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スイスの科学研究 変革をもたらす女性たち

「感染拡大を抑えれば、ウイルスの変異は防げる」

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Keystone / Pablo Gianinazzi

ウイルスの変異株は本当に怖い存在なのか?ワクチンの効果は?スイス・ベルンの社会・予防医学研究所でゲノム疫学を研究するエマ・ホドクロフト氏に話を聞いた。

科学者や政府の間で新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)の変異株に対する警戒感が強まっている。ウイルスは増殖過程で突然変異を起こすものだが、より危険な変異株が出現することもあるため、感染率を低く保ち、変異株の拡散を抑えることが重要――。疫学者のエマ・ホドクロフト氏はそう話す。「ここ数カ月で得た教訓を過小評価してはいけない。ありそうにない事でも、それが起こらないという保証はない」

swissinfo.ch:まず基本的なことからお聞きします。新型コロナウイルスの突然変異について何が分かっていて、何がまだ分かっていないのですか?

エマ・ホドクロフト:現時点で科学者が注目している変異株は主に3種類あります。第4の変異株について騒がれ始めていますが、それがどの程度危険なのか、まだ分かっていません。

エマ・ホドクロフト氏
エマ・ホドクロフト氏。ベルン大学の社会・予防医学研究所に勤めるイギリス系アメリカ人のゲノム疫学者。 Oliver Hochstrasser

変異株は主に英国と南アフリカで発見され、他の2つはブラジルで出現しました。英国で広まっているのは「501Y.V1」や「B.1.1.7」と呼ばれる、最初に報告された変異株です。我々のデータによると、大半の欧州諸国で局地的に広がっています。この変異株は例えば昨夏に流行したSARS-CoV-2変異株より感染力が強く、抑制が難しいことが懸念されています。致死率が高いことを指し示す明確な証拠はないものの、感染して発病する人が増えれば、英国のように医療崩壊を招きかねません。

他の変異株についてはあまり情報がありません。南アと英国の変異株は突然変異が共通していますが、南アの変異株は加えてもう1つの突然変異を起こしています。科学者が特に心配しているのはまさにこの点についてです。ブラジルで広がっている2つの変異株もこの変異を持っています。複数の研究では、この変異株の方がより感染力が強いと報告されていますが、まだ断定できるだけの十分なデータが揃っていません。特に懸念されるのは、この突然変異のためにSARS-CoV-2に一度感染して回復した人が再感染する恐れがある点です。もちろんワクチンの有効性にも影響します。幸い、米モデルナが最近発表したデータで、同社のワクチンが501Y.V1と追加変異の両方に十分効果を発揮することが分かっています。

swissinfo.ch:つまり突然変異はワクチンの有効性に影響するということですか?

ホドクロフト:仮に効果が弱まったとしても、完全に効かなくなるとは考えにくく、ワクチンが全く無意味になることはないと思います。但し、ワクチンの有効性が例えば95%から85~90%に落ちる可能性はあります。

他の病原体における経験から、ワクチンで得られる免疫反応は、自然に獲得した免疫反応よりも優れていることが分かっています。ワクチンの方が、どうやって自己防衛するかを私たちの体に教えるのがうまいのです。もしSARS-CoV-2もそうであれば、この突然変異はワクチンに全く影響を与えないか、わずかしか影響を与えないと考えられます。最近のモデルナのデータを見る限りでは、それが当てはまるようです。

swissinfo.ch:この突然変異は心配の種ですか?

ホドクロフト:科学的な観点からすれば、ウイルスの進化は全く普通で、特に驚くことでありません。しかしウイルスが複製を繰り返すうちにエラーを起こし、それが突然変異につながる可能性があります。感染者が多く、ウイルスが拡散している状態が続けば続くだけ、次の不本意な突然変異が起こる確率は高くなります。

地球上からウイルスを一掃しない限り、そのような突然変異をなくしたり、感染を完全に防いだりすることはできません。しかしウイルスにとって異常な状況や、免疫力が落ちている人へのアクセスを減らすなど、ウイルスにとって好都合な環境を少なくすることで、感染の機会を減らすことはできます。ここ数カ月で得た教訓を私たちは過小評価するべきではありません。ありそうにない事でも、それが起こらないという保証はないのです。ウイルス感染が広がれば広がるだけ、次の厄介な突然変異が起こる危険性も高まります。ウイルスは常に進化するもので、突然変異の大部分は無害ですが、症例数をできるだけ抑えることが我々の最大のメリットになることを忘れてはいけません。

swissinfo.ch:メディアで「英国の変異株」や「南アフリカの変異株」と呼ばれている変異株は、本当に英国や南ア、ブラジルで出現したのでしょうか?どうやって突然変異の起源を突き止めるのですか?

ホドクロフト:こういった地名の使用を控えるのは本当に難しいことです。これらの名称は今では日常的にメディアで報道される上、変異株を識別するには最も分かりやすい方法です。しかし国のイメージを著しく損なう恐れがあるため、私たちはできるだけ使わないようにしています。また、突然変異の起源を100%断定するのは難しいため、この表現は適切ではありません。変異株が拡散した場所が必ずしも出現した場所とは限らないため、こういった名称には注意が必要です。

swissinfo.ch:スイスでも英国のように新規感染者数が爆発的に増える可能性があると思いますか?より厳格な防止措置の必要性は?

ホドクロフト:英国の変異株は既にスイスでも確認されているため、状況は悪化すると覚悟しておくべきでしょう。だからこそ、この流れを食い止めるために感染を抑えることが非常に重要なのです。上手くいけば、感染は収束するでしょう。たとえ感染が無くならなくても感染数が減少すれば医療崩壊を免れるため、状況が悪化した時に対応できます。英国のように、深刻な医療崩壊に陥った結果、病院の外に救急車の列ができるような事態にはなりたくないものです。

swissinfo.ch:ワクチン反対者や接種に不安感を抱いている人についてどう考えていますか?

ホドクロフト:不信感の多くは、ワクチンが開発されたスピードが主な原因です。ワクチンが市場に出回るまでに、通常であれば5~10年掛かると聞いたせいでしょう。まず、今回承認されたワクチンの多くは、他のウイルス、場合によっては他のコロナウイルス用に開発されたものであることを明確にする必要があるでしょう。つまり、既にベースとなる技術があり、全くゼロから始めたわけではないのです。

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セミロックダウン前のチューリヒ。2021年1月16日撮影 Keystone / Alexandra Wey

次に、ワクチン開発に時間が必要なのは科学ではなく、それを取り巻く官僚主義です。科学者の主な役割は、資金調達や報告書の作成、そして新しいワクチンの治験に必要な人数のボランティアを集めることです。これら全てが、完成までのプロセスを本当に長く、困難にしているのです。しかし新型コロナウイルスの世界的な大流行は、こういった問題の多くを一掃しました。政府は資金を拠出し、速やかにインフラを提供し、信じられない数の人々がワクチン治験に申し出ました。科学のペースは変わりませんでしたが、官僚主義は大いにスピードアップしたのです。また今回のワクチンはボランティアが非常に多かったお陰で、他のワクチンよりも念入りに試験されています。これは、全ての利害関係者が協力すれば、科学は大いに前進できることを示しています。

もう1つの懸念として、ワクチンによる長期的な影響が挙げられます。ワクチンは免疫系に特定のウイルスと戦う方法を教えるのに十分な時間体内にとどまった後、消えていきます。そのため、副反応は非常に少なく、自然感染のウイルスよりもはるかに危険性が低いとされています。

swissinfo.ch:今回のパンデミックから学ぶべき未来への教訓とは?

ホドクロフト:我々はウイルスについてまだ殆ど何も知らないことを思い知らされました。これまでインフルエンザウイルスやエイズウイルス(ヒト免疫不全ウイルス/HIV)は重点的に研究が進められてきましたが、コロナウイルスやその他ウイルスの重要性は過小評価されてきました。この世界には何千ものウイルスが存在し、次のパンデミックがいつ起こるかは誰にも分かりません。今回の経験が、ウイルス研究の重要性の認識を高めるきっかけになれば良いと思います。

ベルン大学の社会・予防医学研究所に勤めるイギリス系アメリカ人のゲノム疫学者。

(英語からの翻訳・シュミット一恵)

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