製薬大手ロシュの日本人社員が語る スイスで有給休暇が問題なく取れる理由
日本で社会経験を積んだあとスイスで働き始めた日本人が、なぜスイスと日本の働き方に違いが生まれるのかに気が付いた。長時間労働、家事・育児の時間、有給休暇の取得― 日本の「働き方改革」で本当に変わるべき部分はどこなのか。
吉永慎さん(36)は4年前まで、日本で暮らしていた。大学で生体電子工学を専攻し、2006年、ヘルスケアカンパニーのロシュグループ・診断薬事業部門の日本法人外部リンクにエンジニアとして新卒で就職。最初の3年間は、医療機器の「ドクター」としてロシュ製品のメンテナンス・修理を担当し、日本国内の担当地域を月に3~5千キロ、車で走る生活を続けた。
転機が訪れたのは、2013年。日本法人の本社でメンテナンス・修理をサポートする立場だった吉永さんは、日本市場に新しく導入する機器を学ぶため、スイスに8カ月滞在。本社のあるスイスで働いてみたい気持ちが強まり、自社の採用サイトの求人に応募。正式採用が決まった後、日本のロシュを退職し、2014年にスイスへ渡った。
日本とスイスの違い
日本のロシュからスイスのロシュ外部リンクへ。「スイスで働いて初めて、多くの日本人がいつも疲れた顔をしていることに気が付いた」と吉永さん。日本では残業と代休の消化に追われて、有給休暇が満足に取得出来ていなかった過去の自分を思い出した。
「日本では医療機器が使われていない土日にメンテナンスを行ったり、緊急性が高い場合は車で3、4時間掛けて現地へ向かい、深夜から朝にかけて修理することもあった。仕事に追われて代休や有給休暇は溜まる一方。出来たとしても代休の消化で手一杯だった」
スイスではメンテナンス・修理サポートのヘッドオフィスとして、世界各国では解決し切れなかった問題を受け付ける。緊急性が高いこともあれば、世界の色々な国から連絡を受けるため、時差問題が発生することもある。だが、仕事に無理はない。2週間程度の長期休暇も年に2回は取得出来る。
総合旅行サイト、エクスペディアが世界30カ国に住む男女約1万5千人を対象に行った調査外部リンクによると、日本の有給休暇消化率は50%で最下位。一方スイスは100%だった。
人か、ポジションか
なぜスイスでは問題なく有給休暇が取得出来るのか。仕事の「位置づけ」の違いを考えた時、吉永さんはようやくその理由に気が付いた。「スイスは『ポジション』に仕事がついている。対して日本は『人』に仕事がついている」。
スイスで吉永さんは、グーグルドライブや社内ウィキページを使って共有すべき情報を全て書き込む。「だから誰かが休んでも、代理が同じ仕事をできる」。一方日本では「なぜその情報を教えてくれないの?」と思うことが多かったという。「仕事を取られたくないのか、自分の価値を高めるためなのか。情報を握ったまま共有しないので、その人しかその仕事が出来なくなってしまう。だから休めない」
現在の職場では、上司は部下にどんどん仕事を与える。「上司は有給休暇をよく取る。そんなに休んでよく回るなと思うが、部下に必要な情報を与えているからこそなんだろうとも思う」
また、従業員が休暇を取る前提で人員を管理し、仕事の分量を割り当てているという部分もあると説明する。「日本は皆が働いているという前提で考える傾向がある」。
日本ならではの気付き
ただ、日本のように有給返上で多くの仕事をこなすからこそ見えることもある。「他の国は絶対気が付かないという点について連絡が来るのは必ず日本。それに仕事が細やか」。また、相手の立場に配慮し、自分より相手の都合を優先する気持ちが強いのも日本が一番だと話す。「日本相手のときは、他の国で時折聞かれる『I have to go.(もう帰らないと)』という台詞は絶対に聞かないですよ(笑)」
芝浦工業大学大学院卒、電気電子情報工学専攻。2006年、ロシュグループ・診断薬事業部門日本法人入社。2014年、スイス・ロシュ入社。技術サービスを担当するグローバル組織に所属。世界各国地域のサービス&サポート担当者にサポート、トレーニング、情報を提供。
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