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スイスはなぜ食料インフレに強いのか

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スイスは「高物価の島」と言われる。ただ世界的に食品価格が高騰するなか、スイスは他国と比べるとあまり値上がりしていない。

欧州連合(EU)の昨年のインフレ率は前年比3倍の9.2%だったのに対し、スイスは2.8%だ。食品・ノンアルコール飲料の価格は、EUの11.9%に比べ、スイスは4%の上昇にとどまる。

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ウクライナでの戦争は小麦の世界供給に影響し、パスタなど主食の価格に打撃を与えた。ユーロスタット(欧州統計局)によると、本場イタリアでは昨年、パスタ価格の上昇率が17.2%に達した。一方、スイスではこれが11.2%にとどまった。 全体として、スイスは世界的な食糧危機をうまく乗り切った。スイスの食料自給率(カロリーベース)が50%程度であることを考えると、これはとりわけ驚くべきことだ。

では、なぜスイスではあまり食品価格が上がらないのだろうか。

コスト分配構造

理由の1つは、スイスの高物価(賃金や物流も含む)が、世界的な物価変動に対する緩衝材になっていることだ。

ドイツのシンクタンク、ベルテルスマン財団のトマス・シュワブ氏は「小売価格の大部分は物流、保管、賃金コストを含んでいるが、もともと物価の高いスイスではこれらの各要素の価格変動率が相対的に小さくなる」と説明する。

またスイスでは、食料生産にかかる固定費(機械、建物、土地、労働力など)が変動費(肥料、農薬、種子など)よりもはるかに高い。例えば、2017年の小麦1トン当たりの固定費は500フラン(約8万円)だったのに対し、変動費は200フランだった。ドイツは固定費、変動費がいずれも90フランだった。

価格規制

スイスが食料インフレに強いもう1つの理由は、多くの消費財価格が政府によって規制されていることだ。消費者物価指数(CPI)を構成する品目の4分の1以上が価格規制の対象になっている。これだけ多くの品目が規制対象になっているのは欧州でも例がない。つまり、多くの商品の価格が需要と供給に従って決まるわけではないことを意味する。

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動的な輸入関税

さらにスイスの輸入関税は、国内の生産量に連動して柔軟に変動する。これは特に農産物の輸入価格に大きな影響を及ぼす。

シュワブ氏は「生産余剰時には関税が高く設定されるため輸入量が減り、国際価格が国内価格に影響しにくくなる。国際価格が上昇すると、関税は引き下げられる」と説明する。

農業におけるエネルギー使用

最後に、エネルギー利用の国内構造も食料価格に影響する。

シュワブ氏は「農産物の生産・流通において、エネルギーは極めて重要なコスト要因だ。栽培から加工、輸送に至るまで重要な役割を果たす」と言う。

スイスの農業が直接エネルギー使用量に占める割合は2020年は0.6%だった。経済協力開発機構(OECD)平均は2%だ。このエネルギーコストの低さは、スイスのエネルギー市場の構造にある。国内電力供給会社の大半は地域の事業体で、自ら電力を生産するか、長期購入契約に基づいて電気を安価に購入している。これがエネルギー価格の安定につながっている。

「スイスでは独自のエネルギー市場構造が価格の上昇を抑えている。これが食料インフレ率の低さにつながっている」とシュワブ氏は言う。

コスト削減の余地

とはいえ、スイスの消費者も少なからず食品価格上昇の影響を受けている。

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パスタ、牛乳、食用油などの主食・油種は、ジャガイモ、魚の缶詰、ベリー類などに比べ打撃が大きい。

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買い物かごの中身を見直すタイミングなのかもしれない。

この記事は、消費者の視点から食品業界の発展を見たシリーズの一部。国土は小さいが、スイスは世界の食料市場において重要な位置を占める。スイスには、ネスレやシンジェンタなどの食品・農業大手、チョコレートや乳製品の大手企業が本拠地を置く。この国はまた、フードテック業界のハブ拠点を自負し、多くのスタートアップ企業や産学連携ネットワーク「スイス食品栄養バレー(SFNV)」を通じて業界を後押しもしている。大豆、ココア、コーヒー、パーム油などの食品を扱う多くの商品取引企業の中心地でもある。

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担当: Anand Chandrasekhar

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英語からの翻訳:宇田薫


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