ジュネーブモーターショー 明日の電気自動車
自動車産業界の不況に開催が危ぶまれた第80回ジュネーブモーターショー。しかし結果的に例年通り多数のメーカーが参加し、3月4日から14日まで開催される。
各メーカーがより経済的でエコロジーな車を追求した今回のショーでは、ハイブリッドが主流を占めながらも電気自動車が現実的使用に向かって歩を1歩進めている。
ハイブリッドが主流
「自動車メーカーの倒産、従業員のリストラなどが相次ぎ、2009年春の時点では2010年のモーターショーは実現できないだろうと思った。しかし6月から9月にかけ参加者が次々と手を挙げ、秋にはほぼ会場が埋まった」
とジュネーブモーターショーの会長リュック・アルガン氏は語る。
開催成功の理由を、フランクフルト、東京などのショーは自国のメーカーに優先権を与えてしまうが、スイスは自動車メーカーがないためすべての参加者を平等に扱うことが有利に働いたという。また、インフラが整っており、小型の国際モーターショーであることなども利点だという。
自動車産業の未来をアルガン氏は
「不況にもかかわらず、時代のニーズに敏感に反応し、より経済的でエコロジーな車の追求にただちに切り替えるメーカーのタフな姿勢には驚かされる。これまでパワーと速さを売り物にしていたメーカーさえ急転換している」
と話し、さらに今回のモーターショーはこうした経済的でエコロジーな車の研究成果を各メーカーが持ち寄り、車の将来の在り方をも一緒に検討する場だと結論する。
ヨーロッパでは、2015年から二酸化炭素 ( CO 2 ) の排出基準が走行距離1キロメートルにつき120グラムになるため、今回のショーでは各社ともクリーンエンジンを搭載した小型車の開発にさらに力を入れている。BWMミニはディーゼルでCO 2排出量が104グラムの「ミニ・コパ ( Mini Cooper ) 」、ガソリンで119グラムの「ミニ・ワン・ミニマリスト( MINI One Minimalist ) 」を展示している。
エコカーの主流は何と言ってもハイブリッド。BMWはハイブリッド車「アクティブ・ハイブリッド ( Active Hybrid ) 」のコンセプトカー、メルセデ ス ( Mercedes ) もディーゼルのハイブリッド車をそれぞれ展示。スポーツカーのイメージのあるフェラーリ ( Ferrari ) さえ「599ジーティービー・フィオラーノ ( 599GTB Fiorano ) 」のハイブリッドバーションを展示している。ルノー ( Renault ) やホンダも昨年に続きハイブリッド車を展示会場に持ち込んだ。
トヨタもプリウスに継ぐハイブリッド車「ニュー・アウリス ( New Auris ) 」を今回の目玉として展示。これはプリウスよりデザインも控えめで
「エコカーに乗っていると大げさに主張したくない人のための、ごく普通の乗用車を目指している。CO 2排出量も僅か89グラムだ」
とトヨタ・ノルウェーの広報担当エスペン・オルセン氏は話す。
大規模リコールの渦中にあるトヨタだが、ハイブリッド車のブレーキ問題もあったため、ニュー・アウリスの技術面や安全性には特に力を入れていると語り、リコールの状況に関しては
「ヨーロッパでの故障届けは、現在26台にとどまっている。また問題の8車種の車のオーナーには全員連絡を取り、1台ずつ点検している。トヨタは謝罪を続け、この失敗を今後の安全技術に生かしていくしかない」
と続ける。
明日は電気自動車
車の将来を「例えるなら、今日がハイブリッド、明日が電気自動車、明後日が水素自動車だ」とホンダ・ヨーロッパの広報担当、遠藤茂樹氏が表現するように、今回のショーではハイブリッド車の横に、電気自動車のコンセプトカーや今年秋には販売される電気自動車が並び、訪問者の注目を浴びている。
ホンダも電気自動車のコンセプトカーとして4人乗り乗用車「ピコ ( Pico ) 」と1人乗り三輪車「3 RC 」を披露。電気自動車はとにかく小型の都会用だと考えている。搭載される電池はまた開発中だが
「環境面で大気中のCO 2量を2050年には2000年比で50% の削減に多くの国が同意している状況で、将来先進国で自動車を売るには、CO 2排出量をゼロにしていくしかない」
と遠藤氏。数十年後を念頭に、電気自動車の開発は必然だという。
ルノーも2台の電気自動車のコンセプトカーと2011年に発売される乗用車「フリューエンス ( fluence ) 」を展示。
「電気自動車は充電のインフラ整備とハイコストが問題だが、フランスはインフラ整備に力を入れており、ヨーロッパ全土でもこれが整うのは時間の問題だ。もちろんコストを下げるための電池開発は必然だ。またフランスでは電気自動車を買うと5000ユーロ ( 約60万円 ) の補助金がでる」
とルノー電気自動車開発部長ティエリー・コスカス氏は語り、電気自動車の未来に期待を寄せる。
ルノーと共同開発を続ける日産も今年の後半からヨーロッパで売り出す5人乗り電気自動車「リーフ ( Leaf ) 」を紹介した。
「夜8時間家庭で充電すると、翌日160キロメートル走れる。スタンドで急速充電すると30分で充電できる。ヨーロッパの都市内や島の中だけといった限った使い方には理想の車だ」
と日産プロダクトデザイン部の関口賢 ( まさる ) 課長。10年間かけたリチウムイオン電池開発の成果が実り、実用にようやくこぎつけたと話す。将来は充電のインフラ整備と、1回の充電で走れる距離をさらに伸ばすことが課題だという。
2年前からモーターショーに参加している中国のBYDも、ハイブリッドと5 人乗り電気自動車「 e 6 」を展示。6時間の充電で330キロメートル走るという。
「政府関係者がすでにe 6を使っている。来年からヨーロッパで販売する予定。また中国政府は充電のインフラ整備に非常に力を入れている」
と広報担当のエミ・ション氏は説明する。
スイスでは
毎年革新的なコンセプトカーを発表して注目を集めるチューリヒ自動車設計工房、リンスピード ( RINSPEED ) も今年は電気自動車「 U C ? 」を展示した。超小型の2人乗りで、ブレーキのペダルもなければ、ハンドルもない車だ。ブレーキ、アクセル、ハンドルの役はドライブワイヤーと呼ばれるギアチェンジに似たもので行われる。
アイデアは歩行が困難な人の移動車から来ている。インターネットとも接続でき、車内の小型モニターで電車の時刻を検索し、乗車券の予約も入れられる。
「これはあくまで都会用の車で、例えばジュネーブからフランクフルトといった長距離の移動は電車を想定している。そのため、電車の予約にインターネットが必要だ」
とシュテファン・リングレッブ氏は説明する。
リングレッブ氏は音響技術者。「 U C ? 」の設計者フランク・リンダークネッヒト 氏の基本コンセプトに、音響部門で協力した。
「デザインは『U C ?』とまったく同じだがガソリンで走る方は、フィアット ( Fiat ) がコンセプトを買って生産を始めた。この『 U C ? 』もその方向が考えられる」
と言う。
そのほか、スイスの電気自動車を輸入するチューリヒの会社「イヴォルト ( ivolt ) 」は、イタリアの「タザーリ ( Tazzari ) 社」から、「U C ?」に類似した「タザーリ・ゼロ ( Tazzari Zero ) 」を、エコカーだけを集めたグリーン・パビリオン内に展示している。
イヴォルトのマリウス・バッハオーフェン氏 は「小型でスイスの都会を毎日走るには最適の車。1回の充電で140キロメートル走り、最高時速100キロ出せる」と前置きし、あまり知られていないが、スイスでは要所に660カ所充電スタンドがある。年間100フラン ( 約8270円 ) のカードを買えば、どこででも、いくらでも充電できると、スイスでの電気自動車の今後の普及を力説した。
里信邦子( さとのぶ くにこ) 、swissinfo.ch
2010年3月4日から14日までジュネーブのパレクスポ ( Palexpo ) で開催されている、国際モーターショー。
今年は約100台の世界初公開、ヨーロッパ初公開の車が展示されている。世界30カ国から205社が参加し、7万8000㎡の会場に約700車種を展示している。
会期中約70万人の訪問者が見込まれている。訪問者の4割が近隣のドイツ、フランス、イタリアから来る。
パリ、フランクフルトなどのショーより規模は小さいが、車を生産しない「中立国」スイスでの開催のため、参加者に対して平等だという点で評価が高い。
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