スイス人青年実業家、ルカ・オルドゥニャさん(27歳)が初めて日本を訪れたのは5年前。その後、スイス時計の輸入代理事業を担う会社を東京に設立し、スイスの伝統工芸である時計を介してスイスと日本を繋ぐ。日本で働くことは毎日が挑戦だというオルドゥニャさん、スイス人の枠にとらわれない考え方や柔軟性が懐かしいと話す。
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スイスインフォ: 日本に行こうと決めたきっかけは何ですか?
ルカ・オルドゥニャ: 私の両親がチューリヒで旅行代理店を経営している関係で、幼い頃からアジアの文化と言語に興味を持っていました。
そして学生時代にザンクト・ガレン大学で受けた講義を通して、多様性溢れる日本文化の虜になりました。これをきっかけにスイス日本商工会議所の奨学金制度を使って日本へ旅立ちました。22歳でした。
スイスインフォ: 今の職に就くきっかけは何ですか?
オルドゥニャ: 1年間の奨学金制度を終え、将来について考えていた頃、スイスの友人が一緒に会社を立ち上げないかと声をかけてきました。
こうして仲間4人で、アジアを中心にスイス時計の輸入代理販売を行う会社を立ち上げました。1人がスイスに本社を構え、他の2人が香港と台湾に、そして私が日本でSwissPrimeBrands社を設立しました。
スイスインフォ: 知らない土地で会社を立ち上げるのは簡単ではなかったと思います。
オルドゥニャ: 私にとっては後にも先にもない最高の条件がそろっており、全てを賭けました。アジアでスイス時計の代理店、それもスイスとの強い繫がりを持つ代理店の需要があることを知っていたし、ハングリー精神に満ちた仲間にめぐり会えたから。
私の場合、奨学金制度の下で半年間、日本企業で時計の企業間取引を中心としたインターンシップの経験があり、その頃に築き上げた人脈が会社の立ち上げに大きな助けとなりました。
それよりも、立ち上げ後に日本の顧客との繋がりを一から築くことが大きな壁でした。日本では特に顧客との関係性が重要。機会に恵まれるまでは辛抱と長い歳月にわたる努力が求められました。
スイスインフォ: スイス時計に対する日本の評価はどうですか?
オルドゥニャ: 時計産業において日本はスイスの競合国であると同時に、香港、米国、中国と並んで「メイド・イン・スイス」時計の主要な顧客です。質を見極めるセンスがあり、長い伝統を持つブランドを高く評価する日本人に、スイス製の時計は高い信頼を得ています。
スイスインフォ: 日本のどんなところが好きですか?
オルドゥニャ: 日本は自然が豊かです。冬には雪山でのスキーを、夏には湖や海で泳いだりマリーンスポーツなどをしたりして楽しめます。
なかでも圧倒されたのは日本の食文化。一生をかけても全制覇することはできないほどのレストランがある。また、日本では大皿料理を皆で取り分けて食べることが多く、社交的で、たくさんの品数の料理を食べられるので気に入っています。
スイスインフォ: 日本での生活はどうですか?
オルドゥニャ: 渋谷のスクランブル交差点近くに住んでいるのですが、皆が互いに気配りをしているためか、人混みの中でもせわしいと感じたことはありません。そこら中にコンビニエンスストアがあり、暮らすにはとても便利。渋谷は本当に眠らない街だなと感じています。
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オルドゥニャさん(右)と友人。渋谷スクランブル交差点にて
日本で働くことは私にとって毎日が挑戦。同僚や顧客とは日本語で会話するが、5年経った今でも微妙なニュアンスなど理解できないことがあります。日本語は相手との関係性、地位、年齢などによって表現の使い分けが必要で、この点が難しいです。
時には、既存の枠にとらわれない考え方や、結果だけにとらわれず自由で革新的な解決方法を提示するなど、スイス人の柔軟性が懐かしいと感じるときがあります。
スイスインフォ: スイスが恋しいですか?
オルドゥニャ: 私にとってふるさとは後にも先にもスイスです。
ときにスイスの家族と友人が恋しくなります。日本にどれだけ長く住もうとも、やはり私は外国人に変わりはありません。そう感じるときは、チューリヒ湖岸のテラスでまた家族と一緒にバーベキューをしてのんびり過ごしたいなと思います。
ただ、将来は他のアジア地域にも事業を展開していきたいと思っているので帰国は今のところ考えていません。
※ 本記事はメールでのインタビューを基にしています。
本記事で表明された意見はインタビュイーの陳述によるものであり、必ずしもスイスインフォの見解を反映するものではありません。
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「権利と義務の上に立つスイスの民主主義」
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女性参政権の導入が大幅に遅れたスイス。徴兵制の存在がその原因の一つなのか?スイス出身の政治・歴史学者、レグラ・シュテンプフリ氏に話を聞いた。
シュテンプフリ氏は1999年に発表した博士論文「Mit der Schürze in die Landesverteidigung(エプロン姿の国家防衛)」の中で、1914年から45年にかけてのスイスにおける軍事政策と女性政策の関係性を調査した。スイスインフォは著名知識人であるシュテンプフリ氏に、市民の権利と義務との結びつきについて話を聞いた。
スイスインフォ: 1971年、スイスでようやく女性参政権が認められました。導入の遅れは徴兵制が原因だったのでしょうか?
レグラ・シュテンプフリ: それが一因だったのは間違いない。だが、他にも直接民主制の影響があった。女性参政権を認めるにも男性の過半数の賛成が必要だったのだ。しかし、徴兵制が密接に関係していたのも確かだ。スイスでは、武器を持った男性たちが何世紀ものあいだ戦争と平和に関する決定権を握っていた。戦争決定に関する意思表示の権利は、兵役という義務と表裏一体の関係にあったのだ。それが女性の参政権獲得の大幅な遅れにつながった。ちなみにスイスの女性たちは、公に平等の権利を獲得する前からもしっかりと国の制度に組み込まれていた。
スイスインフォ: つまり、女性が抑圧されていたというよりは、参政権と兵役義務が切り離せないものだったという意味ですか?
シュテンプフリ: その通り!いずれにせよ歴史は見直される必要がある。自分も博士論文やその他の著作でそれを試みてきた。女性を甘く見ないように!
スイスインフォ: ヴァレー州ウンテルベッヒの町議会は1957年、ある動議に関して女性に非公式の投票権を与えました。その動議のテーマは、女性の民間役務(兵役の代わりとしての社会奉仕活動)の義務導入。これは単なる偶然ではありませんね?
シュテンプフリ: そう、決して偶然ではない。興味深いのは、そもそも直接民主制、いや、民主主義そのものが、社会的排除から社会的包摂(社会的弱者を含めあらゆる市民を社会の一員として取り込むこと)へと発展する点だ。
スイスインフォ: どういう意味でしょう。
シュテンプフリ: つまり、参政権は社会的マイノリティの間に徐々に広がっていくということ。たとえばフランスの場合ならばアルジェリア出身者といった外国人。ドイツでは、プロイセンで行われていた三級選挙法(納税額の多い順に有権者を1〜3次まで区分した、高額納税者層に有利な選挙方式)が1918年に男子普通選挙制に改められ、ワイマール憲法でついに女性参政権を認めるに至った。
それに対し、スイスの民主主義で常に重視されてきたのは権利と義務の概念。これは、1848年に連邦憲法が成立して以来、女性の女権論者たちが「女性は選挙権と引き換えに兵役に就く必要はない。我々はすでに母としての義務を果たしている。出産育児は兵役以上の社会貢献であり、一種の民間役務だ。したがって女性が参政権を持つのは当然だ」と主張してきたことからも分かる。欧州初の女性法律家であるスイス人、エミリー・ケンピン・シュピーリもその一人だ。
スイスの民主主義は、軍事面に関してもそうだが自由主義的な制度面でも、権利と義務の長い伝統を基盤としている。ところがこれは今日、直接民主制の議論のなかで置き去りにされがちな点でもある。「国家からの自由」、つまり国家を操作するというメンタリティがあまりに安易に実践されている一方で、「国家への自由」、つまり国家への義務を果たすのは「持たざる者」ばかりという状況になっている。
スイスインフォ: スイスにも外国人が自治体・州レベルで投票できる地域がありますが、女性と同じく兵役義務は課せられません。筋が通らないのでは?
シュテンプフリ: ああ、その時代遅れで馬鹿げた主張は聞き飽きた。スイスに住んで税金を納めている以上、政治参加する権利もあるはずだ。ただ、スイスに住む者は全員なんらかの社会奉仕活動をすべきということは、私も以前から言っている。これは啓蒙思想の系譜に連なる考えであり、この点において自分は保守的革命家と言えるかもしれない。誰が国家に帰属するのかしないのか、その議論はもう2世紀以上も続いている。すでに近代フランスのサロンでも女性参政権を求める声があった。それを忘れないように!ユダヤ人というマイノリティの人権問題もかなり早くに取り上げられていた。そして実際、フランス革命後にユダヤ人に市民権が与えられた。
ところがこれらの概念はすべて、「民主主義とは何か」という意識の中からいつのまにか消えてしまった。民主主義においては生物学上の違いや出身地、年齢は重要ではない。民主主義とは、共同で事に当たる平等な人間により作られるものだ。その人が「誰か」ではなく、その人が「何をするか」、それが大事なのだ。したがって、ここに住み、働き、地域社会に参加している人間に参政権を与えるのは当然だと考える。
そういう意味で、19世紀というのは世界史において事実上の「中世」だったと言える。あの時代に世界はきわめて非民主主義的で差別的なものを背負わされてしまった。それ以降、世界政治は国家主義と男性優位主義によって決定されている。この二つの組み合わせがファシズムを産んだのだ。これらすべてについて、今、議論されなくてはならない。
民主主義において権利と義務は一体だと考えますか?コメント欄に皆さんのご意見をお寄せください。レグラ・シュテンプフリ
レグラ・シュテンプフリ(哲学博士、コーチングスペシャリスト)。歴史、政治哲学、政治学およびジャーナリズムを専攻。1999年ベルン大学で博士号を取得。博士論文「Mit der Schürze in die Landesverteidigung, 1914-1945, Staat, Wehrpflicht und Geschlecht(エプロン姿の国家防衛――1914〜1945年。国家、兵役とジェンダー)」は2002年に出版された。以後、民主主義、欧州の政治参加、ハンナ・アーレント派政治哲学およびデジタル化社会などをテーマに、7本の研究論文を発表している。専門家、講師、著者としてスイスならびに欧州で活動中。ドイツ語圏メディアへの登場も多く、鋭い切り口のコラムで知られる。欧州連合(EU)の首都ブリュッセルで数年を過ごし、スイスに帰国後も自称「民主主義の出張販売員」としてドイツ、フランス、オランダ、英、ベルギーなどの国々を勢力的に飛び回る。
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