スイスの直接民主制、近隣諸国で高評価
スイスほど自国の政治に満足している国民はいない。近隣諸国はスイスが欧州連合(EU)にとって民主制度の模範であると考えていることを示す世論調査も発表された。
「リベルテ!リベルテ!(自由を!自由を!)」。スイス各都市では毎週のように政府の新型コロナウイルス対策に反対するデモ行進が発生している。その要求の中には、アラン・ベルセ保健相の辞任といった比較的害の小さい内容もあるが、同氏を「コロナ独裁者」と呼ぶプラカードやシュプレヒコールは過激だ。連邦議会第1党を冠するスイス国民党ですら、独裁者との表現を引っ張り出している。
安定性と合議制に基づくスイスの政治にとって、これは一大事だと捉えることもできる。だがそれでも、スイス人の政府に対する信頼の高さは揺るぎない。コロナイヤーとなった2020年においても従前と同じく、スイスは政府を根本的に信用している人々の割合が経済協力開発機構(OECD)諸国の中で最も高かった。
世論調査会社gfs.bernの政治学者、ウルス・ビエリ共同所長は「スイスの満足度は、コロナ政策に関しても明白に現れた」と指摘する。「確かに一定の集団は不満を声高に叫んでいるが、体制崩壊をもたらすほどの規模ではない」
ビエリ氏らは、スイスの政治に対する満足度を周辺諸国と比較。スイス、ドイツ、オーストリア、イタリア、フランスでそれぞれ約1千人にアンケート調査を行った。
スイスでは連邦政治について尋ねたが、他の国ではEUという枠組みに対する満足度について究明した。そこでもスイスは近隣諸国に比べ政治に対する満足度が高いことが分かった。
スイスでは成人の9割が「とても満足」「どちらかと言えば満足」と答えた。一方、近隣諸国でEUの政治体制に満足している人は5割にとどまった。
直接民主制が満足度の高さに
スイスの満足度は総じて高い。最も高いのは「政治参加できる機会」で、満足度は93%に達した。「表現の自由」や「議会選挙」、「政治的な懸念事項にデモを行う自由」も総合的な満足度の高さに貢献している。だがビエリ氏は「全ての政治参加手段の中で、直接民主制は特に重要だ」と指摘する。
一方近隣諸国では、EUの政治に参加する機会は明らかに少ない。満足だと答えたのは国民の48%と、半数未満だった。
だが、EUのような国家連合とスイスの政治体制を比べることはそもそも可能なのか?「体制を直接比べることはできないが、民主主義が生活や日常に与える影響は比較可能だ」(ビエリ氏)。調査ではどの政治体制が優れているかではなく、他の体制が問題をどのように解決するか見て学ぶことに重点が置かれた。
スイス流直接民主制を望む近隣EU諸国
近隣諸国のアンケート結果から、EUがスイスから学ぶべき点が数多くあると考えていることが分かった。政府・議会選挙、連邦制、言論の自由と、スイスのあらゆることがEUでは一考に値するものだと捉えられている。
ここでも直接民主制は重要となった。近隣諸国の回答者の77%が、EUはスイスのような憲法改正や法律に関する国民投票制度導入の可能性を探るべきだと考えている。75%はEUの政治にスイスのようなイニシアチブ(国民発議)やレファレンダム(議会提案に対する国民投票)を取り入れたいと回答した。
EUでスイスを手本とした政治改革が実現する見込みはあるのか?ビエリ氏は「調査は国民の意見や日常生活での感じ方を示すものにすぎない。政治的な強制力は働かない」と説明する。
同氏は「スイスは長きにわたり、この政治体制の中で発展してきた。女性の参政権のように、時には外からの圧力を受けたこともあった」と話す。スイスは長い時をかけて、どのように直接民主制と付き合っていくかを学んできた。「一朝一夕で直接民主制を導入したとしてもうまくいかない可能性があるのはそのためだ」
EUがスイスを過剰なほどに高く評価していることには、ビエリ氏も驚きを隠せない。「政党資金の透明性の低さや少数派の政治参加機会が少ないなど、スイスにも批判の対象になる点は多々ある。だがそれらは近隣諸国でさほど重視されていないようだ」
(独語からの翻訳・ムートゥ朋子)
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