スイスの視点を10言語で

スイスはごみの分別をやめるべき?

資源ごみの集積所に足を運ぶスイス人
スイス人は資源ごみの集積所にせっせと足を運ぶ。 © Keystone / Gaetan Bally

消費者主導のリサイクルが徹底していることで知られるスイス。だがリサイクルは企業や機械が担当するべきだと提案する分析が公表された。

スイスでは2000年にごみの埋め立て地が閉鎖された。2005年以降は、家庭ごみのリサイクルされる割合が焼却処理される割合を上回っている。これは市民の意識の向上やインフラの改善、ごみ処理料金の導入など、複数の要因が功を奏した結果だ。

だが、本当にこれで十分だろうか?シンクタンクのアヴニール・スイスは最新のレポート*で、リサイクル資源の回収率アップは可能だとの見方を示した。

「ごみの分別を促す情報が至る所で発信されているにもかかわらず、一般ごみの半分近くは基本的にリサイクルが可能な資源が占める。推定では、ごみ1袋の約5分の1は経済的にリサイクルできる」。分析をまとめたアヴニール・スイスのパトリック・デュムラーさん、ファビアン・シュネルさん、マリオ・ボナートさんはそう指摘する。

これはゴミをきちんと分別したくないか、分別できない人がスイスに数多くいるということだ。そしてスイスでは一般的な、消費者が空き瓶や空き缶などを公共の集積所に持っていくことに意味があるのかを疑問視している。では、レポートが指摘するように、すべての資源ごみをまとめて捨て後から分別する「シングルストリーム・リサイクル方式」は問題の解決になるだろうか?

スイスの一般家庭から出るごみの量は過去50年間で2倍以上に増え、1年間で1人当たり700キロ以上にふくらんだ。同時に、50年前の7倍のごみがリサイクルされるようになった。


外部リンクへ移動

ごみの分別はリサイクル可能な資源の焼却を避けるというメリットがあるが、シングルストリーム・リサイクルなら時間とコストの節約になるとアヴニール・スイスは主張する。

「消費者が廃棄物の分別に費やす時間を時給25フラン(約2840円)とした場合、シングルストリーム方式なら現在の分別システムと比べ約23億フランの節約になる」。これは収集システムの変換に伴う追加投資と運営コストの3億フランを既に差し引いた金額だ。

廃棄物に関するスイスの条例には、廃棄物はリサイクルするか、エネルギーとして回収しなければならないと定められている。但し焼却処理が他の処理方法や新製品の製造、他の暖房燃料の取得と比べ、環境への負担が少ないことが条件。また、焼却炉は最新式のものでなければならない。

それに対し連邦環境局は、これは理論上の節約に過ぎないと反論する。

「確かに(ごみの分別は)あまり生産的な時間とは言えないが、スイスにおけるリサイクル参加率は非常に高く、コストも比較的低い非常に安定したシステムだ」と連邦環境局の地方自治体廃棄物課のミヒャエル・ヒュギ次長は言う。「スイスのような小さな国にシングルストリーム方式は適さない。新システムに必要な選別施設は非常に高額であることに加え、廃棄物の種類によっては従来の収集システムを継続する必要もある」

しかし工業ロボットを採用すれば、自動化をさらに進められる可能性がある。アヴニール・スイスが指摘するように、昨年末にスイスで最先端のリサイクル施設「ソルテラ」がジュネーブでオープンした。同施設は企業や建設現場から出る工業廃棄物の分別に特化し、一般廃棄物は現在取り扱っていない。

湿った古紙、割れたガラス

分別するのが人間でも機械でも、シングルストリーム方式には問題がある。「(全てのごみを混ぜた結果)二次汚染で、収集物の純度が落ちる恐れがある。リサイクルには各資源のクオリティが非常に重要だ」と言うヒュギ次長は、ペットボトルを例に取って説明する。収集されたペットボトルに他の物質が混入すると、飲料用のペットボトル「R-PET」に再生できなくなる。PET製の果物パックさえ作れないという。

二次汚染の危険性はアヴニール・スイスも認識している。

「紙は、湿ったり不純物が混ざったりするとリサイクルの質が低下する。そのため古紙や段ボールは今後も別々に収集するほうが理にかなっている。ガラスも同じで、シングルストリーム方式で収集した場合、そのうち約4割はリサイクルできなくなる。これは割れてしまうガラスが多すぎるためだ」

黄緑色の収集袋

そんな中、ミスター・グリーンと呼ばれるスイスのリサイクルサービスは、ガラスもリサイクル資源として受け入れている。同社は過去10年間、混合リサイクル資源が入った専用袋を家庭や企業から回収するサービスを行ってきた。現在、スイスの複数都市に約1万人の顧客を持つ。

「ニッチなマーケットではあるが、コルクや飲み物の紙パック、さまざまなプラスチックなど、より多くの資源をリサイクルするためなら、喜んでお金を払ってくれる顧客がいる」。ミスター・グリーンの創設者の一人であるヴァレンティン・フィスラー氏はそう話す。

35リットルの混合リサイクル袋を毎月3袋ピックアップで、料金は17.90フランから。フィスラー氏によると、資源ごみは洗った状態で収集され、分別する作業員に届けられる。従業員の中には障害者も多い。このサービスがうまく機能しているのは、同社の顧客が一般の人々よりも環境や社会への意識が高いおかげだという。

「顧客は単に安く不用品を処分したいわけではない。(シングルストリーム方式が)全ての人に適しているかどうか分からないし、特にサービスが無料だったらどうなるかも未知数だ」(フィスラー氏)

汚染者負担の原則

スイスの首都ベルンでは、より幅広い種類のリサイクル資源の収集が実験的に始まった。費用は処理料金込みの専用ごみ袋でまかなわれる。住民は色分けされた複数のごみ袋にそれぞれのリサイクル資源を入れ、袋は一般ごみや緑のごみと一緒に収集される。利用時間や曜日が決められている従来の集積所とは違い、この分別コンテナなら24時間365日いつでも利用できる。但しコンテナの設置場所と、資源ごみがたまるまで専用袋を一時的に家に置いておくスペースが必要になる。

ベルン市のホームページには、色分けごみ袋の収集所が積極的に利用されていることを歓迎すると同時に、「容量が限界に達した」ため、1日に3回コンテナを空にして洗浄する必要性が生じたと記載されている。

新システムに関する質問で、説明にあたった市職員はベルンでシングルストリーム方式を採用することはあり得ないと断言した。「収集した袋の中身を後から分別するのは手間がかかるうえ、持続可能性に欠ける。また、このシステムはリサイクルの理念に反する。スイス国民は長年にわたり、ゴミを分別するように訓練されてきた。今さら何でも一緒に捨てる方が効率的だと言うのは馬鹿げている」

プラスチックごみ
スイスのスーパー大手ミグロは、プラスチックごみの収集に向け新規プロジェクトを進めている。すでに無料で収集しているペットボトルに加え、混合プラスチックを分別する袋を販売する予定だ。 swissinfo.ch

スイスでは、シングルストリーム・システムの普及よりも、有料のリサイクルシステム導入の方が現実的なようだ。

「理論的には、リサイクル資源も排出量に応じて料金を払うようになるかもしれない。いくら資源とはいえ、やはりゴミであり、処分には費用が発生する。スイスの廃棄物処理の現状では、焼却処分のほうがリサイクルよりも費用がかさむため、消費者にもリサイクルするメリットがある」と前出のヒュギ次長は述べた。

また、今ではスイスのリサイクルの質は非常に向上し、リサイクル率も高いという。「リサイクルできる物を分別し、資源ごみの集積所に足を運ぶことがスイスでは当たり前になった」

外部リンクへ移動

「シングルストリーム・リサイクル」は、米国やカナダの一部の地域では一般的なリサイクル方式。より多くの人が家庭ごみの中からリサイクル可能な資源を分別するよう考案された。しかし近年、リサイクルの質が低下した「ダウンサイクリング」や、不要なガラクタを何でも入れ、何とかなるだろうと期待する「ウィッシュサイクリング」が原因で、一部の自治体ではシングルストリームを廃止する動きが出ている。中国が2018年に外国ごみの輸入を禁止したこと受け、特にプラスチック廃棄物の市場が縮小したこともその一因だ。

スコットランドの首都エディンバラでは、「デュアルストリーム方式」でリサイクル資源の収集を行っている。ごみ箱は2種類あり、一つ目は古紙、段ボール、きれいにしたプラスチック、缶やブリキ用。もう一つはガラス、小型電気製品、電池(透明なビニール袋に入れる)、繊維や靴(これもビニール袋に入れる)用。

* アヴニール・スイス「リサイクリング:定義するのは方法ではなく目標(仮訳)」(独語)外部リンク

おすすめの記事
overflowing recycling bins

おすすめの記事

スイスのごみとリサイクル事情

このコンテンツが公開されたのは、 スイスの家庭から出るごみは一人当たり年間700キロを超える。世界的に見てもトップクラスの量だが、その半分以上はリサイクル回収されている。

もっと読む スイスのごみとリサイクル事情


(英語からの翻訳・シュミット一恵)

人気の記事

世界の読者と意見交換

swissinfo.chの記者との意見交換は、こちらからアクセスしてください。

他のトピックを議論したい、あるいは記事の誤記に関しては、japanese@swissinfo.ch までご連絡ください。

SWI swissinfo.ch スイス公共放送協会の国際部

SWI swissinfo.ch スイス公共放送協会の国際部