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責任を放棄するスイス中央銀行

Fabio Canetg

スイス国立銀行(中央銀行、SNB)は新型コロナ危機が始まって以来、政治的要求の高まりに直面している。中銀に約束されている独立性は、経済を支えるための措置を取らなくてよいという意味ではなく、その反対だ。

中銀幹部にとってその要求に応えるのは容易ではない。毎週新しいことが求められるからだ。

最も代表的なのはヤン・エグベルト・シュトゥルム氏とアレクサンダー・ラトケ氏(ともに連邦工科大学チューリヒ校景気調査機関=KOF)とダニエル・カウフマン氏(ヌーシャテル大学)の提案だ。金利を動かす余地が限られているにも関わらず、SNBには景気を支える義務があると指摘する。

適切な手段として、シュトゥルム氏らは社会保障分野を引っ張り出してきた。SNBが失業保険制度にお金を入れれば、全ての労働者の収入源を抑えることができ、利下げと同じように幅広い効果があると唱えた。

SNBの反応はいつも通りだった。中銀の「独立性」を持ち出したのだ。中銀が経済の落ち込みに対して何ができるかという議論を一蹴する論法だ。

ここで1つの疑問が湧きあがる。中銀の独立性は何のために与えられているのか?

1980年代の遺産

その答えを知るために、1980年代を振り返ってみよう。当時、中銀はインフレ率の上昇に対し「並み」以上に行動するべきだ、という考え方が強かった。それ以降の理論的研究(※)では、繁栄の確保には「保守的な中央銀行」が最適だという結論が示された。金利は低すぎるよりは高すぎる方が良い、というのが真理とされた。

中銀は法的な独立という形で、必要に応じて自由に行動する権利を得た。これにより、通貨の番人である中銀が、国民に人気のない手段であっても政府の干渉を受けずにインフレの芽を摘むことができるようになった。

新しい出発点

今や高いインフレ率を心配する必要はほとんどなくなっている。それどころか2009年以降、スイスの平均インフレ率はマイナス圏にあり、決して厳しくはない政策目標の0~2%から外れている。

だからといってSNBの独立性が重要でなくなったわけではない。今も当時と同じように、中銀の独立性によりNSBはその義務を果たすことができる。特に不人気の政策が必要な場合は、独立性が求められる。

中銀の独立性は今、以前とは対照的に「緩やかな金融政策」を実施する自由に関係する。マイナス金利政策はSNBが取っている政策のなかでもとりわけ人気が低い。輸出産業を守るため、2015年に政策金利がマイナス0.75%に引き下げられた。

危険にさらされた独立?

だが過去数十年で最も急激な景気減速への対処としては、それだけでは不十分だ。これまでに191万人もの労働者が操業短縮制度の適用を受けた。SNBが独立性を盾に景気刺激策の提案を拒否し続ければ、法で定められた使命を軽んじることになろう。

独立性は決してSNBを義務から解放するものではない。このため学界からの提案は、ふさわしい場合もそうでない場合もある。いずれにせよSNBの目標と目指すところは同じで、中央銀行の独立性を脅かすものではない。

中央銀行には効果的な対策を講じることが求められる。提案者が誰か、賛同者が誰かは関係ない。

ファビオ・カネッジ外部リンク氏はSNBの研究組織「グレンツェンゼー研究所」に属する経済学者(金融政策)。swissinfo.chドイツ語版で金融政策に関するポッドキャストを配信している。

参考文献:ケネス・ロゴフ(1985年)「The Optimal Degree of Commitment to an Intermediate Target」、Quarterly Journal of Economics、 100(4)、1169-90

(独語からの翻訳・ムートゥ朋子)

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