スイスの新年度、学校のコロナ対策は
スイス各地の学校では新年度を迎えたが、国内の教職者団体は新型コロナウイルスの影響は著しいと警告を発している。マスク着用義務や生徒の自主隔離義務の把握、春から初夏の休校措置でさらに広がった教育格差などが焦点となりそうだ。
スイスの2大教職者団体であるドイツ語圏教職員連盟(LCH)とフランス語圏教職員組合(SER)は10日、首都ベルンで開かれた共同記者会見で「新年度が通常通り始まっても、再度の休校措置に対し備えておかなければならない」と述べ、健康が最優先事項であることを強調した。
会見は国内11の州で新年度が始まったのに合わせて行われた。残りの州でも今後2〜3週間内に順次、授業が始まる。
両団体は、校内で適切な感染予防措置を確立するためには、昨年度中に得た教訓を生かさねばならないと訴える。上級生のマスク着用について各州で対応にばらつきがあるように、スイスでは教育を管轄するのは州だ。そのため教職員団体では具体的な要望として、各州間の調整を強化することや、連邦当局の意思決定プロセスに両団体を加えることなどを挙げている。
注目の秋学期
3月13日、連邦政府は州の頭越しに全国の学校を休校にするという前代未聞の措置を取った。
5月11日に休校が解除された小学校では多くの教室で対面授業が復活したが、6月8日に少人数グループで再開された職業訓練校や普通高校では、リモート学習を継続する学校が多かった。
ロックダウン緩和後、学校教育の責任者に返り咲いた各州が、この秋学期、どのように舵取りをして行くかに注目が集まっている。
特に不安視されるのは、政府が帰国後10日間の検疫を定めた「リスク地域外部リンク」に渡航していた児童生徒によりウイルス感染が急激に拡大するのではないかという点だ。その上、高学年の生徒もフルタイム授業に戻る。
既にいくつかの州では、検疫は保護者の責任範囲だとして、生徒の夏休みの旅行先を「詮索」しないよう教師に通達済みだ。しかし、生徒が検疫義務を守っていないことが判明した場合、保護者と話し合いの上で帰宅させる方針を取る学校もある。
マスクと健康保護員
手洗いやソーシャルディスタンシング(社会的距離)などの衛生対策は全国の学校で新学期も継続される。小学校ではマスク着用は義務付けられないのが一般的だが(スイスでは低学年の児童はウイルスの主な感染源ではないと考えられている)、義務教育課程以降の15~16歳の生徒については、1.5メートルのソーシャルディスタンシングが保てない場合、マスク着用を義務付ける州もある。
フランス語圏では高学年の生徒にはマスク着用義務を課すことで各州が足並みを揃えた。しかし、ドイツ語圏ではルツェルンやベルンなど一部の州がマスク着用を推進する一方で、各州間で調整が行われていないため教職員組合から批判の声が上がっている。
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教職員側は10日、健康保護員職を新設し必要な訓練を行うなど、学校における健康リスク管理を専門化するよう求めた。
教育格差
その他大きな懸念材料とされるのが教育格差だ。高等教育を受けた両親を持つ生徒は恵まれない環境にある生徒よりも学業成績が向上する可能性が高く、スイスではかねて問題となっている。ロックダウンでこの格差が増大したというのが教師側の見解だ。
先日swissinfo.chが報じたように、休校中のリモート学習を活用しきれなかった児童生徒は全体の5分の1に上る。やる気の欠如の他、自宅での学習サポート、パソコンや集中できる環境といったリソース問題が主な原因とされる。
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教職員組合は、ロックダウン中に遅れを取ったり、精神的問題が生じたりした生徒を長期的に見守って行く必要があるとし、「そのためには全年度を通じて確実に利用できる、的を絞ったリソースが必要になる」という考えを示した。
リソースの具体例にはスクールソーシャルワーカー、早期言語学習プログラム、幅広い学童保育サービスを行う学校周辺施設へのアクセスなどが含まれる。同組合によると、これは農村地区の学校についても適用される。特に小学校では児童は昼食をとるため下校し、午後はそのまま放課後となるケースが多い。
コロナ被害の大きかったティチーノ州では
一方、イタリアに近くコロナウイルスの影響が特に深刻だった南部イタリア語圏のティチーノ州でも、秋学期に向けた計画が整いつつある。同州は全国的ロックダウンに先駆けいち早く休校措置を発動した州であると同時に、休校を全面解除する最後の州でもある。
同州当局は10日、8月31日付けの授業再開と全学年でマスクを不要とする方針を明らかにした外部リンク(ただし、今後の状況次第で高学年の生徒については変更もありうる)。教師については、廊下や職員室といった公共の場ではマスクを着用し、教室内では外してもよいとする見込み。
(英語からの翻訳・フュレマン直美)
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