リフト券の大幅値下げでスキー客を呼び戻せるか?
過去数年、業績不振が続いたスイスのスキー場。今季はシーズン券の大幅値下げやスイスフラン安の効果で、離れたスキー客がゲレンデに戻ってくることを期待している。
4千メートル級の山々に囲まれたスキーリゾート、サース・フェーは国内需要の底上げを目指し、昨年に続き今年も特別キャンペーンを展開した。それは、割引シーズン券の購入希望者数をホームページ上で集め、購入希望者数が目標人数に達成したら特別価格で販売するというもの。今年も目標人数に達したため、シーズン券「ウィンターカード外部リンク」を80%オフの233フラン(約2万7千円)で販売した。今年はこれまでに7万7千枚以上を売り上げた。昨年の販売枚数は7万5千枚で、現地の宿泊数は15%増加した。
「前年は谷全体に恩恵があった」とサース・フェー広報のクロディーヌ・ペロトンさんは話す。スキー客が増加し、ホテル、賃貸マンション、ショップの売り上げも上がったという。
他の地域もサース・フェーの取り組みに触発されているようだ。今話題となっているのが「マジック・パス外部リンク」と呼ばれる新しいシーズン券。スイス西部およびベルナーオーバーラント地方の一部にまたがる約24箇所の大小様々なスキー場で利用でき、総滑走距離は1千キロメートルに及ぶ。マジック・パスは今春、大幅なディスカウント価格の359フランで販売され、販売終了後の売上総額は冬季の平均収益にほぼ匹敵した。
今年は他にもスキーヤー向けに特別なリフト券が用意されている。当日の利用者数や天候に応じて価格が変動する1日券や、家族連れや若者向けの特別券などがいくつかのスキー場でテスト販売されている(下の囲み記事参照)。
判断は4月までおあずけ
はたして、こうした値下げ戦略によってゲレンデに客が戻り、スキー場の業績が上向くのだろうか?それとも低価格のシーズン券が売れれば売れるほど、単価の高い1日券の売り上げ枚数は減ってしまうのだろうか?その答えを出すのはまだ早急だが、低価格戦略の是非を巡って意見が分かれているようだ。
「サース・フェーにはイノベーション力があり、財政状況も良好。近隣のリゾート地にも悪影響は出ていない」と話すのは、北西スイス応用科学芸術大学のミリアム・スカリオーネ教授(観光学)だ。
「とはいえこの低価格戦略を他のスキー場がまねして同じ効果を得られるかは、シーズン後に検証した方がよいだろう。そうでないと1日券やウィークリー券の売り上げへの影響が把握できないからだ」と、同氏は地方紙24時間新聞の取材で語った。
ジュネーブでスキー関連のコンサルティング業務に携わり、世界の冬の観光業やリゾートに関して年次報告書外部リンクを発表しているローレン・ヴァナ氏も、低価格戦略の効果が長期間続くかどうかは分からないと言う。
「安いからとそのような券を購入し、5、6回スキーに行って元を取ろうとする人もいるだろう。だが券を買っても3回しか行かない人もいるだろう」(ヴァナ氏)
ヴァレー州で冬季スポーツコンサルタント業務を行うペーター・フルガー氏は、低価格戦略に批判的だ。「人件費や資材の費用がスイスで上がっているのに、後先かまわず価格を3分の1に下げることなどできない。1日当たりのスキー場利用者数を大幅に増やさないと、値下げで開いた穴は前年よりもさらに大きくなるだろう」と24時間新聞にコメントした。
スイスでは過去9シーズンで、スキー場の総利用日数(skier days)が2930万日から2120万日に減少し、過去25年間で最低水準を記録した。
スキー場が値下げ攻勢に出たのは、スキー客の減少傾向に歯止めをかけ、集客回復を図るためだ。スキー客離れの背景には、スイスで徐々に高齢化が進んでいることや、他の冬季アクティビティが多いこと、フラン高、積雪量の不足などが挙げられる。
スイス政府観光局のユルク・シュミート局長は11月初旬にチューリヒで行われた記者会見で、今冬の見通しは明るいとの見解外部リンクを示した。主な根拠は、フランの対ユーロ相場が下落したことだ。前回、前々回の冬季シーズンでは1ユーロ=1.10フランかそれ以上だったが、今シーズンは1.16フランに下がった。
「フラン安により、欧州からの訪問者は昨シーズンよりも6.5%安く1日リフト券が買える」とシュミート氏はそろばんをはじく。欧州からスイスに休暇で訪れる人の数は、ユーロ危機以前の水準に達する見込みはないものの、今冬はある程度の回復が予想されるという。
連邦工科大学チューリヒ校景気調査機関(KOF)の予想では、天候と積雪状況が良好であれば、今冬の宿泊日数は前年比で3.6%増加する見込みだ。フラン安に加え、ドイツ人、フランス人、イタリア人観光客の戻りが期待されるためだ。
しかし降雪量の予測は難しい。積雪量は2シーズン連続で不足し、低地のスキー場は苦境に立たされた。昨年の調査外部リンクによると、現在のスイスは低地でも高地でも、降雪日の日数が1970年代に比べて約40日少ない。同様に、クレディ・スイスが今年12月に発表したレポートによれば、冬にスキーができる程度の降雪量が見込まれるスイスのスキー場の数は、2035年時点で今よりも3分の1に減少する。現在は平均的な冬であれば、全体の約6割に当たる約250のスキー場で滑走できる。
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オーストリアから客が戻るか?
今年はスイスのスキー場にとって「ポジティブな兆候が多い」とヴァナ氏。だが「シュミート氏の予想は楽観的過ぎる」という。スキー旅行に必要な費用のうち、リフト券が占める割合はたった12~15%。他に宿泊代や交通費などもスイスでは大きな負担だ。リフト券をフラン安で6%節約できたところで「焼け石に水だ」と同氏は語る。
「近年では外国人客はスイスを離れ、オーストリアのスキー場を利用しているが、この傾向がずっと続くわけではない。いつしか終わりを迎えるだろう。だが、その時に外国人客はスイスに戻ってくるだろうか?」(ヴァナ氏)
この問いに対する同氏の見解はこうだ。「難しい問題だ。なぜならオーストリアの条件が良すぎるからだ。オーストリアにはスキー場同士で連携しているところが多く、リフトも素晴らしい。さらに問題なのは宿泊施設だ。オーストリアの方がスイスに比べ、価格と質のバランスが断然良い」
同氏によれば、スイスの冬季観光産業にとって主な課題は「人口構成の変化」と「利便性」だ。
「スキーは他のアクティビティと競合しており、そのほとんどがスキーよりも利便性の高いものだ。しかし幸いなのは、スキーの楽しみが感じられるよう改善できる点がたくさんあることだろう」
宿泊施設の料金見直しに加え、チケット販売の一本化や、レンタルしたスキー用品を宿泊施設まで配送するサービス、スキー場のリフト付近に板とブーツを置くためのロッカー室を設置することなど、小さな変化を取り入れれば「大きな違いが生まれる」とヴァナ氏は主張する。
「いくつかのスキー場では、スキー用品のレンタルはこの場所、スキー券の購入はあの場所、スキー講習の予約はまた別の場所とばらばら。さらに駐車場がスキー場の近くにないため、利用客は計五つの場所を移動しなくてはならない。一人だったら大丈夫だろうが、小さい子どもを2、3人連れている人にとっては相当大変なことだ」
サース・フェー・ウィンターカード外部リンク:シーズン券。233フラン。サース・フェー、サース・アルマゲル、サース・グルント、サース・バーレンで有効。12月17日で販売終了。
マジック・パス外部リンク:25のスキーリゾートで使えるリフト券(シャトーデー、レザン、レ・ディアブルレ、ヴィラール・グリオン、オヴロナ、クラン・モンタナ、ヴェルコラン、グリメンツ・ツィナール)。4月の販売当初は大人359フラン、小人249フラン。11月13日で販売終了。
Mont4Card外部リンク:1年間有効のフォー・ヴァレー・シーズン券。通常1402フランのところ25歳以下は400フラン。11月30日で販売終了。
バート・ラガッツ、ヴァングス:ピッツォール・スキーエリアの1日リフト券が天候次第で最大50%オフ外部リンク。ドイツ語圏のスイス公共放送(SRF)で予報される天気が悪ければ悪いほど、1日券が安くなる。
ベルナーオーバーラント:「トップ4スキーパス外部リンク」は、総滑走距離666キロメートルのコースが利用できるシーズン券。大人666フラン、ユース499フラン、小人333フラン。アデルボーデン・レンク、グシュタード、ユングフラウ・スキーエリア、マイリンゲン・ハスリベルクで有効。12月15日で販売終了。
(英語からの翻訳・鹿島田芙美)
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