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スイスの仮想通貨銀行SEBA 会長が語る成功の秘訣

ツークにあるSEBA本店 swissinfo.ch

世界初の仮想通貨銀行として話題を呼んだスイスのSEBA(セバ)。仮想業務開始から3年半、仮想通貨業界に逆風も吹くなかで順調に業務を拡大している。拠点をアブダビやシンガポールなど5カ所に広げ、これまでに仮想通貨で総額約2億3千万フラン(約350億円)の資金調達に成功した。

スイスの仮想通貨銀行SEBA外部リンクのパイヴィ・レコネン会長(54)が、ツーク市内の本社でswissinfo.chとのインタビューに応じた。同社は2018年設立、2019年11月に仮想通貨業務を開始した。現在は本社のあるスイスを含む5カ国に従業員約120人を抱える。本社は若いIT専門家たちが集まる倉庫やシェルターのような場所かと思いきや、ラグジュアリーなプライベートバンクの社屋さながらだった。

2020年9月からSEBAの会長を務めるパイヴィ・レコネン氏はフィンランド出身。母国のユヴァスキュラ大学で経済学と社会学の修士号を取得した。シスコシステムズ(米)、ノキア(フィンランド)、UBS(以下スイス)、クレディ・スイス、アデコなどの大手企業で、DX(デジタル化による変革)分野のさまざまな戦略的役職を担い、国際的なキャリアを積んできた。また、インドのIT大手ウィプロやフィンランドの工業用クレーン大手コネクレーンズなど国際的企業の取締役を務める DR

swissinfo.ch:あなたの母国フィンランドは男女平等社会の模範的存在です。今いるスイスはどうですか。

パイヴィ・レコネン:国によって発展の仕方はさまざまです。フィンランドの場合、第2次世界大戦中や戦後に工業化が進み、労働力需要が一気に高まりました。女性はそれに応える形で自然に労働市場に参入しました。そして、共働き家庭を支援する法律や社会保障が徐々に整備されていきました。託児所もその1つです。

私は主にスイスで、大手多国籍企業のテクノロジー部門で働いてきました。20年前は、職場に女性は私ひとり、ということがよくありました。幸い状況は大きく変わりました。

swissinfo.ch:スイスの好きなところと嫌なところを教えてください。

レコネン:私が夫と共にスイスに来たのは何年も前のことです。私たちははじめ、ただの通過点と考えていましたが、この小さいけれども非常に国際的でダイナミックな国がとても気に入り、定住を決めました。驚かれるかもしれませんが、よく考えてみても、嫌なところは全くありません。

よく考えてみても、スイスに嫌なところは全くありません

swissinfo.ch:スタートアップの経営者には若い人が多いですが、あなたやSEBAの最高経営責任者(CEO)には30年以上の経験があります。

レコネン:当行は、特に年齢に関して多様性を重視しています。私自身は革新的な技術の開発と応用を繰り返し経験してきました。これらすべての経験、知識、スキルは、より良い決断と危険の回避に役立つはずです。しかし、私たちは年齢や経験の違いを超えて、ブロックチェーン(分散型台帳)など暗号技術に対する情熱で結ばれています。

swissinfo.chSEBAは「仮想通貨銀行」です。具体的にはどのような銀行ですか。

レコネン:当行は他のスイスの銀行と同じように、スイス金融市場監督機構(FINMA)から銀行免許を取得しました。したがって、すべての活動がFINMAの規制・監督を受けます。

当行は個人投資家や機関投資家に、資産運用、クレジットカード、融資など幅広いサービスを提供するだけではなく、仮想通貨などのデジタル資産に特化したインフラと専門知識を有しているのが特徴です。

swissinfo.ch:デジタル資産に特化するメリットは何ですか。

レコネン:資産の一部をビットコインやイーサリアムといった仮想通貨に投資したいと考える投資家が増えています。自分でもできますが、複雑です。また、デジタル資産が適切に保管されていない場合、リスクは高まります。ハッキングによってすべてのデジタル資産を失う恐れがあります。

そこで当行はこのような投資家に仮想通貨の利便性だけでなく、安全性の高い保管を提供しています。例えば、ビットコイン口座とクレジットカードなど他の商品との関連づけも可能です。そして、多くの伝統的な銀行が顧客のデジタル資産管理に当行の暗号技術を利用しています。

swissinfo.chSEBAのウェブサイトは英語版だけです。潜在的な顧客はもっぱら英語圏の人々なのでしょうか。

レコネン:英語は事実上、金融の共通語です。当行はグローバルな事業展開を目指していますが、新興企業ですから、当面は英語版だけにしました。

swissinfo.ch:スイス国内外の業績はどうですか。

レコネン:順調に伸びています。そこで今回、ツーク本社とアブダビ、香港、シンガポールにある海外拠点で新規採用を行います。海外では、拠点国で合法であれば、顧客との直接のコンタクトを強化できる人材や、「コンプライアンス(法令順守)」を徹底しつつ当行の業務を円滑に遂行できる人材を求めています。

swissinfo.ch:ブロックチェーンやデジタル資産の急成長はごく最近のことです。教育を受けた人材を十分に確保できますか。


レコネン:スイスでは既に約20の総合大学や応用科学大学がこれらの分野の教育を行っています。また、スイスの投資コンソーシアム、クリプト・バレー・ベンチャー・キャピタル(CV VC)によると、ツークを中心に「クリプト・バレー(暗号の谷)」を形成する企業が約6千人を雇用しています。さらに、スイスのブロックチェーン・エコシステム(生態系)には評価額10億ドル以上のユニコーン企業がいくつもあります。

ですから、スイスは人材面で国際的に有利な立場にあります。特定のスキルを持つ人材が国内で見つからない場合、海外から呼び込むこともそれほど難しくありません。実際、当行には約20カ国の出身者がいます。

swissinfo.chSEBAの資金調達額はいくらですか。調達方法は仮想通貨を使った「イニシャル・コイン・オファリング(ICO)」ですか。

レコネン:3回のICOで約2億3千万フランを調達しました。第1段階で、フラン建て株式の発行という古典的な方法をとり、第2段階で、より効率的に管理できるよう、株式をデジタル化し、ブロックチェーンに記録しました。

事件後、当行の国内外の拠点(ツーク、シンガポール、香港、アブダビ)で口座開設件数が増加しました。

swissinfo.ch:仮想通貨交換業の世界的大手FTXトレーディングが昨年、米国で破産法の適用を申請しました。このような経営破綻はスイスでも起こりうるでしょうか。

レコネン:カリブ海バハマに本社を置くFTXはルールのない組織でした。FTXが経営破綻した経緯については既に広く報道されています。たしかに規制はリスクを減らせますが、ビジネスモデルの持続可能性と安全性が証明されていない限り、ビジネスの世界に成功する保証はありません。

swissinfo.ch:米国では最近、シリコンバレー銀行(SVB)とシグネチャー銀行が相次いで経営破綻しました。さらに、スイスではUBSによるクレディ・スイスの救済買収が決まりました。SEBAへの影響はどうですか。

レコネン:当社のすべての銀行業務は中断なく円滑に機能しており、顧客への影響はありません。むしろ、当行のサービスへの需要が世界中で高まっています。例えば、これらの事件後、当行の国内外の拠点(ツーク、シンガポール、香港、アブダビ)で口座開設件数が増加しました。

また、ビットコインの価格が回復しました。これは、おそらく投資家の間でオルタナティブ(代替的)投資、すなわち非伝統的な投資への評価が高まっているためです。当行は3年以上の経験を持つ仮想通貨銀行として、このような動きの中で有利な立場にあります。

swissinfo.ch:仮想通貨の規制に関して、スイスの国際的位置づけをどうみていますか。

レコネン:FINMAをはじめスイスの規制当局は、新分野の規制に非常に力を注いでいますから、スイスの規制は最先端と言えるでしょう。ツーク州では、一部の税金についてはビットコインでの納入も可能です。

シンガポールや香港の規制当局も非常に積極的ですが、スイスほどではありません。仮想通貨業界に対する規制が国際的に調和されれば理想的です。そのための最初の一歩は、「仮想通貨」や「デジタル資産」といった基本的な概念に関する共通定義の採択でしょう。

編集:Samuel Jaberg、仏語からの翻訳:江藤真理

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