スイスでは男性は65歳、女性は64歳で定年を迎える。男性の方が平均寿命が短いのだから、不公平だという人もいるかもしれない。なぜそのような差が出来たのだろう?スイスの老齢・遺族年金制度の歴史を紐解いた。(SRF/swissinfo.ch)
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マルチメディア・ジャーナリスト。2017年にswissinfo.ch入社。以前は日本の地方紙に10年間勤務し、記者として警察、後に政治を担当。趣味はテニスとバレーボール。
2014年放送のスイス公共ラジオ放送番組や政府発表によると、日本の国民年金に当たるスイスの老齢・遺族年金(AHV/AVS)制度が始まった1948年、定年年齢は男女共に65歳だった。その後、今日に至るまで男性の定年年齢は一度も変わっていない。しかし、女性は57年に63歳に引き下げられた後、何回か変更された。
57年に初めて女性の定年年齢が引き下げられたとき、主な理由となったのが「夫婦年金」による独身女性と既婚女性の間の不均衡だった。
当時、既婚女性は個別の年金受給資格がなく、夫が65歳で定年、妻が60歳になった時点で配偶者の分が加算された「夫婦年金」が支給された。専業主婦で保険料を納めていなくても、60歳になれば(夫が定年に達している場合に限り)年金を受け取れた。
一方、独身の女性は男性と同じく65歳にならなければ年金は支給されず、女性だけに「5歳の差」が生じるのはおかしいとの声が挙がった。
これらの不均衡を緩和するため、女性の定年年齢は57年に63歳、64年に62歳と段階的に引き下げられ、79年には夫婦年金の支給対象となる妻の年齢が62歳に引き上げられたことから、独身女性と既婚女性の間に実質的な差はなくなった。
2013年8月2日付の独語圏の日刊紙NZZ外部リンクは、「女性の生理的機能」も根拠の一つだったと指摘している。1957年の制度改正にあたり、連邦政府は「女性は男性よりも平均寿命が長いが、一般的に体力の衰えが早いため、仕事を辞めたり労働時間を減らしたりする人が多い」ことを理由に挙げたという。
年金制度は1997年に全面改正され、全ての成人が性別・仕事の有無に関係なく年金受給資格を持ち、各自が保険料を支払うシステムに変わった。女性の定年年齢は2001年に63歳、05年に64歳に引き上げられた。
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