スイス中銀のサプライズ利上げ 米欧に続く
スイス国立銀行(中央銀行、SNB)が2007年以来15年ぶりに利上げに踏み切った。米欧各国で金利に押し上げ圧力がかかっている。インフレを抑えるには利上げで十分なのか?
慎重な性格のSNBのトーマス・ジョルダン総裁にサプライズはあまり似合わない。だがインフレ率の上昇で、背に腹は代えられなくなったようだ。
スイスでは数カ月前から消費者物価上昇率がSNBの政策目標を上回り、足元では2.9%に達している。SNBが16日の理事会で15年ぶり利上げを決めたのはそのためだ。0.5%一気に引き上げ、マイナス0.25%とした。近い将来にプラス圏に引き上げる可能性も示唆した。
SNBの利上げは2つの理由からサプライズだった。1つは利上げ時期だ。クレディ・スイスのチーフエコノミスト、クロード・マウラー氏を始め、大半の市場関係者は最初の利上げは秋以降だと見込んでいた。もう1つは利上げ幅で、0.5%ほどの引き上げは22年ぶりとなった。SNBは恐らく、強く対応しなければスイスのインフレに歯止めが効かなくなると考えたのだろう。中銀は通常、利上げは0.25%ずつ行っていく。
米国でも1994年以来の利上げ幅に
利上げ幅の大きさに関しては、スイスには力強い仲間がいる。米連邦準備制度理事会(FRB)は15日、政策金利を0.75%引き上げた。1994年以来の引き上げ幅だ。
94年当時のアラン・グリーンスパン議長は、大幅利上げの理由としてその前の利上げが遅すぎたことを挙げた。
今回の利上げでも似たような説明がされた。ジェローム・パウエル現議長は、インフレのダイナミックをあまりに長いこと過小評価していたことを率直に認めた。米国のインフレ率は8.6%と、1981年以来の高さに達し、現在米国民の最大の不安材料となっている。FRBは年末の政策金利を3.5%前後と見積もる。政策金利であるフェデラルファンド金利の誘導目標は現在1.5~1.75%。
欧州は様子見
欧州中央銀行(ECB)は目下様子見を決め込んでいる。クリスティーヌ・ラガルド総裁は5月、ブログで7月の利上げを予告し、市場を驚かせた。今月9日の理事会では、7月の次回会合で0.25%の利上げを実施すると公言。これらの約束をラガルド氏が覆すことはなさそうだ。
さらに9月にも0.25%引き上げると予告している。ユーロ圏のインフレ率が8.1%に、エストニアでは20.1%にも上ることを踏まえると、7月に0.5%引き上げる可能性も取り沙汰される。ユーロ圏の政策金利はマイナス0.5%と、今やスイスを下回り世界最低だ。
英国は2ケタのインフレ率も
英イングランド銀行(BOE)も16日、政策金利を0.25%引き上げ1.25%とした。同時にインフレ見通しもさらに引き上げ、来年は最大11%に達するとみる。さらにインフレと不況が同時進行する「スタグフレーション」も警戒している。
一方、それほどのインフレ圧力にさらされていない様子なのが日銀だ。インフレ率は目標の2%をわずかに上回る程度で、これまで長年低インフレと戦ってきた。要因の1つは人口の高齢化だ。16~17日の金融政策決定会合でもマイナス0.1%の政策金利を据え置き、声明で「金融・為替市場の動向や、その我が国経済・物価への影響を十分注視する必要がある」と明記した。
インフレはどうなる?
各国中銀の利上げがインフレ対策に十分かどうかは未知数だ。中銀の見通しは楽観的で、遅くとも2023年半ばには明確に低水準に落ち着くとみる。
ただ中銀の見通しは必ずしも正確ではない。FRBは昨年12月の時点で、22年にはインフレが収まると見込んでいたが、それは誤りだった。先週の利上げラッシュでも明らかになったことがある。中銀幹部は個々の利上げでは足りないことが分かっていても、インフレリスクを真剣に受け止めている。ラガルド氏は9日の記者会見で、「7月の利上げはインフレに直接影響をもたらすと期待できるか?答えは否だ」と述べた。「我々を待っているのは一歩ではなく、旅だ」
※筆者のファビオ・カネッジ氏はベルン大学とトゥールーズ・スクール・オブ・エコノミクスで金融政策の博士号を取得。swissinfo.chで金融政策に関するポッドキャスト「Geldcast外部リンク」を配信中(ドイツ語・英語)。
(独語からの翻訳・ムートゥ朋子)
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