの重要なリスク因子が発見された。遺伝子と血糖値だ。この発見により、機械学習(人工知能)の手法を用いて、優先的に治療を必要とする高リスク者を特定・予測することができるようになるかもしれない。
なぜ遺伝子が重要なのか
感染の第一波がスイスを襲った頃、この研究の一員である医師のディミトリ・パトリキ氏は、バーデン州立病院で集団感染した複数の家族の治療にあたっていた。彼らは持病がないにも関わらず、重篤な症状を呈していた。遺伝的な要因が関わるのではという疑いを抱いた同氏は、自己免疫疾患の専門家でベルリンのシャリテー病院勤務のベティーナ・ハイデッカー氏に連絡をとった。「ベティーナはチューリヒ大学病院で一緒に勤務していた頃からの知り合いで、彼女の遺伝子への知見が貴重な手助けになると思った」と同氏は言う。
ハイデッカー氏にもまた、直感があった。免疫系の制御に重要なHLA(ヒト白血球抗原)という遺伝子群のタイプによって、ほとんど症状が出ない患者もいれば人工呼吸器が必要になる患者もいることの説明がつくのではという仮説を立てていた。
HLA遺伝子のタイプは、インフルエンザや関節リウマチなど他の病気にも影響があることで知られる。心筋の深刻な炎症によって起きる心筋炎の進行にも関与する。そこでハイデッカー氏はHLA遺伝子とコロナ重症化の関連を探るための国際的プロジェクトを立ち上げ、世界各地の病院からの患者データの収集に乗り出した。
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半年間、新型コロナウイルス陽性と診断された様々な年齢層の男女435人のデータを解析した。パトリキ氏が治療にあたった21名も含まれていた。ハイデッカー氏はこの国際共同研究において「バーデン州立病院はスイス内での研究で中心的な役割を果たした」と話す。
この仮説を検証するために、研究者たちは収集した血液サンプルからHLA遺伝子のタイプを解析した。人工呼吸器を必要としたかどうかで症状の重さを分類し、HLA遺伝子タイプとの関連を調べた。
この研究によって彼らの仮説は証明され、その成果は最近、著名な医学雑誌「ランセット」グループ傘下の雑誌に掲載された外部リンク。HLA-C*04:01と呼ばれるタイプのHLA遺伝子を持つコロナ患者は、このタイプを持たない人よりも2倍高い確率で人工呼吸器を必要とすることが分かった。このタイプのHLA遺伝子は、免疫系の反応を遅らせるためにウイルスの増殖が早まるか、免疫系が過剰に反応するかのどちらかが原因だという。免疫系の過剰な反応は、致命的な炎症につながりうるためだ。
人工知能がスポットライトをあてた血糖値
研究者たちは最近、新型コロナウイルス感染症を読み解くパズルのピースをもう1つ発見した。人体に含まれるブドウ糖、つまり血糖値外部リンクだ。
この発見はスイス連邦工科大学ローザンヌ校(EPFL)のブルーブレインプロジェクトの成果で、元々構築されていた脳の働きをシミュレーションするための独自のソフトウェアを新型コロナウイルス研究に転用したものだ。このグループでは、新型コロナウイルスやその他のコロナウイルスを扱った24万本以上の間連論文のデータ外部リンクをソフトウェアに機械学習させ、キーワードを検出した。「このソフトにより、40万以上の関連キーワードを抽出し区分することが出来た。人間には成し得ない任務だ」。ブルーブレインプロジェクトの創立者兼責任者のヘンリー・マルクラム氏はswissinfo.chにそう語る。
グループはこれらの論文中で6326回にわたって「glucose(ブドウ糖)」というワードが使われていることを発見した。対して、「SARS-CoV-2(新型コロナウイルス)」というワードは4万9386回使われていた。化学物質の中では、ブドウ糖が最も幅広い感染ステージと関連していることが解析により分かった。次のステップでは、ブドウ糖をリスク因子として取り上げる重要な論文を解析し、新型コロナウイルス感染症で、肺への感染から合併症と多臓器不全を引き起こすまでの各段階におけるブドウ糖の関与をグラフで可視化した。これによって、情報を統合し、ブドウ糖がこの感染症でどのような役割を持つかを調べるのが可能となった。
ブルーブレインプロジェクトの分子生物学者であるエマニュエレ・ロジェット氏は、「このように情報を処理することで、我々は高い血糖値が新型コロナウイルス感染症のほとんどすべての段階で症状を進行させることを発見した」と言う。ロジェット氏によると、高濃度のブドウ糖は初期の免疫反応を弱め、ウイルスの侵入と増殖を進行させる。同時に、多臓器不全につながる急激な炎症を促進する。血管の機能も阻害され、血栓症を引き起こす。「このような高血糖値による複合的な効果により、新型コロナウイルス感染症が重症化すると考えられる」
高血糖値と糖尿病
糖尿病は新型コロナウイルス感染症の高リスク因子であると知られている。しかし、糖尿病だけが高血糖値の原因というわけではない。ブルーブレインプロジェクトの研究結果は、特に糖尿病だけを意味するわけではなく、糖の代謝のされ方を問題にしている。
論文によると、糖尿病に限らず糖代謝に問題があると、肺の防御が衰え免疫系が弱体化するという。
機械学習(人工知能)は新型コロナウイルス感染症の重症化を予測できるか?
ハイデッカー氏とパトリキ氏によると、機械学習の活用は新型コロナウイルス研究を大きく前進させる。感染症をより理解するだけでなく、重症化リスクの高いグループをさらに的確に見つけ出すことができるからだ。
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「私たち医師にとって、パンデミック時の業務はとても大変。特に時間的なプレッシャーがある中で患者数が増えると、誰が重症化するリスクを抱えているかを見極めることは難しい。そのためより多くの評価基準があると大きな助けになる」とパトリキ氏は言う。リスク因子の全体像がわかれば、医療スタッフが患者の症状の推移を予測しやすくなる。「遺伝子マーカー検査によって、新型コロナウイルス感染症にかかりやすい因子や、重症化のリスク因子を持つかどうかが分かるようになることを期待している」
パトリキ氏は既に、AWKグループ外部リンクとともに、新型コロナウイルス感染症やその他の病気の症状の推移を予測するプログラムの治験を、実際の患者で行っている。いつの日か、それが実用化されリアルタイムでの正確な診断に役立つことを願っている。しかし、いかなるシステムも、まずは実際の患者のデータで学習させるための時間が必要とされる。
(英語からの翻訳・清水(稲継)理恵)
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