物価高騰を抑えるため、スイス国立銀行(中央銀行)は為替政策の修正を余儀なくされている
© Keystone / Ti-press / Alessandro Crinari
スイス国立銀行(中央銀行、SNB)の外貨購入が衰えている。根強いフラン高は輸出企業にとって痛手だが、インフレ抑制には通貨高を容認するしかないためだ。
このコンテンツが公開されたのは、
2022/07/12 10:30
SNBが今年1~3月に外国為替市場で購入した外貨は57億フラン(約8千億円)相当と、前の期の126億フランから減少した。
SNBの外貨買い・フラン売り介入は年々規模が縮小している。21年通年では211億フランと、コロナ禍が深刻だった20年の1100億フランを大きく下回った。
5月末時点の外貨準備高外部リンク は9590億フランと、21年末の9660億フランからやや減った。
SNBは先月16日、インフレ率の急進に備えて政策金利をマイナス0.75%から0.25%に引き上げた。トーマス・ジョルダン総裁は同日、「現在の環境は、為替相場の動きを踏まえても不確実性が大きい。フランが過度に上昇した場合には外貨を購入する構えだ。だがフランが下落すれば、外貨の売却も検討する」と述べた。
「SNBは成り行きを注意深く観察し、スイスの物価が中期的に安定するようあらゆる状況で必要な措置を講じる」
その後、フランは対ユーロで緩やかな上昇を続けている。市場関係者は、SNBがインフレ抑制に政策転換したことを反映した値動きだとみる。
インフレ率は約30年ぶりの高さに
スイスのインフレ率は他国に比べ低かったが、ここへきてじわじわと上がりつつある。5月の消費者物価指数(CPI)上昇率は総合で前年比3.4%と、燃料高を背景に1993年以来の高さに達した。SNBは2022年通年のインフレ率見通しを2.9%と、3月時点の2.2%から引き上げている。
米国の8.6%や英国の9%超と比べると、スイスの物価上昇は抑えられている。フラン高が輸入物価の上昇を一部相殺するためだ。
クレディ・スイスはSNBが年内に再度利上げし、「外貨買い介入を停止する可能性が高い」と指摘する。「ただフラン相場が実質的に上昇しない限り影響は限られるため、為替介入でインフレを抑えることは現実的ではないとみている」。1ユーロ=0.80フラン前後にフランが下落しない限り、インフレ率を2%未満に抑えることはできないという。
同社はSNBが最後に外貨準備を売却したのは2019年末で、1ユーロ=1.04フランを上回ってフラン高が進むと再びフラン売り介入に踏み込む可能性があると分析する。
一方、フラン高はスイスの輸出企業や観光業界にとっては重荷になる。
英語からの翻訳:ムートゥ朋子
おすすめの記事
連邦内閣、マルティン・シュレーゲル氏をスイス中銀新総裁に任命
このコンテンツが公開されたのは、
2024/06/27
連邦内閣はスイス国立銀行(SNB、中銀)の新総裁に予想通りマルティン・シュレーゲル副総裁を任命した。ペトラ・チュディン氏が新たな理事会メンバーとなる。
もっと読む 連邦内閣、マルティン・シュレーゲル氏をスイス中銀新総裁に任命
おすすめの記事
職場のワンコ、従業員の満足度を向上 スイス調査
このコンテンツが公開されたのは、
2024/06/26
犬は職場の雰囲気を良くし、飼い主だけでなく他の従業員にとっても良い影響を与える――スイスの労働者を対象に実施された調査は、職場に犬がいることの効用を強調する。
もっと読む 職場のワンコ、従業員の満足度を向上 スイス調査
おすすめの記事
スイスのアラン・ベルセ元内相、欧州評議会の事務総長に当選
このコンテンツが公開されたのは、
2024/06/26
25日に開かれた欧州評議会(本部・仏ストラスブール)総会で、スイスのアラン・ベルセ元内務相(52)が新事務総長に選出された。スイス人が同ポストに就くのは初めて。
もっと読む スイスのアラン・ベルセ元内相、欧州評議会の事務総長に当選
おすすめの記事
スイスでよくある賃貸住宅トラブルQ&A
このコンテンツが公開されたのは、
2024/06/25
スイスでは賃貸物件に住む人は人口の約6割と多く、欧州でもトップクラスだ。賃貸物件でトラブルが起きたらどうすればいいのか?スイスの賃貸法上のルールを解説する。
もっと読む スイスでよくある賃貸住宅トラブルQ&A
おすすめの記事
スイスの出生率1.33、過去最低を更新
このコンテンツが公開されたのは、
2024/06/20
スイス連邦統計局は20日、2023年の人口動態統計の確定値を発表し、2023年の合計特殊出生率は1. 33と、過去最低を更新したことがわかった。前年の1.39から最低水準を2年連続で更新した。
もっと読む スイスの出生率1.33、過去最低を更新
おすすめの記事
スイス中銀、1.25%に利下げ
このコンテンツが公開されたのは、
2024/06/20
The Swiss National Bank is lowering its key interest rate once again, from 1.5% to 1.25%, due to a fall in underlying inflationary pressure.
もっと読む スイス中銀、1.25%に利下げ
おすすめの記事
少年への有罪判決が増加 公務執行妨害・性犯罪など
このコンテンツが公開されたのは、
2024/06/19
スイス連邦統計局は18日、2023年に少年に対して下された有罪判決は2万3080件と、前年比11%増えたと発表した。特に15歳未満の犯罪は長期的に増加傾向にある。
もっと読む 少年への有罪判決が増加 公務執行妨害・性犯罪など
おすすめの記事
スイスが冒した「稀有なリスク」 平和サミットの舞台裏
このコンテンツが公開されたのは、
2024/06/18
世界中から100の代表団がスイスに集結した「ウクライナ平和サミット」。実行委員会トップとして参加国の招待や共同声明の草案作りを担ったスイス外務省のガブリエル・リュヒンガー氏が舞台裏を振り返った。
もっと読む スイスが冒した「稀有なリスク」 平和サミットの舞台裏
おすすめの記事
スイスでマイホームが賃貸よりお得に
このコンテンツが公開されたのは、
2024/06/12
スイスでは住宅ローン金利の低下と家賃上昇により、2025年初めには不動産を賃貸するより購入した方が安上がりになる――こんな見通しを銀行最大手UBSが発表した。
もっと読む スイスでマイホームが賃貸よりお得に
おすすめの記事
ジュネーブ住民投票、介護施設や病院での自殺ほう助を維持
このコンテンツが公開されたのは、
2024/06/10
ジュネーブの有権者は9日の住民投票で、高齢者介護施設や病院での自殺ほう助の選択肢を狭める保健法改正案を76.56%の反対で否決した。
もっと読む ジュネーブ住民投票、介護施設や病院での自殺ほう助を維持
続きを読む
次
前
おすすめの記事
スイス中銀が利上げ、15年ぶり
このコンテンツが公開されたのは、
2022/06/16
スイス国立銀行(中央銀行、SNB)は16日、政策金利の引き上げを決めた。国内経済へのインフレ圧力を防ぐためで、利上げは15年ぶり。
もっと読む スイス中銀が利上げ、15年ぶり
おすすめの記事
スイス中銀のサプライズ利上げ 米欧に続く
このコンテンツが公開されたのは、
2022/06/21
スイス国立銀行(中央銀行、SNB)が2007年以来15年ぶりに利上げに踏み切った。米欧各国で金利に押し上げ圧力がかかっている。インフレを抑えるには利上げで十分なのか?
もっと読む スイス中銀のサプライズ利上げ 米欧に続く
おすすめの記事
スイス中銀が検討するマイナス金利の「適切な解除方法」とは
このコンテンツが公開されたのは、
2019/01/30
スイス国立銀行(中央銀行、SNB)の金融政策に対する国内の批判は年々強まっている。なかでも2015年に金利引き下げ競争の一環で導入されたマイナス金利政策は、多くの経済学者が非合理的な政策と糾弾する。だが拙速な利上げもリスクを伴う。首尾よく利上げを成功させる方法はあるのか?
もっと読む スイス中銀が検討するマイナス金利の「適切な解除方法」とは
swissinfo.chの記者との意見交換は、こちらからアクセスしてください。
他のトピックを議論したい、あるいは記事の誤記に関しては、japanese@swissinfo.ch までご連絡ください。